「痛点」の正体と痛みを感じる仕組み|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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「痛点」の正体と痛みを感じる仕組み

「痛点」の正体と痛みを感じる仕組み|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2025年12月25日

「痛点」の正体と痛みを感じる仕組み

一般的に、私たちは皮膚に「痛点」という、痛みを感じるための特別な点が無数に存在しているとイメージしがちです。
これは、かつて「温点(温かさ)」「冷点(冷たさ)」「圧点(圧力)」と並べて考えられていた感覚点の一つですが、現代の科学では、この「痛点」という考え方はより詳細にアップデートされています。
現在、科学的に明らかになっているのは、「痛点」という独立した構造物があるのではなく、「侵害受容器)」と呼ばれる、体に害が及ぶ可能性のある強い刺激を検出する専門のセンサー(神経の末端)が、全身に張り巡らされているという事実です。

「痛み」とは何か? なぜ必要なのか?

まず、「痛み」そのものについて理解を深める必要があります。
国際疼痛学会(IASP:International Association for the Study of Pain)は、2020年に「痛み」の定義を改訂し、以下のように定めています。
「痛みとは、実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こる可能性に関連した、あるいはそれに似た、不快な感覚かつ情動(感情)の体験である。」
(An unpleasant sensory and emotional experience associated with, or resembling that associated with, actual or potential tissue damage.)
この定義の重要なポイントは2つあります。

「感覚」かつ「情動(感情)」の体験であること

「チクッとする」「ズキズキする」といった感覚的な側面だけでなく、「不快だ」「怖い」「不安だ」といった感情的な側面も、「痛み」の不可欠な要素であるとされています。

「実際の損傷」だけでなく「可能性」でも起こりうること

実際にケガをしていなくても、「このままだと危ない」という警告として痛みが生じることがあります。
痛みは、単なる不快な感覚ではなく、「身体の異常事態を知らせる警告システム(アラーム)」として機能する、生命維持に不可欠な感覚です。
もし痛みを感じなければ、熱いヤカンに触れ続けて大火傷を負ったり、骨が折れているのに気づかず歩き続けて悪化させたりするかもしれません。

私が翻訳に関わった「驚くべき人間のからだ 神のかたちとして」には、らい病患者の病態・治療が詳しく描かれています。「らい菌」に感染した患者さんは、末梢神経や皮膚が侵され感覚障害がおこり、温度や痛みを感じなくなり、傷ついても気づかず、どんどん傷が酷くなってしまい、手足や皮膚が変形してしまいます。

「痛点」の正体 — 侵害受容器

かつて、ドイツの生理学者マックス・フォン・フライは、皮膚の感覚には「触圧点」「冷点」「温点」「痛点」の4種類があると提唱しました。
しかし、その後の研究で、痛みだけは他の感覚とは異なる仕組みで受容されていることが判明しました。
痛み(の元になる情報)を検出するセンサーは、他の感覚(触圧覚や温度覚)のような特定の構造を持った受容器ではなく、「自由神経終末)」と呼ばれる、むき出しの神経の末端であることが分かりました。
これが「侵害受容器(Nociceptor)」です。
侵害受容器は、一言でいえば「組織が傷つく(あるいは、傷つきそうな)強い刺激」に特化して反応するセンサーです。

侵害受容器が反応する刺激(侵害刺激)

侵害受容器は、どのような種類の危険を察知するかによって、いくつかのタイプに分類されますが、主に以下の刺激に反応します。

機械的刺激

強くつねる、切る、刺すといった、組織の変形や破壊を伴う強い物理的な力。

熱(温度)刺激

一般的に約45℃以上の高温や、約15℃以下の低温。これらは皮膚のタンパク質が変性(火傷や凍傷)し始める温度です。

化学的刺激

  1. 炎症物質: ケガをしたり炎症が起きたりすると、組織から「プロスタグランジン」「ブラジキニン」といった化学物質が放出されます。これらは侵害受容器を直接興奮させます。
  2. 酸(水素イオン): 組織が酸欠(虚血)状態になると、乳酸などが溜まりpHが下がります。この酸性状態(ヒリヒリする感じ)に反応します。
  3. その他: トウガラシの辛味成分である「カプサイシン」や、ワサビの「アリルイソチオシアネート」なども、特定の侵害受容器を興奮させるため、私たちは「辛さ」を「痛み」や「熱さ」として感じます。

これらのセンサーが、皮膚、筋肉、関節、骨膜、内臓の壁など、体のいたるところ(ただし、脳の実質など一部を除く)に高密度で分布しています。
これが「痛点」の正体です。

刺激が「痛み」として脳に伝わるまで

私たちが「痛い!」と感じるまでには、情報が電気信号として体内を高速で駆け巡る、複雑なプロセスがあります。

ステップ1:侵害受容器が刺激をキャッチ

(例:熱いフライパンに指が触れた)
指先の皮膚にある侵害受容器が、「45℃以上の熱」という危険な刺激を検出します。

ステップ2:神経線維による信号の伝達

侵害受容器は、検出した情報を電気信号(活動電位)に変換し、神経線維を通じて脊髄へと送ります。このとき、痛みの情報を伝える神経線維には、主に2つの異なるタイプがあります。

Aδ(デルタ)線維(速い痛み)

 ・比較的太く、伝達速度が速い(毎秒約5〜30メートル)。
 ・「チクッ!」「アツッ!」といった、鋭く、局在が明確な(どこが痛いかはっきり分かる)痛みを伝えます。
 ・これを「一次痛」と呼びます。危険を即座に察知し、回避行動(手を引っ込めるなど)をとるために重要です。

C線維(遅い痛み)

 ・非常に細く、伝達速度が遅い(毎秒約0.5〜2メートル)。
 ・「ジンジン」「ズキズキ」「ヒリヒリ」といった、鈍く、持続的で、局在がやや曖昧な痛みを伝えます。
 ・これを「二次痛」と呼びます。ケガをした後、その部位をかばい、安静にして回復を促すために重要です。

熱いフライパンに触れた瞬間、「アツッ!」と感じるのがAδ線維による一次痛であり、その後に指先が「ジンジン」と痛むのがC線維による二次痛です。

ステップ3:脊髄での情報中継

Aδ線維とC線維から送られてきた信号は、まず背骨の中にある「脊髄」に到達します。
脊髄は、単なる通過点ではありません。ここで情報は次の神経細胞にバトンタッチされますが、同時に2つの重要な処理が行われます。

 • 反射: 一部の信号は、脳に送られると同時に、脊髄から直接、運動神経に接続されます。「熱い」と脳が認識するよりもコンマ数秒早く、無意識に手を引っ込める「屈曲反射」が起こります。これは脊髄の働きによるものです。
 • 情報の調整: 脊髄では、痛みの信号を強めたり、逆に弱めたりする「門(ゲート)」のような仕組み(ゲートコントロールセオリー)が存在すると考えられています。例えば、痛いところをさすると痛みが和らぐのは、触覚の信号がC線維による痛みの信号伝達を抑制するためと説明されています。

ステップ4:脳による「痛み」の認識

脊髄で中継された信号は、専用の神経路(主に脊髄視床路)を上って脳へと向かいます。信号は「視床」という中継基地を経由し、最終的に「大脳皮質」のさまざまな領域に送られます。
脳は、この信号を単に「受信」するだけではありません。脳は送られてきた信号を、過去の記憶、現在の状況、感情などと照合し、「痛み」という複雑な体験を「作り上げ」ます。

 ・体性感覚野: 「どこが(指先)」「どれくらい(強く)」「どんなふうに(熱い・鋭い)」痛いのか、という感覚的な側面を分析します。
 ・前帯状皮質・島皮質・扁桃体(辺縁系): 「不快だ」「嫌だ」「不安だ」といった、痛み特有のネガティブな感情(情動)を生み出します。

このように、痛みは「侵害受容器からの信号」という入力(Input)と、「脳による解釈」という処理(Processing)が組み合わさって初めて成立する、極めて主観的な体験です。

痛みが変化する仕組み — 感作(かんさ)

ケガをした直後よりも、後から痛みが強くなったり、普段は痛くない刺激(服が触れるなど)で痛みを感じたりすることがあります。これは「痛点」=侵害受容器の感度が変化するためで、「感作(かんさ)」と呼ばれます。

末梢性感作

ケガをした現場(末梢)での感作です。

前述したように、炎症が起こるとプロスタグランジンなどの炎症物質が放出されます。これらは、侵害受容器の感度を上げる(興奮しやすくする)働きがあります。これにより、わずかな刺激でも強い痛み信号が発生するようになります(例:日焼けした肌がシャワーでヒリヒリする)。これは「痛覚過敏」と呼ばれます。

中枢性感作

痛みが長く続くと、脊髄や脳といった中枢神経系自体が「感作」され、痛みの信号を増幅しやすい状態になることがあります。これは、慢性的な痛みの原因の一つと考えられています。

まとめ

「痛点」とは、皮膚に点在する特定の構造物ではなく、「侵害受容器」という、体に害が及びうる刺激を検出するセンサー(自由神経終末)が、体中に分布している状態を指す言葉です。
痛みは、この侵害受容器が危険を察知し、その信号(Aδ線維とC線維)が脊髄を経由して脳に送られ、最終的に脳が「感覚」と「情動(感情)」の両面から解釈することによって生じる、生命維持に不可欠な警告システムです。
痛みは非常に複雑な現象であり、そのメカニズムの解明は、急性痛の治療だけでなく、慢性的な痛みに苦しむ人々を救うためにも、現代の医学・科学における重要な課題であり続けています。

参考文献

1.国際疼痛学会 (IASP): 痛みの定義 (IASP Terminology) および侵害受容器に関する分類。
2.Raja, S. N., et al. (2020). The revised IASP definition of pain: concepts, challenges, and compromises. Pain, 161(9), 1976-1982.
3.日本疼痛学会: IASPの定義の和訳および、痛みに関する全般的な解説。
4.ガノン生理学:
侵害受容器の種類(機械、熱、化学)、Aδ線維およびC線維の機能、痛覚伝導路(脊髄視床路)、脳における痛み処理のメカニズム(体性感覚野、辺縁系など)に関する記述は、世界中の医学・生物学の教育で使用される標準的な教科書に共通して記載されている、確立された科学的知見に基づいています。
5.Basbaum, A. I., et al. (2009). Cellular and molecular mechanisms of pain. Cell, 139(2), 267-284. (専門的な総説論文)
6.驚くべき人間のからだ 神のかたちとして:ポール・ブランド、フィリップ・ヤンシー共著 (著), 赤木 真理子 (翻訳), 有光 潤介(監訳)

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