2026年9月18日

風邪のひきはじめの「葛根湯」に、重い皮膚の副作用が追記されました
2026年8月25日、厚生労働省から医薬品の「使用上の注意」を改訂するよう指示が出され、葛根湯(かっこんとう)の「重大な副作用」に「多形紅斑(たけいこうはん)」という皮膚の症状が追記されました。
対象になったのは、病院で処方される医療用の葛根湯エキス製剤(複数のメーカーの計12製品)だけではありません。ドラッグストアで買える市販の葛根湯についても、注意書きが追記されています。お子さん向けの製品も含まれます。
ただし、最初にはっきり申し上げておきます。
これは「葛根湯を飲むのをやめてください」というお知らせではありません。 頻度としては、まれな副作用です。
大事なのは、「まれだが起こりうる」ということと、「もし起きたら、どのサインで気づけばいいか」を知っておくことです。この記事では、その2点をお伝えします。
そもそも葛根湯は、いつ飲む薬なのか
本題に入る前に、外来でよくある誤解をひとつ整理させてください。
葛根湯は、「風邪のひきはじめ」に、短期間だけ使う薬です。
目安になるのは、
- ゾクゾクとした寒気がある
- 汗が出ていない
- 首すじや肩、背中がこわばる
- 熱が出始めたばかり
——という段階です。
逆に、すでに汗をかいている段階、こじれて数日たった段階では、葛根湯の出番はほぼ終わっています。 「風邪といえば葛根湯」と、ひきはじめを過ぎても飲み続けたり、予防目的で毎日常用したりする使い方は、本来の使い方ではありません。
薬である以上、飲む期間が長くなれば、副作用に出会う機会もそれだけ増えます。「効く場面で、短く使う」——これが葛根湯といちばん上手に付き合う方法です。
「多形紅斑」とは、どんな症状か
今回追記された多形紅斑は、皮膚に円形から楕円形の赤い斑が、手足や体に多数あらわれるものです。斑の中心が濃く、輪のように見えることから「標的のような形」と表現されます。
多くは自然に治まりますが、重症になると、赤くなった部分に水ぶくれができ、口の中や目などの粘膜にも症状が出て、高熱を伴うことがあります。この重症の段階に進むと、入院が必要になることもあります。
市販の葛根湯の注意書きに追記された文言は、まさにこの「重症化のサイン」を指しています。原文はこうです。
皮膚が広い範囲で赤くなる、水疱が皮膚の赤い部分にあらわれる、高熱、のどの痛み等が持続したり、急激に悪化する。
数字を、正しく読んでください
ここがいちばん誤解されやすいところなので、丁寧にお伝えします。
今回の改訂の根拠になったのは、国内で集まった6例の報告です。そのうち4例について、「葛根湯との因果関係が否定できない」と評価されました。死亡された方はいません。
葛根湯は、日本でもっとも多く使われている漢方薬のひとつです。医療機関で処方される数に、市販薬として買われる数を足せば、年間に飲まれている量は膨大なものになります。そのなかでの6例です。
つまりこれは、「葛根湯は危険な薬だと分かった」という話ではありません。「非常にまれだけれども、起こりうることが確認されたので、あらかじめ注意書きに書いておきましょう」という手続きです。医薬品の安全性は、こうして発売後もずっと監視され、新しい情報が出るたびに更新されていきます。
むしろ、こういう改訂がきちんと行われている、ということのほうが安心材料だと私は考えています。
こんな症状が出たら、いったん中止してご相談ください
そのうえで、覚えておいていただきたいサインです。葛根湯を飲み始めてから、
- 皮膚が広い範囲で赤くなってきた
- 赤くなったところに、水ぶくれができた
- 高熱が出た/下がらない
- のどの痛みが続く、または急に悪くなった
- 口の中がただれる、目が充血する、まぶたが腫れる
こうした症状があれば、いったん服用を中止して、医療機関にご相談ください。
ひとつ、判断が難しい点をお伝えしておきます。風邪そのものでも、熱やのどの痛み、ときに発疹が出ることがあります。 ですから「これは薬のせいだ」とご自分で見分けようとしなくて構いません。迷ったら中止して受診する——それで十分です。飲むのを一度やめたところで、困ることは何もありません。
受診されるときは、飲んでいた薬(市販薬も含めて)の箱や説明書、お薬手帳をお持ちください。 いつから飲み始めたか、何日目に症状が出たかが分かると、判断がぐっと早くなります。
市販の葛根湯を常備されている方へ
今回、市販薬も対象になっている点は、とくにお伝えしたいところです。
市販薬は、医師も薬剤師も経由せずに飲み始められます。だからこそ、ご自宅の薬箱に入っている葛根湯を、飲む方ご自身が知っておく必要があります。
- お子さん向けの葛根湯製品も対象に含まれています。 お子さんは症状をうまく言葉にできません。皮膚の様子は、保護者の方が見てあげてください。
- 家族で同じ薬を使い回すのは避けてください。年齢や体格、持病によって、適した量も適否も変わります。
- 「前に効いたから」と、古い薬を長く置いて使い続けないでください。
「漢方は自然のものだから副作用がない」について
外来でいちばん根強い誤解が、これです。
漢方薬は、植物や鉱物などの生薬を組み合わせた薬です。「自然だから安全」なのではなく、「作用があるから、副作用もありうる」——西洋薬とまったく同じ構造です。
葛根湯に限っても、注意しておきたい成分が2つあります。
● 麻黄(まおう) エフェドリンに近い成分を含みます。動悸、不眠、血圧の上昇、排尿しにくさなどが出ることがあります。高血圧や心臓の病気のある方、前立腺肥大のある方、ご高齢の方では、とくに注意が必要です。
● 甘草(かんぞう) 量が多かったり長く続いたりすると、むくみ、血圧上昇、血液中のカリウム低下、体のだるさや脱力(偽アルドステロン症)が起こることがあります。甘草は非常に多くの漢方薬に含まれているため、複数の漢方薬を併用すると、知らないうちに量が重なります。
ほかの処方でも、たとえば黄芩(おうごん)を含む漢方薬では、肝障害や間質性肺炎が知られています。
だからこそ、市販の漢方薬を飲んでいることも、受診のときに必ずお伝えください。 「市販薬だから言わなくていい」「漢方だから関係ない」ということは、ありません。
おわりに
私は漢方を日常的に使う医師です。だからこそ、良い面だけでなく、注意すべき点も同じ熱量でお伝えしたいと思っています。
葛根湯は、使いどころを選べば、とても頼りになる薬です。今回の改訂は、その信頼を損なうものではなく、より安全に使うための情報が1つ増えたということです。
気になる症状や、飲み合わせのご心配があれば、遠慮なくご相談ください。
この記事の根拠について
本記事は、2026年8月25日付の厚生労働省「使用上の注意」改訂指示(医薬安発0825第1号/医薬薬審発0825第5号)に基づいています。
情報の性質: これは臨床試験の結果ではなく、販売後に集まった副作用報告(市販後安全性情報)に基づく規制上の措置です。「6例」という数は報告された症例数であり、発生頻度を示すものではありません。頻度は不明ですが、使用量の多さから見て、きわめてまれと考えられます。
出典
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「使用上の注意の改訂指示」(2026年8月25日) https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/revision-of-precautions/0375.html
- PMDA 改訂通知(PDF) https://www.pmda.go.jp/files/000282256.pdf
- 厚生労働省 一般用医薬品 改訂別紙(2026年8月25日) https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260825I0010.pdf
- クラシエ「『使用上の注意』改訂のお知らせ」(2026年8月25日/追記文言の原文) https://www.kracie.co.jp/release/10193533_3833.html
- ケアネット(2026年8月27日) https://www.carenet.com/news/general/carenet/63493
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介