つわり(悪阻)に使われる漢方薬について
つわり(悪阻)に使われる漢方薬について
はじめに
妊娠初期、多くの妊婦さんが経験する「つわり」。吐き気や嘔吐、食欲がなくなる、体がだるい、匂いに敏感になるなど、人によってさまざまな症状が出ます。軽い場合は生活の工夫で乗り切れることもありますが、中には水分さえ取れなくなり、点滴や入院が必要になるほど強く出る方もいます。これを「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼びます。
西洋医学では、点滴や吐き気止め、ビタミン剤などで対応しますが、妊娠中という特別な時期のため、お薬の使用に不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
そんなときに選択肢の一つとなるのが「漢方薬」です。漢方薬は昔から妊婦さんに使われてきた歴史があり、体質や症状に合わせて安全に使えるものがあります。ここでは、つわりに使われる代表的な漢方薬や、その考え方について、やさしく説明していきます。
漢方から見た「つわり」
漢方医学では、つわりは「妊娠中に胃の働きが弱まり、体に余分な水分や気の流れの乱れが生じるために起こる」と考えられています。特に「胃がつかえる感じ」「水を飲むと吐いてしまう」「喉に何かつかえている感じ」など、妊婦さんが訴える症状を細かく聞き分けて、その人に合う薬を選びます。
西洋医学では「つわり=吐き気」という一つの症状に注目しますが、漢方では「体質」や「症状の出方」に合わせて薬を変えるのが特徴です。
漢方薬はどのように使われるのか
病院でつわりの相談をすると、まずは症状の程度や水分が取れているか、体重の減り具合などを確認します。そのうえで、西洋薬や点滴が必要なケースもありますが、軽症〜中等症の場合は漢方薬が選ばれることがあります。
といったように、症状に合わせて選ばれます。数日〜1週間ほどで「吐く回数が減った」「少し食べられるようになった」といった変化が出ることが多いです。
つわりに使われる主な漢方薬
- 小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)
- こんな症状に:吐き気や嘔吐が強く、水分すら取れないとき。胃がつかえた感じがあるとき。
- 特徴:つわりに最もよく使われる薬で、「まずはこれから」と考えられることが多いです。唾液が多く出たり、胃がポチャポチャするような感じがある方に合います。
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
- こんな症状に:吐き気はあるけれどあまり吐けない。喉や胸につかえたような不快感がある。緊張や不安で気分が悪くなる。
- 特徴:心配ごとや気分の落ち込みがつわりを悪化させているときに向いています。
- 人参湯(にんじんとう)
- こんな症状に:冷え症で、吐き気が強く、体がぐったりしている。食べられずに衰弱している。
- 特徴:弱った胃腸を助けて、体を元気にしていく薬です。
- 安中散(あんちゅうさん)
- こんな症状に:冷えや胃の不快感を伴うつわり。胃がシクシク痛む。
- 特徴:胃を温める働きがあり、冷え性の方に合います。
研究や実績について
小半夏加茯苓湯は、昔からつわりの治療に使われてきた薬で、現代でも「妊婦さんに安心して使える」と考えられています。生姜は、つわりや吐き気の軽減に効果があることが、いくつかの臨床試験で示されています。
Use of Herbal Medicine by Pregnant Women: What Physicians Need to Know. Illamola SM, Amaeze OU, Krepkova LV, Birnbaum AK, Karanam A, Job KM, Bortnikova VV, Sherwin CMT, Enioutina EY. Front Pharmacol. 2020 Jan 9;10:1483.
まとめ
- 吐き気・嘔吐が強ければ 小半夏加茯苓湯
- 喉のつかえや不安が強ければ 半夏厚朴湯
- 体力が落ちて食欲がないときは人参湯
- 冷えや胃の痛みを伴うときは 安中散
つわりでつらいとき、漢方薬は体にやさしく寄り添ってくれる治療法のひとつです。
ただし、自己判断で使うのではなく、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介