ピロリ菌
Helicobacter Pylori
ピロリ菌
Helicobacter Pylori
正式な名称は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)と呼ばれる細菌で、らせん状の形状をしています。通常胃のなかにいる菌は胃酸で死んでしまいますが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を発生するので、生き延びることができます。
ピロリ菌は基本的に口から感染するといわれています。また、感染は衛生環境と関連するため、現在は感染する機会は減ってきていると考えられています。日本人のピロリ菌の感染者はおよそ60歳以上の人で感染している割合が高いとされています。
ピロリ菌に感染すると胃に炎症を起こします。胃・十二指腸潰瘍の患者さんの約90%がピロリ菌が原因で胃・十二指腸潰瘍になっています。ピロリ菌を除菌すると胃・十二指腸潰瘍の再発率は著しく下がります。また、胃がんとの関連も指摘されています。
ピロリ菌の感染経路に関しては、今のところはっきりとはわかっていませんが、経口感染するのではないかと考えられています。具体的には、ピロリ菌に感染している大人から赤ちゃんに口移しで食べ物を与える、糞便に汚染された食物・水の摂取などが考えられます。
また、衛生環境がピロリ菌感染に関係していることがわかっており、感染率は発展途上国で高く、先進国で低くなっています。日本においては70歳以上の80%が感染しているとされていますが、衛生環境の改善に伴い若年層の感染率は減少傾向にあり、20代以下の感染率は10%以下といわれています。
また、ピロリ菌に感染する時期としては、ほとんどの場合、免疫機構が十分に発達していない0歳から5歳までの乳幼児期に感染すると考えられています。
ピロリ菌感染そのものによる症状というものは、ほとんどありません。ピロリ菌に感染するとほとんどの人では慢性的な胃炎が起こりますが、胃炎そのものは症状を起こしません。むしろピロリに感染していない人のほうが、胃酸過多となり胸やけや胃もたれを感じること多いと思います。ただし、以下の症状を伴うことがあります。
・胃潰瘍や十二指腸潰瘍ができるとおなかがきりきりと痛くなる
(特にみぞおちあたりが空腹時に痛くなります)
・胃がんになると食べるとすぐお腹がすぐにいっぱいになる、体重が減る、貧血になる、ふらつく
いわゆる「胃の調子が悪い」といっても必ず病気があるわけではなく、逆に「症状が出ない」場合でも、胃がんが密かに進行している場合もあり得るのです。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍、慢性萎縮性胃炎のほとんどはピロリ菌が原因で起こります。ほかにもmaltomaという胃のリンパ腫や、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の中にもピロリ菌が原因となっているものがあります。
ピロリ菌が住んでいるかどうか知りたいという方も多くいらっしゃいますが、ピロリ菌のみの検査では保険適用となりません。
現行の保険診療のル-ルでは、まず初回は自覚症状により胃カメラ検査を行い慢性胃炎所見のある方しかピロリ検査を行うことはできません。また、検査の回数や期間についてもガイドラインに基づいた制約があります。
それでは、どのような検査方法があるのか代表的なものをご紹介いたします。
ピロリ菌の検査では、胃カメラを使うものと使わないものの2種類があります。
ピロリ菌の検査の注意点ですが、LG21ヨーグルトや胃酸を抑える薬(プロトンポンプインヒビターまたはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)を飲んでいると、陽性でも陰性と出てしまうことがあります。これを偽陰性といいます。
(1)胃カメラを使用する検査
・迅速ウレアーゼ試験
内視鏡を使い、胃の粘膜組織を採取し、ピロリ菌の持っているウレアーゼという尿素を分解する酵素の活性を利用して調べます。
・鏡検法
胃粘膜の組織標本に特殊な染色をして、ピロリ菌を顕微鏡で直接確認します。
・培養法
胃の粘膜組織を採取し、それを5~7日培養して判定します。
(2)胃カメラを使用しない検査
・抗体検査
人は菌に感染すると、体内に「抗体」を作り出します。ピロリ菌に感染した時にも「抗体」が作られますので、この抗体の有無を調べることで感染の有無を調べます。抗体価は、除菌後も数年は高値を持続するため、除菌判定には向きません。除菌前に感染の有無を調べるときに使用します。
・尿素呼気試験
もっとも精確な検査と考えられています。容器に息を吹き込んで呼気を調べる方法です。特殊な尿素製剤である試験薬を服用し、服用前後の呼気を集めて診断します。ピロリ菌の持つウレアーゼにより、尿素が二酸化炭素とアンモニアに分解されますが、その時に発生した炭酸ガスが呼気中にどの程度含まれているかにより判定する方法です。この検査は、ピロリ菌の有無だけでなく、除菌の効果判定にも使用される、精度の高い検査方法です。
・抗原法
糞便中のピロリ菌の抗原の有無を調べる方法です。尿素呼気検査と同様ピロリ菌の有無だけでなく、除菌の効果判定にも使用される、精度の高い検査方法です。
ピロリ菌検査は、以下を対象として検査する場合に保険適用となります。
・内視鏡(胃カメラ)又、造影検査後において胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍が確定した場合
・胃MALTリンパ腫
・特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
・早期胃がんに対する内視鏡的治療後
ピロリ菌の治療では、3種類の薬を服用し、一週間飲むと70~80%の人が除菌できます。治療は上記疾患の患者さまを対象に、以下の流れで行います。
(1)一次除菌療法
1種類の「胃酸を抑える薬(プロトンポンプインヒビターまたはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)」と2種類の「抗生物質(クラリスロマイシンとアモキシシリン)」の合計3錠を同時に1日2回、7日間服用します。2種類の抗生物質を使用するため、下痢の副作用を最も多く認めます。ペニシリンアレルギーがある方は、アモキシシリンが使用できないため、自費の3次除菌に使用される抗生物質で除菌治療を行う必要があります。
(2)二次除菌療法
一次除菌療法と同じ1種類の「胃酸を抑える薬(ポロトンポンプ阻害薬またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)」と2種類の「抗生物質(クラリスロマイシンとメトロニダゾール)」の合計3錠を同時に1日2回、7日間服用します。
ピロリ菌に耐性ができていて一次除菌療法でも除菌できない場合、二次除菌療法で他の抗生物質を使用して除菌を行うことができます。
除菌ができたかを判定には、胃カメラを受ける必要はありません。尿素呼気試験や便中ピロリ抗原で正確に判定できます。
ただし、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などでは潰瘍の治癒も確認する必要があるため、再度胃カメラを受けて頂く場合もあります。