セレンとは?:必須ミネラルの基礎知識|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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セレンとは?:必須ミネラルの基礎知識

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2025年11月17日

セレンとは?:必須ミネラルの基礎知識

セレンとは?:必須ミネラルの基礎知識

セレン(Selenium, Se)は、微量ミネラル(Trace Mineral)の一つです。
微量ミネラルとは、人体に必要な量が非常に少ないものの、生命活動の維持には欠かせない栄養素のことです。
セレンは体内で合成できないため、食事から摂取する必要がある必須栄養素です。

最新の栄養学に基づき、医療用の経腸栄養剤にもセレンやクロムなどのミネラルを含む製剤が増えてきました。

どこにあるの?

セレンの含有量は土壌によって大きく異なり、その土壌で育った植物や、その植物を食べて育った動物に反映されます。

 【豊富な食品源】
  ・ブラジルナッツ(特に含有量が多い)
  ・魚介類(マグロ、カレイなど)
  ・肉類(牛肉、豚肉、鶏肉)
  ・穀類、卵

体内での働き:セレノプロテインの構成要素

セレンが体内で機能するとき、それは「セレノプロテイン(Selenoprotein)」と呼ばれる特殊なタンパク質の一部として存在します。
セレンの生理作用のほとんどは、このセレノプロテインを介して発揮されます。
現在、ヒトでは25種類のセレノプロテインが存在することが知られています。

筋肉の生成と機能におけるセレンの役割

セレン、特にセレノプロテインは、単に筋肉を生成する材料となるだけでなく、筋肉組織の健康と機能を維持するために複数の重要な役割を果たしています。
この役割は、主に酸化ストレスの軽減甲状腺ホルモンの代謝という2つの側面から説明できます。

酸化ストレスからの保護(抗酸化作用)

運動、特に筋力トレーニングなどの激しい運動を行うと、体内で活性酸素種(ROS)が多く生成されます。活性酸素は、細胞に損傷を与える可能性があり、これを酸化ストレスと呼びます。酸化ストレスは、筋肉疲労や炎症を引き起こし、筋肉細胞の回復や成長(生成)を妨げる可能性があります。

ここでセレンの主要なセレノプロテインの一つである**グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)**が重要な働きをします。

 ・グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx): この酵素は、活性酸素を無害な分子(水など)に変換する強力な抗酸化酵素です。GPxは、筋肉細胞を含む全身の細胞膜の脂質やDNAを酸化ストレスから保護します。
 ・筋肉生成への貢献: 酸化ストレスが軽減されることで、運動後の筋肉細胞の損傷が最小限に抑えられ、炎症が鎮静化し、筋肉の回復が促進されます。これにより、効率的な筋肥大(筋肉の生成)に必要な環境が整います。セレンが不足すると、GPxの活性が低下し、筋肉の損傷からの回復が遅れ、慢性的な炎症状態になりやすくなる可能性があります。

甲状腺ホルモンの調節

甲状腺ホルモンは、代謝や成長、発達を調節するホルモンであり、筋肉のタンパク質代謝熱産生に深く関わっています。筋肉の生成と分解のバランスを適切に保つために不可欠です。

 ・ヨードサイロニン脱ヨウ素酵素(Deiodinase): セレノプロテインの一つであるこの酵素は、甲状腺から分泌されるホルモン(T4)を、より活性の高いホルモン(T3)に変換する役割を果たします。
 ・筋肉への影響: T3は、筋肉細胞のタンパク質合成を促進し、適切な代謝率を維持することで、筋肉の健康的な機能と成長をサポートします。セレンが不足すると、甲状腺ホルモンの活性化が妨げられ、結果的に筋肉の生成・維持に必要な代謝機能が低下する可能性があります。

まとめると、セレンは直接的に筋肉を「作る」わけではありませんが、筋肉を分解から「守り」、成長に必要な「ホルモン環境を整える」ことで、間接的かつ決定的に筋肉の生成をサポートしています。

全身の健康におけるセレンのその他の重要な役割

セレンの恩恵は筋肉の生成に留まりません。全身の健康維持において、セレンは以下のような多岐にわたる役割を果たしています。

免疫機能のサポート

セレンは、免疫細胞の生成と活性化に不可欠であり、免疫応答を強化します。特に、感染症に対する体の防御機構の迅速な応答に貢献します。

生殖機能の維持

精子の形成と運動性に必要なタンパク質にセレンが含まれており、男性の生殖能力に重要な役割を果たします。また、妊娠中の女性においても、胎児の健全な発育に不可欠です。

心血管疾患リスクの低減

強力な抗酸化作用を通じて、血管の損傷や炎症を抑えることで、心臓血管の健康をサポートする可能性が示唆されています。

がん予防との関連

セレンの抗酸化作用は、DNAの損傷を防ぎ、細胞の異常な増殖を抑制することで、一部のがんのリスクを低下させる可能性が、観察研究などで示唆されています。

セレンの摂取:不足と過剰摂取

セレンは「適量」が非常に重要なミネラルです。不足しても過剰でも健康上の問題を引き起こす可能性があります。

セレンの不足(欠乏症)

セレンが極端に不足すると、心筋症の一種である克山病(Keshan Disease)や、軟骨や関節の異常を特徴とするカシン・ベック病(Kashin-Beck Disease)といった特定の病気が、セレンの少ない土壌で育った地域で報告されています。
一般的な症状としては、免疫機能の低下甲状腺機能の低下筋力の低下や痛みなどが挙げられます。

セレンの過剰摂取(中毒症)

セレンは、過剰に摂取すると毒性を示すことがあります。これをセレン中毒症(Selenosis)と呼びます。サプリメントなどによる過剰摂取が主な原因となります。

症状】
 ・脱毛
 ・爪の変形や脱落
 ・胃腸の不調
 ・疲労感
 ・「ニンニクのような口臭」(セレン化合物の呼気による)
 ・重度の場合は神経系の問題を引き起こす可能性もあります。

推奨摂取量

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、セレンの摂取基準は以下の通りです。

対象 推奨量(μg/日) 耐容上限量(μg/日)
成人男性(18~74歳) 30 450
成人女性(18~74歳) 25 350

重要な注意点: ブラジルナッツはセレンの含有量が非常に高いため、サプリメントと同様に、一度に大量に食べすぎないよう注意が必要です。数粒で一日の推奨量を優に超えることがあります。

まとめ:セレンと健康維持

セレンは、私たちの体を酸化ストレスから守り、免疫機能や甲状腺ホルモンの適切な働きを支える、非常に重要な必須微量ミネラルです。

特に筋肉の生成においては、セレンを構成要素とする強力な抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼが、運動後の筋肉細胞の損傷や炎症を抑え、効率的な回復と成長を可能にする環境を整えます。

セレンは、多様な食品から適切に摂取することで、その恩恵を最大限に享受することができます。
過剰摂取のリスクもあるため、通常の食生活で不足が懸念される場合を除き、まずはバランスの取れた食事からの摂取を心がけることが最も推奨されます。

とりわけ鶏卵は、完全栄養食と言われているとおり、タンパク質やビタミンなのバランスがよく、かつ、セレンが含まれるため、筋力低下に悩むご高齢の方の栄養源としてお勧めの食品です。

出典

本解説は、主に以下の信頼できる公的機関や専門機関のデータに基づいています。

  1. 厚生労働省: 日本人の食事摂取基準(2020年版)
  2. 国立健康・栄養研究所: 健康食品の安全性・有効性情報
  3. National Institutes of Health (NIH), Office of Dietary Supplements (ODS): Selenium Fact Sheet for Health Professionals
  4. Linus Pauling Institute, Micronutrient Information Center: Selenium

吹田市大阪府長野東19番6号

千里丘かがやきクリニック

院長 有光潤介

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