2025年11月02日
結論からお伝えすると、野菜だけで1日に必要な鉄分を「吸収」するのは、現実的に非常に困難です。
その理由を、順を追ってご説明します。
1日に必要な鉄の「推奨量」
まず、厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、1日に摂取が推奨される鉄の量は以下の通りです。
・成人男性:7.5mg
・成人女性(月経あり):10.5mg
・成人女性(月経なし):6.5mg
※月経のある女性は、経血により鉄が失われるため、より多くの鉄分が必要となります。
非ヘム鉄の低い「吸収率」という壁
ここが最も重要なポイントです。食品から鉄分を摂っても、そのすべてが体内に吸収されるわけではありません。
肉や魚に含まれる「ヘム鉄」の吸収率:15~25%
野菜や豆類に含まれる「非ヘム鉄」の吸収率:2~5%
非ヘム鉄の吸収率はヘム鉄に比べて非常に低いのです。
つまり、推奨量の鉄分を「摂取」するだけでなく、そこから実際に体内に「吸収」される量を考えなければいけません。
具体的にどれくらいの野菜が必要か?
では、鉄分が比較的多いとされる野菜の代表格「小松菜」と「ほうれん草」を例に、月経のある成人女性が必要な10.5mgの鉄を吸収するために、どれだけの量を食べる必要があるか計算してみましょう。
ここでは、吸収率を少し高めに見積もって5%と仮定します。(ビタミンCなどと一緒にとることで吸収率が上がります)
目標吸収量から逆算した「摂取」目標
まず、10.5mgの鉄を吸収率5%で得るために、食事から摂取する必要がある鉄の総量を計算します。
10.5mg ÷ 0.05(吸収率5%)= 210mg
つまり、1日に合計210mgもの鉄分を野菜から摂取する必要がある、ということになります。
1.小松菜(生)の場合(鉄分:100gあたり2.8mg)
210mg(必要な摂取量) ÷ 2.8mg(小松菜100gあたりの鉄分)× 100g = 7,500g
つまり、約7.5kgの小松菜を食べる必要があります。
小松菜1束(約200g)とすると、約37~38束分に相当します。
2. ほうれん草(ゆで)の場合(鉄分:100gあたり0.9mg)
ほうれん草はアク(シュウ酸)があるため、ゆでて食べることが一般的です。ゆでると鉄分も少し減ります。
210mg(必要な摂取量)÷ 0.9mg(ほうれん草100gあたりの鉄分)× 100g = 23,333g
つまり、約23.3kgのほうれん草を食べる必要があります。
ほうれん草1束(約200g)とすると、約116束分にもなります。
まとめ:現実的なアドバイス
上記の計算からも分かる通り、1日に必要な鉄分を野菜だけで補うのは、量的に見て不可能です。
そこで、以下の点を意識することが非常に大切になります。
非ヘム鉄の吸収率を上げる工夫をする
・ビタミンC(ピーマン、ブロッコリー、柑橘類など)や動物性たんぱく質(肉・魚・卵)と一緒に摂ることで、吸収率が格段にアップします。
・例:「小松菜と豚肉の炒め物」「ほうれん草のおひたしにレモン汁をかける」など。
野菜以外の非ヘム鉄食品も組み合わせ
・大豆製品(納豆、豆腐)、レンズ豆、ひじき、のりなど、鉄分が豊富な植物性食品は他にもたくさんあります。これらを組み合わせましょう。
可能であればヘム鉄も取り入れる
・もし食生活で可能であれば、吸収率の高いヘム鉄を含む赤身の肉や魚、あさりなどを少量でも食事に加えるのが最も効率的です。
野菜はビタミンや食物繊維の重要な供給源ですが、鉄分補給に関しては「主役」ではなく、「重要な脇役」と捉え、様々な食品と組み合わせて賢く摂取することをおすすめします。