インフルエンザワクチン 点鼻ワクチンと皮下注射ワクチンの違いについて
インフルエンザを予防するためのワクチンには、主に2つのタイプがあります。一つは「点鼻型ワクチン」(鼻に噴霧するタイプ)、もう一つは「皮下注射型ワクチン」(皮膚の下に注射するタイプ)です。日本では、皮下注射が一般的ですが、最近では点鼻ワクチンも小児に限ってですが投与可能になりました。
1.投与方法の違い:どうやって体に入れるか?
まず、一番わかりやすい違いは、ワクチンを体に取り入れる方法です。
- 点鼻型ワクチン:鼻の中にスプレー状の液体を吹きかけるだけです。イメージとしては、鼻炎のスプレー薬を鼻の穴にプシュッと入れる感じ。痛みはほとんどなく、子どもや注射が苦手な人には嬉しい方法です。日本で利用できる点鼻型は、主に「フルミスト」という商品で、海外から輸入されたものです。1回の接種で両方の鼻の穴に1回ずつ噴霧します。所要時間は数秒で、消毒も不要です。
- 皮下注射型ワクチン:皮膚の下(皮下組織)に針で注射します。日本ではこれが標準で、肩に打つことが多いです。針は細いですが、チクッとした痛みを感じる人がいます。接種時間は短く、数秒から数十秒程度。消毒してから注射するので、少し手間がかかります。
この違いは、単に「痛いか痛くないか」だけでなく、体内のどの部分で免疫反応を起こすかに影響します。点鼻型は鼻や喉の粘膜から直接ウイルスを模倣したものを入れるので、インフルエンザウイルスが最初に侵入する場所(上気道)で防御を強化します。一方、皮下注射型は血液を通じて全身に広がる免疫を主に作ります。
2.ワクチンの種類と仕組みの違い:生きているウイルスを使うか、殺したウイルスを使うか?
ワクチンの本質的な違いは、含まれているウイルスの状態にあります。ここが重要で、効果や安全性に直結します。
- 点鼻型ワクチン(生弱毒化ワクチン):生きているウイルスを使いますが、人工的に弱くした「弱毒化ウイルス」です。ウイルスは生きているので、体の中で少し増殖します。これにより、本物のインフルエンザに軽くかかったような状態を作り出し、体が自然に免疫を覚えます。例えるなら、弱い敵と練習試合をして、本番の強い敵に備えるようなもの。鼻の粘膜で免疫反応が起きやすく、「粘膜免疫」と呼ばれる局所的な防御力が強くなります。また、「細胞性免疫」という仕組みも働き、ウイルスの型が少し変わっても対応しやすいです。 フルミストの場合、2025年度は3種類のインフルエンザウイルス株(A型2種、B型1種)が含まれています。海外で生産されているため、日本で製造された不活化ワクチンのインフルエンザウイルス株とは若干の違いがありますが、効果に差はないと考えられています。
- 皮下注射型ワクチン(不活化ワクチン):ウイルスを殺して(不活化して)使います。生きていないので、体の中で増殖しません。代わりに、体がこの「死んだウイルス」の一部を認識して、抗体を作ります。例えるなら、敵の写真を見て特徴を覚えるようなもの。主に「体液性免疫」(血液中の抗体)が中心で、全身的な防御を強化します。日本で流通するものは多くがこのタイプで、4種類のインフルエンザウイルス株(A型2種、B型2種)が標準です。
この仕組みの違いから、点鼻型は「自然感染に近い免疫」を作りやすく、注射型は「安全で確実な抗体産生」を目指します。点鼻型は生ウイルスを使うため、まれに軽い症状が出る可能性がありますが、それが免疫を強くする理由でもあります。
3.効果の違い:どれくらい予防できるか? 持続期間は?
どちらもインフルエンザの予防効果がありますが、細かく見ると違いがあります。効果は個人差や流行株の一致度によって変わりますが、一般的な傾向を説明します。
- 点鼻型ワクチン:効果の持続が長いのが特徴です。皮下注射型の効果が約5ヶ月程度なのに対し、点鼻型は約1年持続すると言われています。 また、ウイルスの型が予測と少しずれても効果が期待できる点が強み。なぜなら、細胞性免疫が働くからです。子どもでは、注射型より高い予防効果を示す研究もあります。 ただし、大人では注射型と同等か、少し劣る場合もあります。鼻の粘膜から入るので、インフルエンザの初期感染を予防することができます。
- 皮下注射型ワクチン:効果は安定していて、約5ヶ月程度持続すると考えられています。発症予防率は40-60%程度(流行株による)。重症化を防ぐ効果が高いです。持続は短めですが、毎年接種する前提で設計されています。妊婦や高齢者、基礎疾患がある人でも安全に使えます。
全体として、両方とも同等の保護レベルですが、点鼻型は「広範で長持ち」、注射型は「安定で幅広い対象」といったイメージ。米国CDCによると、ほとんどの年で効果は似ていますが、対象者によってどちらが優位か変わります。
4.対象者の違い:誰が打てるか? 誰が打てないか?
ワクチンを選ぶ上で大事なのは、自分に合っているかどうか。年齢や健康状態で制限があります。
- 点鼻型ワクチン:主に2歳以上から19歳未満の健康な人に推奨されます。 生ワクチンなので、免疫力が弱い人(がん治療中、HIV感染者、ステロイド服用者)や妊婦、乳幼児(2歳未満)は使えません。
- 皮下注射型ワクチン:生後6ヶ月以上から高齢者まで、幅広い年齢層で使えます。妊婦、免疫不全者、基礎疾患がある人もOK。むしろ、そういう人に推奨されることが多いです。卵アレルギーの重症者は注意ですが、最近のワクチンは卵成分が少ないので、問題ありません。
つまり、点鼻型は「健康で注射嫌いな子どもや若者向け」、注射型は「誰でも安心して使える万能型」です。医師に相談して選んでください。
5.副作用の違い:どんな症状が出る可能性があるか?
ワクチンは安全ですが、副作用が出る人もいます。どちらも重いものは稀です。
- 点鼻型ワクチン:鼻水、鼻づまり、のどの痛み、頭痛、軽い発熱などが主。生ウイルスなので、まれに軽いインフルエンザ様症状が出ますが、数日で治ります。注射型より全身症状は少ないですが、鼻関連の不快感が出やすいです。 重い副作用(アナフィラキシーなど)はほとんどありません。
- 皮下注射型ワクチン:接種部位の痛み、赤み、腫れが一番多いです。全体の20-30%くらいで出ます。あとは、軽い発熱や筋肉痛、頭痛。ギラン・バレー症候群のような稀な神経症状が報告されますが、確率は非常に低い(100万人に1人程度)。
点鼻型は「鼻中心の軽い症状」、注射型は「注射部位の痛み中心」。どちらも接種後1-2日で治まるものがほとんどです。副作用が出たら、医師に連絡しましょう。
6.利点と欠点のまとめ:どちらを選ぶべき?
それぞれの利点と欠点を表でまとめます。
- 点鼻型の利点:
- 痛くないので、子どもが喜ぶ。注射恐怖症の人に最適。
- 効果が長持ちし、型のずれに強い。
- 自然感染に近い免疫で、家族への感染予防も期待。
- 1回の投与で効果が持続
- 点鼻型の欠点:
- 対象者が限られる(健康な2-18歳)。
- 生ワクチンなので、免疫弱い人は使えない。
- 日本では入手しにくく、費用が高い(自費で8000〜9000円程度)。
- 皮下注射型の利点:
- 誰でも接種可能。定期接種で補助が出る場合あり。
- 安全性が高く、妊婦や高齢者に推奨。
- 全国の医療機関で簡単に受けられる。
- 皮下注射型の欠点:
- 痛みがある。
- 13歳未満は、原則2回接種が必要
- 効果持続が短く、毎年必要。
- 型の予測が外れると効果が落ちやすい。
どちらがいいかは、生活スタイルや健康状態による。例えば、子どもで注射が怖いなら点鼻型を検討。妊婦や持病があるなら注射型一択です。
フルミストのような点鼻型は、欧米で長年使われており、安全性は証明されています。
7.注意点と最新情報:接種前に知っておくこと
インフルエンザワクチンは、毎年ウイルス株が変わるので、最新のものを接種しましょう。
2025年のシーズンでは、A型(H1N1、H3N2)とB型(Victoria)の3株対応となっています。点鼻型は輸入品なので、在庫が限られることがあります。
接種前に:
- 医師に持病やアレルギーを伝える。
- 点鼻型の場合、接種後2週間は免疫弱い人に近づかない(ウイルス排出の可能性)。
- 効果は100%ではないので、手洗いやマスクも併用。
最後に、どちらのワクチンもインフルエンザを防ぐ強力なツールです。違いを理解して、自分に合ったものを選びましょう。
疑問があれば、かかりつけ医に相談しましょう。予防が一番の治療です!
<2025年度 点鼻ワクチンの株>
A/ノルウェー/31694/2022(H1N1)
A/パース/722/2024(H3N2)
B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)(ビクトリア系統)
<2025年度 不活化ワクチンの株>
A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238)(H1N1)
A/パース/722/2024(IVR-262)(H3N2)
B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)(ビクトリア系統)
吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介