いびきの原因とその治療法について
いびきの原因とその治療法について
はじめに
いびきは、睡眠中に気道が狭くなり、軟部組織が振動して発生する音で、成人の約40%が経験するとされる一般的な現象です(WHO)。
しかし、単なる騒音ではなく、生活の質(QOL)低下や睡眠時無呼吸症候群(SAS)の兆候である場合があり、健康リスクを伴います。
日本人で習慣的にいびきをかく人の中で、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)の疑いがある人は約900万人(AHI≧15回/時)以上いると言われています。
いびきに悩む場合、自己判断せず、耳鼻咽喉科や睡眠外来での専門的診断をおすすめします。
いびきのメカニズム
いびきは、睡眠中の筋肉弛緩により、軟口蓋、口蓋垂(のどちんこ)、舌根が喉の奥に落ち込み、気道が狭くなることで生じます。
空気が狭い気道を通る際、乱流が発生し、組織が振動して「ガーガー」などの音を発します。
鼻呼吸が主ですが、鼻づまりによる口呼吸は振動を増大させ、いびきを悪化させます。
軽度の単純いびきから、呼吸停止を伴うSASまで、程度は多岐にわたります。
いびきの主な原因
いびきの原因は、解剖学的要因、生活習慣、生理的要因、環境要因に分類され、複合的に作用します。
- 解剖学的・身体的要因
- 肥満: 首周りの脂肪が気道を圧迫。BMI25以上でリスクが2倍以上に(研究報告)。
- 扁桃・アデノイド肥大: 小児や若者に多く、気道を物理的に狭窄。
- 鼻・喉の構造異常: 鼻中隔湾曲症、慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎が鼻づまりを招き、口呼吸を誘発。軟口蓋・口蓋垂の長大、舌根沈下、下顎後退(小顎症)も原因。
- 加齢: 50歳以上で筋肉のハリが低下、気道支持力減少。閉経後女性はホルモン変化でリスク増。
- 性別: 男性は気道が狭くリスク高。閉経後女性も増加。
- 生活習慣・生理的要因
- 飲酒: 就寝前4時間の飲酒が筋弛緩を促進、気道閉塞を悪化。
- 喫煙: 粘膜の炎症・むくみで気道狭窄。喫煙者は非喫煙者の1.5倍リスク高。
- 睡眠姿勢: 仰向けで舌根が落ち込み、気道閉塞。
- 疲労・睡眠不足・ストレス: 筋弛緩を強め、不規則生活が肥満や飲酒を誘発。
- 薬剤: 睡眠薬や精神安定剤が筋弛緩を助長。
- 疾患: SAS、鼻炎、副鼻腔炎が関与。
- 環境・その他の要因
- 寝室環境: 湿度40%未満や22度以上の高温で鼻・喉が乾燥、鼻づまり悪化。
- アレルギー・風邪: 一時的または慢性の鼻づまりで口呼吸増。
これらが重なると、単純いびきからSASへ進行し、健康リスクが高まります。
いびきの影響
本人への影響
- 睡眠の質低下: 熟睡できず、日中の眠気、集中力低下、仕事・学習効率低下。
- 健康リスク(特にSAS): 呼吸停止による酸素不足で高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、うつ病、EDのリスクが1.5〜2.5倍に。交通事故や労働災害の危険も増。
周囲への影響
- 家族やパートナーの睡眠障害、心理的ストレス、寝室分離。
子どもの場合
扁桃・アデノイド肥大が主因。無呼吸は発育・学習障害のリスクを招くため、早期対応が重要。
いびきの診断方法
いびきの背景にSASがあるかを確認するため、医療機関での診断が不可欠です。
- 問診・診察: 生活習慣、既往症、家族指摘、鼻咽喉視診(扁桃肥大、鼻中隔湾曲確認)。
- 睡眠検査:
- ポリソムノグラフィー: 脳波、呼吸、酸素飽和度を測定、無呼吸・低呼吸評価。
- 簡易検査: 自宅で携帯モニター使用、脈拍・酸素測定。
- 睡眠時無呼吸症候群の診断基準: 1時間に5回以上、または7時間に30回以上の10秒超の呼吸停止。
日中の強い眠気や呼吸停止指摘があれば、即受診を。
いびきの治療法
治療は原因と重症度に応じ、生活改善から医療介入まで多段階的に行います。
- 生活習慣の改善(軽症向け、即効性高)
- 減量: BMI25以上対象。月1〜2kgの減量で首脂肪減少(有酸素運動・食事制限)。
- 飲酒・喫煙制限: 就寝前4時間禁酒、禁煙(パッチやカウンセリング活用)。
- 睡眠姿勢: 横向き寝(抱き枕、背中クッション、テニスボールパジャマ)。
- 寝室環境: 湿度40〜60%、温度18〜22度、ダニ除去、空気清浄機。
- 鼻呼吸習慣: 鼻洗浄(生理食塩水)、口テープ、規則正しい生活(睡眠7〜8時間)。
- 筋トレ: 舌・喉エクササイズ(あいうべ体操)で気道支持力向上。
- 補助具・市販グッズ(軽症向け)
- 鼻腔拡張テープ・ナステント・スプレー: 鼻呼吸促進。一時的効果。
- いびき防止枕・マスク: 頭位調整、口閉じ。
- マウスピース: 歯科オーダーメイド推奨。下顎前方固定で軽〜中等度SAS有効。
- 医療的・外科的治療(中等〜重症、SAS診断後)
- CPAP(持続陽圧呼吸療法): 第一選択。鼻マスクで気道開放、保険適用。合併症改善効果高、慣れが必要。
- マウスピース: 軽〜中等度SASに。歯科作成、顎構造により効果限定。
- 手術:
- UPPP(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術): 軟口蓋・口蓋垂・扁桃切除。再発率高、痛み強いためCPAP優先。
- 上下顎同時前進術 上顎・下顎を前進させ、舌の後方の気道を拡大する手術。基本的に自費診療。
- 扁桃・アデノイド摘出: 小児・成人肥大時有効。
- 鼻手術: 鼻中隔矯正、副鼻腔炎治療で鼻呼吸改善。
- レーザー・ラジオ波: 組織縮小、侵襲小、持続性議論中。
- 薬物療法: アレルギーに抗ヒスタミン・ステロイド点鼻薬、炎症に抗生物質。
子どもの治療
扁桃・アデノイド摘出が主。発育・学習影響を防ぐため早期手術検討する必要があります。
耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。
予防と注意点
- 予防: 定期運動、バランス食事、十分睡眠(7〜8時間)、ストレス管理(ヨガ・瞑想)。
- 注意点: 家族指摘や日中眠気、口渇、高血圧でセルフチェック。呼吸停止は緊急性高。自己判断せず、専門医(耳鼻咽喉科、睡眠外来)相談を。
結論
いびきは単なる音ではなく、体の異常や生活習慣の乱れを映すサインです。
睡眠時無呼吸症候群を伴う場合、心血管疾患や糖尿病リスクが1.5〜2.5倍に上昇します。
生活改善(減量、禁酒・禁煙、横向き寝)が第一歩、症状強い場合は検査で原因特定をしましょう。
CPAP、マウスピース、手術など多様な治療法が存在し、適切な介入で健康な睡眠とQOL向上が可能です。
いびきを放置せず、積極的に向き合い、専門医のアドバイスを活用しましょう。
健康な生活は質の良い睡眠から始まります。
吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介