免疫の「記憶」と「暴走」:動物アレルギーが発症するメカニズムを徹底解説|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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免疫の「記憶」と「暴走」:動物アレルギーが発症するメカニズムを徹底解説

免疫の「記憶」と「暴走」:動物アレルギーが発症するメカニズムを徹底解説|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年1月12日

免疫の「記憶」と「暴走」:動物アレルギーが発症するメカニズムを徹底解説

動物を飼っているうちに、愛するペットに対してアレルギー症状(鼻水、くしゃみ、目のかゆみ、皮膚炎など)を起こしてしまう現象は、免疫システムの「学習」と「記憶」という観点から説明できます。
アレルギーとは、本来体を守るはずの免疫システムが、無害な物質(ここでは動物由来の成分)を「危険な敵」と誤認し、過剰に攻撃してしまう現象です。動物を飼い始めてから発症するまでには、体内で「感作(かんさ)」と「発症(エリシテーション)」という2つの段階を経る必要があります。

アレルギーの正体:毛ではなく「タンパク質」

まず重要なのは、アレルギーの原因(アレルゲン)は動物の「毛」そのものではなく、動物が産生する微細な「タンパク質」であるという点です。

  • ネコの場合(Fel d 1など): 主に唾液や皮脂腺から分泌されます。ネコは毛づくろいをするため、唾液中のタンパク質が毛や皮膚に付着し、乾燥して空気中に飛散します。特に主要アレルゲンである「Fel d 1(フェル・ディー・ワン)」は、粒子が非常に小さく(花粉の1/10程度)、長時間空気中を浮遊し、壁や衣服に付着しやすいという特徴があります。
  • イヌの場合(Can f 1など): 主にフケ、唾液、尿に含まれます。イヌのアレルゲン(Can f 1など)も同様に、生活環境の中に蓄積していきます。

これらのタンパク質は目に見えないほど小さく、飼育環境のあらゆる場所に存在しています。

第1段階:静かなる準備期間「感作」

動物を飼い始めてすぐには症状が出ないのは、免疫システムがまだそのタンパク質を「敵」として認識しきれていない、あるいは攻撃の準備が整っていないからです。この準備期間を「感作」と呼びます。

  1. 侵入と認識:
    動物と生活することで、呼吸や皮膚を通じてアレルゲンが体内に入り込みます。体内の免疫細胞(抗原提示細胞)がこれを取り込み、リンパ球(T細胞)に情報を伝えます。
  2. 誤った学習:
    アレルギー体質(アトピー素因)を持つ人の場合、免疫システムがこのタンパク質を「寄生虫などの敵」と勘違いして記憶します。
  3. 武器の製造(IgE抗体):
    「敵が来た」という情報を受けたB細胞は、その動物のアレルゲン専用の攻撃用ミサイルである「IgE(アイジーイー)抗体」を製造し始めます。このIgE抗体は、皮膚や粘膜の下に待機している「マスト細胞(肥満細胞)」の表面にくっつき、次なる侵入に備えて待ち伏せをします。

この「マスト細胞にIgE抗体がセットされた状態」が、感作が成立した状態です。この時点ではまだ症状は現れません。火薬の入った樽(マスト細胞)に、導火線(IgE抗体)がセットされただけの状態だからです。

第2段階:コップの水があふれる「発症」

感作が成立した後も、動物との生活を続けることで、体内ではIgE抗体が作られ続け、マスト細胞への配備が進みます。そして、ある一定のレベル(個人の許容量、よく「アレルギーのコップ」に例えられます)を超えた時、ついに発症します。

  1. スイッチが入る:
    再び動物のアレルゲンが体内に入り、マスト細胞上のIgE抗体(導火線)に結合すると、それがスイッチとなります。
  2. 爆発(脱顆粒):
    マスト細胞が破裂し、中からヒスタミンやロイコトリエンといった化学物質を一気に放出します。
  3. 症状の出現:
  • ヒスタミン: 神経を刺激して「かゆみ」を起こし、血管を広げて「赤み」「腫れ」「鼻づまり」を引き起こします。
  • ロイコトリエン: 気管支を収縮させ、喘息のような咳や呼吸困難を引き起こします。

これが「飼っているうちにアレルギーになる」理由です。突然なったのではなく、水面下で進行していた「感作」が完了し、免疫の攻撃スイッチが入った瞬間なのです。

発症リスクを高める「皮膚バリア」の重要性

なぜ同じように飼っていても、アレルギーになる人とならない人がいるのでしょうか。遺伝的な体質に加え、近年最も注目されているのが「皮膚バリア機能」です。

従来は「吸い込むこと」がアレルギーの原因と考えられていましたが、最新の研究では「皮膚からの侵入(経皮感作)」の方が、より強力にアレルギーを引き起こすことが分かってきました。

  • 健康な皮膚: 角層がバリアとなり、アレルゲンの侵入を防ぎます。
  • 荒れた皮膚: 手荒れ、乾燥肌、湿疹などでバリア機能が低下していると、動物のアレルゲンが容易に体内に侵入します。皮膚から入ったアレルゲンは、免疫システムを強く刺激し、IgE抗体の産生(感作)を急速に進めてしまいます。

つまり、「手荒れをした状態でペットに触れる」「傷のある皮膚を舐めさせる」といった行為は、アレルギー発症のリスクを劇的に高める可能性があるのです。

まとめ

動物を飼っているうちにアレルギーになるのは、日々の接触によって微量のアレルゲンが体内に蓄積し、免疫システムがそれを「排除すべき敵」として記憶(感作)し、その反応強度が個人の許容限界を超えた結果です。

特に、皮膚のバリア機能が低下した状態での接触は、このプロセスを加速させる主要な要因となります。

参考文献

  1. EAACI Molecular Allergology User’s Guide 2.0, Dramburg S, et al. Pediatric Allergy and Immunology, 2023, DOI: 10.1111/pai.13854
    要約: 欧州アレルギー臨床免疫学会による分子アレルギー学の最新ガイドライン。アレルゲンの分子構造、コンポーネント診断(CRD)、および感作のメカニズムを網羅的に解説した、アレルギー診断における世界的な標準文献。
  2. Consensus document on dog and cat allergy, Dávila I, et al. Allergy, 2018, DOI: 10.1111/all.13391
    要約: イヌ・ネコアレルギーに関する国際的なコンセンサス文書。主要アレルゲン(Fel d 1, Can f 1等)の特性、環境中の分布、診断法、および免疫療法を含む治療戦略について、専門家の合意に基づき詳細にまとめられている。
  3. Dog and Cat Allergies: Current State of Diagnostic Approaches and Challenges, Chan SK, Leung DYM. Allergy, Asthma & Immunology Research, 2018, DOI: 10.1111/all.13391
    要約: イヌ・ネコアレルギーの診断と臨床的課題に関するレビュー。特に成分抗原ごとの感作パターンの違いや、従来の診断法の限界、および分子レベルでの診断の有用性について詳述している。
  4. The major cat allergen, Fel d 1, in diagnosis and therapy, Grönlund H, et al. International Archives of Allergy and Immunology, 2010, DOI: 10.1159/000250435
    要約: ネコの主要アレルゲン「Fel d 1」に焦点を当てたレビュー。その特殊な分子構造、空気中での高い浮遊性、および免疫系に対する強力な感作能について科学的に分析している。
  5. A homozygous frameshift mutation in the mouse Flg gene facilitates enhanced percutaneous allergen priming, Fallon PG, et al. Nature Genetics, 2009, DOI: 10.1038/ng.358
    要約: 皮膚バリア機能の要である「フィラグリン」遺伝子の変異が、皮膚からのアレルゲン透過性を高め、経皮感作(皮膚からのアレルギー獲得)を促進することを証明した画期的な基礎研究。

 

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