昆布をたくさん食べると甲状腺機能が低下するというのは本当ですか?|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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昆布をたくさん食べると甲状腺機能が低下するというのは本当ですか?

昆布をたくさん食べると甲状腺機能が低下するというのは本当ですか?|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2025年11月12日

昆布をたくさん食べると甲状腺機能が低下するというのは本当ですか?

まず、結論から述べますと、昆布を食べ過ぎると甲状腺機能低下を発症します。

結論のまとめ

  1. 原因:昆布には「ヨウ素」が他の食品とは比較にならないほど膨大に含まれています。
  2. 基準:日本の厚生労働省は、健康な成人が1日に摂取しても安全なヨウ素の上限量(耐容上限量)を 3,000μg (=3mg) と定めています。
  3. 含有量:乾燥した昆布は、わずか1〜2グラム(おしゃぶり昆布1〜2枚程度)で、この上限量を簡単に超えてしまいます
  4. 影響:ヨウ素を過剰に摂取し続けると、甲状腺ホルモンの製造が逆に抑制(ストップ)されてしまい、「甲状腺機能低下症」を発症することがあります。
  5. 対象:特に、甲状腺に持病がある人(例:橋本病)は、この影響を非常に受けやすいことが知られています。

甲状腺とヨウ素の基本的な関係

まず、甲状腺とヨウ素がどのような関係にあるかを知ることが重要です。

甲状腺とは?

甲状腺は、喉ぼとけの下あたりにある、蝶のような形をした臓器です。その主な役割は「甲状腺ホルモン」を作って分泌することです。

甲状腺ホルモンの役割について

甲状腺ホルモンは、私たちの体にとって「元気の素」や「エンジンの回転数を調節するアクセル」のようなものです。

  • 全身の細胞の新陳代謝(古い細胞が新しい細胞に入れ替わること)を活発にします。
  • 体温を調節します。
  • 心臓や腸の働きを調節します。
  • 子どもの成長や発達にも不可欠です。

ヨウ素(ヨード)とは?

ヨウ素(英語ではIodine)は、ミネラルの一種です。そして、このヨウ素こそが「甲状腺ホルモンの主原料」です。
ヨウ素がなければ、甲状腺は甲状腺ホルモンを作ることができません。そのため、ヨウ素は人間にとって必須の栄養素です。

過剰摂取が問題となる理由

「原料なら、たくさん摂った方が良いのでは?」と思うかもしれませんが、ヨウ素に関してはそれが当てはまりません。

昆布に含まれる膨大なヨウ素量

問題は、昆布に含まれるヨウ素量が「ケタ違いに多い」ことです。

  • 日本の基準(厚生労働省「日本人の食事摂取基準 2020年版」)
    • 推奨量(これくらい摂るのが望ましい):成人 130μg/日
    • 耐容上限量(これ以上摂り続けると健康被害リスクが上がる):成人 3,000μg/日 (=3mg/日)
  • 昆布の含有量
    • 食品に含まれるヨウ素量は、種類や産地によって異なりますが、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所のデータなどによれば、乾燥昆布(素干し)には 1gあたり約 2,000〜2,400μg (2.0〜2.4mg) ものヨウ素が含まれています。

乾燥昆布をわずか1.5グラム食べるだけで、1日の上限量3,000μgに達してしまうのです。

昆布のおやつで有名な「都こんぶ」のヨウ素量は、製品によって内容量が異なるため具体的な数値は表記されていませんが、一般的な昆布1gあたり約2mg(2000μg)のヨウ素が含まれるとされ、1袋(約15g)食べると1日に推奨される摂取量を超えてしまう可能性があります

昆布だしを濃く取ったり、昆布の煮物を毎日食べたり、健康のためにと昆布の粉末やサプリメントを摂取したりすると、容易に「過剰摂取」の状態になります。

毎日大量に海藻を食べ続けた結果甲状腺機能低下症をきたした症例報告があります。

ヨウ素過剰摂取が甲状腺に与える影響のメカニズム

ヨウ素を過剰に摂取すると、甲状腺の機能は「亢進(活発になりすぎる)」するのではなく、逆に「低下」します。
これは、人体に備わった安全装置が、通常とは異なる形で働いてしまうために起こります。

ウォルフ・チャイコフ効果

血液中のヨウ素濃度が急激に高くなると、甲状腺は「原料が多すぎる!ホルモンを作りすぎたら危険だ!」と判断し、一時的にヨウ素の取り込みとホルモンの製造・分泌をストップします。
これは、甲状腺が暴走しないようにするための「緊急ブレーキ」のような自己防衛機能です。

エスケープ現象

健康な人の場合、この「ブレーキ」がかかった状態(ウォルフ・チャイコフ効果)は一時的なものです。
通常、数日〜数週間もすれば、甲状腺はこの高濃度のヨウ素環境に適応し、ブレーキを解除してホルモンの製造を再開します。これを「エスケープ(脱出)現象」と呼びます。

慢性的な過剰摂取による「甲状腺機能低下症」

問題は、昆布の常食などによって「慢性的(ま んせいてき)に」ヨウ素の過剰摂取が続く場合です。
毎日毎日、大量のヨウ素が供給され続けると、甲状腺が「エスケープ現象」を起こすことができず、「緊急ブレーキ」がかかったままの状態になってしまいます。
その結果、甲状腺ホルモンの製造が持続的に抑制され、体内の甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」を発症するのです。

甲状腺機能低下症の主な症状

甲状腺ホルモン(元気の素)が不足すると、以下のような新陳代謝の低下による症状が現れます。

  • 非常にだるい、疲れやすい
  • むくみ(特に顔や手足)
  • 寒がりになる
  • 体重が増加する(食欲はないのに太る)
  • 皮膚が乾燥する
  • 便秘
  • 脈が遅くなる
  • 無気力、眠気、記憶力の低下

特に注意が必要な人

ヨウ素の過剰摂取による影響の出やすさには個人差があります。多くの健康な日本人は、日常的な食事(味噌汁のだし程度)でヨウ素過剰になっても「エスケープ現象」が正常に働き、問題は起こりません。

しかし、以下のような人は、ヨウ素過剰摂取の影響を非常に受けやすいため、特に注意が必要です。

  • 橋本病(慢性甲状腺炎)の人
    • 橋本病は、自己免疫(自分の免疫が間違って自分の甲状腺を攻撃してしまう)によって、甲状腺に慢性的な炎症が起きている病気です。
    • 橋本病の患者さんや、その素因(体質)がある人は、甲状腺の機能が弱っているため、ヨウ素過剰という「ブレーキ」がかかると、自力でエスケープ(脱出)することが難しく、甲状腺機能低下症を発症しやすいことがわかっています。
    • 日本人(特に女性)には、この橋本病の素因を持つ人が比較的多いとされています。
  • その他の甲状腺疾患がある人
  • 新生児や乳児

昆布摂取による症例報告(日本の状況)

日本は海藻を多く食べるため、世界的に見てもヨウ素摂取量が多い国です。そのため、ヨウ素「不足」による甲状腺の病気は少ない一方で、ヨウ素「過剰」による甲状腺機能低下症は珍しくありません。

日本の医学会では、「健康のために」と毎日昆布を煮出して飲んでいたり、昆布の粉末を摂取していたりした人が、甲状腺機能低下症を発症したという症例報告が多数あります

幸いなことに、この「ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能低下症」の多くは、原因となっている昆布の摂取を中止するだけで、甲状腺の機能が自然に回復します。

昆布との上手な付き合い方

昆布はうま味成分やミネラルが豊富な優れた食品ですが、ヨウ素含有量に関しては「非常に特殊な食品」です。

  • 適量を楽しむのは問題ありません。
    • たまに昆布の煮物を食べること。
    • 日常的な料理で「だし」として適量を使うこと(だし汁にはヨウ素が溶け出しますが、だし殻を食べるよりは摂取量は少なくなります)。
  • 以下の習慣は「過剰摂取」のリスクがあります。
    • 毎日、昆布そのもの(おしゃぶり昆布、とろろ昆布、昆布の煮物など)を大量に食べること。
    • 毎日、非常に濃い昆布だしを大量に飲むこと。
    • 健康目的で、昆布の粉末、昆布エキス、昆布水などを常用すること。
    • ヨウ素を含む「うがい薬」を日常的に使用すること(これも体内に吸収されます)。

出典

1.厚生労働省
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」:ヨウ素の推奨量、耐容上限量、過剰摂取による健康障害について明記されています。
2.国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
「『健康食品』の安全性・有効性情報」データベース:ヨウ素の項目に、含有量、過剰摂取のメカニズム(Wolff-Chaikoff効果)、日本での症例について記載があります。
3.一般社団法人 日本甲状腺学会
一般の方向けのウェブサイト情報や、医師向けの診療ガイドラインにおいて、ヨウ素(特に昆布)の過剰摂取が甲状腺機能低下症の原因となることを一貫して注意喚起しています。
4.頸部エコーで偶然発見したヨード誘発性甲状腺機能低下症の1例, 山本 朱美 et al., 糖尿病, 2003, 46 巻, 5 号, p. 381-385



吹田市大阪府長野東19番6号

千里丘かがやきクリニック

院長 有光潤介

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