逆流性食道炎とは、強い酸性の胃液や胃で消化される途中の食物が、食道に逆流して、食道が炎症を起こし、胸やけや胸の痛みなどさまざまな症状が生じる病気です。逆流性食道炎は、戦後の衛生環境の改善ともなって、ヘリコバクターピロリ感染が減ったこと、また、食生活の変化などによって、最近は若い人にもよくみかける病気になりました。週１回人間ドックで胃カメラの仕事に従事していますが、30歳台の男性にでも逆流性食道炎だけでなくバレット食道（食道癌になりやすい変化）を認める場合もあります。

胃酸の分泌量増加に、胃酸の逆流が起こりやすい要素が加わることが関連していると考えられています。

 

(1)胃酸分泌の増加を引き起こす要因

・食生活の変化

食の欧米化により、肉を多く摂取するようになりました。肉は魚に比べ消化に胃酸を多く必要とするため、分泌量増加の要因になりやすいです。

 

・ピロリ菌感染率の低下

ピロリ菌をそのままにすると、胃の粘膜の萎縮を引き起こし胃酸の分泌が低下します。日本では衛生環境の改善や除菌治療の普及によって、ピロリ菌の感染率は大幅に低下しています。感染率の低下に伴い、胃酸の分泌が増加していると考えられます。

 

・塩分摂取量の減少

日本人の塩分摂取量減少も、胃酸の分泌増加に関係していると考えられています。

 

(2)胃酸の逆流が起こりやすくなる要因

加齢などにより背骨が曲がり、前かがみになる結果、腹圧が上昇することが挙げられます。また脂肪の摂取量が多いと、食道下部の括約筋を緩めるコレシストキニンという物質が分泌されます。この他、食道裂孔ヘルニアなどの関連性も報告されています。

 

また、一時的な逆流に伴う粘膜の炎症やストレスなどによって、食道の過敏性を異常に高めてしまうこと(知覚過敏)が、逆流性食道炎の症状発生に大きな役割を果たしているとの報告もあります。

逆流性食道炎の症状は非常に多彩です。内視鏡検査で逆流性食道炎の所見を認めてもまったく無症状な方もいれば、内視鏡検査では僅かな炎症所見でも、胸焼けやのどの違和感などを自覚される方もいます。代表的には、以下の症状があります。

 

• 胸やけ

胃液などが食道に喉のほうに逆流して、胸やけや胸が締め付けられるような痛みが生じます。

 

• 呑酸

酸っぱい液体が喉や口まで上がってきてゲップがでます。

 

• 口内炎、のどの痛み

逆流した胃液で、のどや口腔内に炎症が起こり、ひどくなると食べ物が飲み込みづらくなったり、声がかれたり、口内炎が多発したりすることもあります。

 

• 咳

逆流した胃液がのどや気管支を直接刺激したり、食道を介して刺激が伝わったりし、咳を引き起こすため、喘息とよく間違えられます。

 

(5)その他

何となく胸部の違和感・不快感、のどの違和感など非常に多彩な症状を起こすことがあります。

 

問診により自覚症状を詳細に把握するとともに、内視鏡検査により食道・胃の状態を観察します。

 

(1)問診

患者さんの自覚症状を把握することは非常に重要です。QUEST問診票やFスケール問診票などを用いた問診では、およそ60～70%の診断が可能であるといわれています。

 

(2)内視鏡検査

食道における炎症の程度や範囲の詳細を調べるとともに、他の病気との鑑別を行います。必要に応じて、食道の病変を採取し、病理検査を行います。

 

(3)PPIテスト

自覚症状があるものの内視鏡検査で異常がみつからない、もしくは内視鏡検査の実施が困難である場合には、胃酸の分泌を抑制する効果のあるプロトンポンプ阻害薬（PPI） を用いたPPIテストが実施されます。これはプロトンポンプ阻害薬を1週間程服用し、胸やけなどの自覚症状が改善されるかどうかを試す方法です。

治療には生活指導、薬物療法、外科的治療があります。

 

(1)生活指導

食後逆流しにくいように、すぐ横にならないことや、腹圧の上がるような前かがみの姿勢を避けたりすることで、ある程度の予防・治療が可能です。逆流性食道炎用の上半身を高くするクッションが通販でも入手可能です。また、逆流を起こしやすい食品として下記のものがあり、食生活の改善などの生活習慣を変えることも重要になります。

※逆流を起こしやすい食品例

香辛料を多く使った料理（インド料理や韓国料理）、炭水化物(パンやカレーライスなど)、アルコール、コーヒー(特にブラック)、炭酸飲料、たばこ、油もの、甘いもの

 

(2)薬物療法

現在では逆流性食道炎の治療は、薬物療法による治療が主となります。治療に使用される内服薬は、胃酸の分泌を抑える薬剤や、胃や食道の食べ物を送り出す運動を改善する消化管運動改善薬（六君子湯やモサプリドなど）があります。この中でも、胃酸の分泌を抑制するものは治療効果が高いと報告されています。また、消化管運動改善薬剤も酸分泌抑制剤と併用することで治療効果が上がることが報告されています。現在の重症度・症状や他の疾患などを考慮して、治療ガイドラインに従って治療をすすめていきます。

 

(3)外科的治療

薬物治療の効果が乏しい場合や、食道炎が重症化して、食道が狭くなったり、出血を繰り返したりするような方には、手術により逆流を防止する治療が行われることがあります。手術適応（手術により改善が得られる可能性が高いかどうか）を判断するためには、食道・胃pHモニタリング検査（小型のpHセンサー付きのカテーテルを鼻から挿入して、食道・胃のpHを24時間記録する測定検査）や食道内圧検査といった精密検査が必要となります。

ただし侵襲の強い治療法であり、外科的な治療適応になる症例はまれです。十分な内科的治療が行われた後に検討されます。