授乳中に飲んでも大丈夫な漢方薬
授乳中に飲んでも大丈夫な漢方薬
どの漢方製剤の添付文章にも、妊婦、産婦、授乳婦等への投与については、「妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。」との記載があります。しかし、医療用漢方エキス製剤で、妊婦、産婦、授乳婦に投薬が禁忌である医療用漢方エキス製剤は存在しません。妊娠中や授乳中に漢方薬を処方された経験をお持ちの女性も多いと思います。
一方、西洋医学の薬には、授乳中に使用してよい薬と控えた方がよい薬があります。授乳中に控えた方がよい薬は、アミオダロン、コカイン、ヨウ化ナトリウムの4つだけですが、かなり特殊な薬なので、普通の人は服用していません。
漢方薬、西洋薬を問わず、授乳中のお母さんが注意しなければならないのは、赤ちゃんが生後2ヶ月未満の時です。生後間もない赤ちゃんの内蔵機能は未熟で、薬の成分をうまく解毒できず、体内の薬の濃度が上昇して副作用を起こす可能性があるといわれています。
一般的に、薬を内服して母乳中の薬の濃度が高くなるのは、2−3時間後と言われています。薬を内服した直後は問題ありません。もし、授乳の間隔が短い場合は、薬を内服する前に搾乳しておくことをお勧めしています。
授乳中の女性は、授乳や夜泣きによる寝不足などの育児ストレスなどで、胃腸が弱っていて、風邪を引きやすくなっている女性も多いと思います。風邪に使う漢方薬はたくさんあるのですが、風邪薬として有名な「葛根湯(かっこんとう)」は、「麻黄(まおう)」という胃もたれしやすい成分が含まれるているため、胃腸の弱っている女性にはお勧めできません。体力の弱っている授乳中の女性にお勧めの風邪薬は、「桂枝湯(けいしとう)」です。風邪の引き始めに使いますが、使用するポイントは、寒気がして少し汗ばんでいるときに使います。風邪を引いて少しこじらせてしまい何を飲んでよいか分からない場合は、「参蘇飲(じんそいん)」がお勧めです。桂枝湯も参蘇飲も病院を受診しなくても、薬局で入手可能な漢方薬です。
漢方薬で乳汁移行するとの報告がある成分は、「大黄」の主成分であるアントラキノン誘導体です。大黄のおもな効能は瀉下作用(下剤)ですが、精神安定作用や悪玉腸内細菌の増殖を抑制する効果も知られています。アントラキノン誘導体を含む母乳を飲んだ乳児が下痢を起こす可能性があります。大黄の主成分として有名なセンノシドは、下剤の成分と有名です。市販薬のコーラックなどもセンノシドが主成分です。大黄の入った漢方製剤は、授乳中の服用を避けるか、授乳を一時中止したほうがよいと思います。
漢方薬の名前に、大黄が含まれている場合はすぐに分かるのですが、やせ薬として有名な「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」や、精神安定剤として使用される「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」や「大柴胡湯(だいさいことう)」、月経不順で使用される「桃核承気湯(とうかくじょうきとう)」などは、漢方薬に精通していなければ、大黄が含まれる漢方薬として認識されないかもしれません。
大黄は熱に不安定な成分を含むため、製造方法によって漢方薬に含まれる成分がかなり違います。A社の麻子仁丸(ましにんがん)だと1日3回のでも便がすっきりでなかったのに、B社の麻子仁丸だと1日1回で便がすっきり出た患者さんがいらっしゃいました。逆に、A社の桃核承気湯を1日3回飲むとちょうどよい排便のタイミングになるけれど、B社に変えると効きすぎて排便回数が増えて困るという患者さんもいらっしゃいました。漢方エキス製剤は、同じ名前でも製薬会社ごとにかなり効き目が違うので注意が必要です。
薬局で購入される場合は、かならず構成生薬を確認するようにして下さい。
なお、その他の漢方薬については、乳汁移行するとの報告がありませんし、有害事象の報告もありません。
判断に困る場合は、漢方専門医がいる病院の受診をお勧めします。
まとめ
医療用漢方エキス製剤で、妊婦、産婦、授乳婦に投薬が禁忌である医療用漢方エキス製剤は存在しないが、「大黄(だいおう)」の入った漢方製剤は、授乳中の服用を避けるか、授乳を一時中止が望ましい。
※ 国立成育医療研究センターが公開している、授乳中に安全に使用できると考えられる薬および授乳中の使用には適さないと考えられる薬のリンクは下記を参照して下さい。
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/news_med/druglist.html
大阪府吹田市長野東19-6
千里丘かがやきクリニック
院長 有光 潤介