2026年1月08日

型糖尿病は、インスリンの「分泌不足(出が悪い)」と「抵抗性(効きが悪い)」の2つの要素が複雑に絡み合って発症します。どの薬を選択するかは、患者様の病態(どちらの要素が強いか)、合併症の有無、体型、生活スタイルによって決定されます。
以下、主要な薬剤から順に解説します。
1. SGLT2阻害薬(ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬)
代表薬:エンパグリフロジン(ジャディアンス)、ダパグリフロジン(フォシーガ)など
現在、循環器内科や腎臓内科でも多用される、臓器保護のエビデンスが最も豊富な薬剤です。
メカニズム
腎臓の近位尿細管にある「SGLT2」という輸送体の働きを阻害します。通常、腎臓でろ過されたブドウ糖は再吸収されて血液に戻りますが、この再吸収をブロックすることで、1日あたり約60〜100g(240〜400kcal相当)のブドウ糖を尿として体外へ排出させます。
メリット
- 心腎保護: 心不全の入院リスク低下、慢性腎臓病の進行抑制に関して、極めて高いエビデンスがあります。
- 体重減少と血圧低下: カロリー排出と利尿作用により、体重減少と血圧の低下が期待できます。
- インスリン非依存: インスリン分泌能力に関わらず効果を発揮します。
デメリット・注意点
- 尿路・性器感染症: 尿中の糖分が増えるため、細菌が繁殖しやすくなり、膀胱炎やカンジダ症などのリスクが上がります。
- 正常血糖ケトアシドーシス: 血糖値がそれほど高くなくても、極端な糖質制限やシックデイ(体調不良時)に、血液が酸性になる危険な状態(ケトアシドーシス)に陥る稀な副作用があります。
- 脱水: 多尿になるため、十分な水分補給(水やお茶)が必要です。
2. 経口GLP-1受容体作動薬
代表薬:セマグルチド(リベルサス)
これまで注射薬しかなかった強力な薬剤を、吸収促進技術(SNAC技術)により飲み薬にした画期的な薬です。
メカニズム
食後に小腸から分泌されるホルモン「GLP-1」の働きを補います。
- 血糖値が高い時だけインスリン分泌を促進し、血糖値を上げるグルカゴン分泌を抑制します。
- 中枢神経(脳)に作用して食欲を抑制します。
- 胃の内容物排出を遅らせ、満腹感を持続させます。
メリット
- 強力な血糖改善と減量: 飲み薬の中でトップクラスの血糖降下作用と、食欲抑制による体重減少効果があります。
- 心血管リスクの低減: 注射製剤と同様に、動脈硬化性疾患のリスクを減らす可能性が示されています。
デメリット・注意点
- 服用方法が厳格: 胃での吸収を確実にするため、**「起床時、空腹の状態で、約120ml以下の水で服用し、その後30分間は飲食および他の薬の服用を禁止」**というルールを守る必要があります。
- 胃腸障害: 吐き気、嘔吐、下痢、便秘などが飲み始めに多く見られます(徐々に慣れることが多いです)。
3. ビグアナイド薬(BG薬)
代表薬:メトホルミン(メトグルコなど)
古くからある薬ですが、その有用性が再評価され、現在では世界的な第一選択薬(最初に使うべき薬)です。
メカニズム
主に肝臓での糖新生(糖を作って血液中に放出すること)を抑制します。また、末梢組織(筋肉など)でのインスリン感受性を改善し、腸管からの糖吸収も抑制します。最近では、腸内細菌叢への好ましい影響も報告されています。
メリット
- 体重が増えない: インスリン分泌を直接刺激しないため、太りにくいです。
- 低血糖が少ない: 単独使用では低血糖のリスクが極めて低いです。
- 安価で長期的安全性: 薬価が安く、経済的負担が少ない上、長期使用のデータが豊富です。
デメリット・注意点
- 乳酸アシドーシス: 腎機能が低下している人、アルコール多飲者、脱水時、造影剤使用時などに、血液中に乳酸が溜まる重篤な副作用のリスクがあります(極めて稀ですが注意が必要です)。
- 胃腸障害: 下痢、悪心、腹部膨満感が出ることがあります。
4. イメグリミン(グリミン系)
代表薬:イメグリミン(ツイミーグ)
日本で世界に先駆けて発売された、新しいカテゴリーの薬剤です。「ミトコンドリア機能改善薬」とも呼ばれます。
メカニズム
細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアの機能を改善することで、2つの効果を同時に発揮します。
- 膵臓β細胞のミトコンドリアに働き、ブドウ糖濃度に応じたインスリン分泌を促す(分泌能の改善)。
- 肝臓や筋肉のミトコンドリアに働き、インスリンの効きを良くする(抵抗性の改善)。
メリット
- 併用の柔軟性: インスリン分泌促進と抵抗性改善の両方の作用を持つため、他のどの糖尿病薬とも相性が良いです。
- 安全性: 低血糖リスクが低く、腎機能が軽度〜中等度低下していても用量調整で使用可能です。
デメリット・注意点
- 胃腸障害: 吐き気や下痢などの副作用が報告されています。
- 高度腎機能障害での使用不可: eGFRが15未満の患者様には推奨されていません。
5. DPP-4阻害薬
代表薬:シタグリプチン(ジャヌビア)、アログリプチン(ネシーナ)、リナグリプチン(トラゼンタ)など
日本国内で最も処方数が多い薬剤です。欧米人に比べインスリン分泌能力が弱い日本人の体質に合っているとされます。
メカニズム
インクレチン(GLP-1など)を分解する酵素「DPP-4」を阻害します。これにより、食事をした時に出る自分自身のインクレチンが長持ちし、血糖値が高い時だけインスリン分泌が促されます。
メリット
- 低血糖が少ない: 血糖依存性(血糖が高い時だけ効く)があるため、単独では安全性が非常に高いです。
- 副作用が少ない: 体重への影響もなく、高齢者や腎機能が低下した人(一部の薬剤を除く)でも使いやすいです。
デメリット・注意点
-
- 効果がマイルド: SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬ほどの劇的な血糖降下作用や体重減少効果はありません。
- 類天疱瘡: 稀に、皮膚に水ぶくれができる自己免疫疾患を誘発することが報告されています。
6. チアゾリジン薬
代表薬:ピオグリタゾン(アクトス)
インスリン抵抗性(インスリンは出ているが効かない状態)を改善する最強の薬剤です。
メカニズム
肥大化した脂肪細胞に働きかけ、インスリン抵抗性を引き起こす悪玉物質(TNF-αなど)を減らし、善玉物質(アディポネクチン)を増やします。
メリット
- 強力な抵抗性改善: 肥満があり、インスリンが効きにくいタイプの人に劇的に効くことがあります。
- 脳卒中再発予防: 脳血管疾患の既往がある人での再発予防効果が報告されています。
デメリット・注意点
- 浮腫(むくみ)と心不全: ナトリウム貯留作用があるため、むくみやすく、心不全の患者様には禁忌(使用不可)です。
- 体重増加: 皮下脂肪細胞の分化を促進するため、体重が増えやすいです。
- 骨折リスク: 女性において骨折リスクの上昇が報告されています。
7. スルホニル尿素薬(SU薬)
代表薬:グリメピリド(アマリール)、グリベンクラミド(オイグルコン)など
歴史が長く、かつては治療の主役でしたが、現在は使い方が限定されています。
メカニズム
膵臓のβ細胞にあるSU受容体に結合し、強制的にインスリンを分泌させます。血糖値の高低に関わらず作用します。
メリット
- 確実で強力な効果: 血糖値を下げる力は非常に強いです。
- 安価: 薬価が安いです。
デメリット・注意点
- 低血糖: 最も注意すべき副作用です。特に高齢者や腎機能低下者では重篤化しやすいです。
- 体重増加: インスリンの同化作用により太りやすくなります。
- 二次無効: 長期間、膵臓を鞭打って働かせるため、膵臓が疲弊し、徐々に薬が効かなくなることがあります。現在は、少量(グリメピリド0.5mg〜1mgなど)の使用が推奨されます。
8. 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
代表薬:レパグリニド(シュアポスト)、ミチグリニド(グルファスト)など
「食べる直前」に飲むことで、SU薬の作用を短時間だけ発揮させる薬です。
メカニズム
SU薬と同じく膵臓を刺激しますが、吸収と分解が非常に速いです。食後のインスリン分泌の立ち上がりを改善します。
メリット
- 食後高血糖の改善: 食後の血糖スパイクをピンポイントで抑えます。
- 低血糖リスクの軽減: 作用時間が短いため、次の食事の前まで低血糖を引きずることが少ないです。
デメリット・注意点
- 服用の煩雑さ: 毎食「直前」に飲む必要があり、飲み忘れや、食事を摂らないのに飲んでしまうことによる低血糖に注意が必要です。
9. α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
代表薬:ボグリボース(ベイスン)、アカルボース(グルコバイ)、ミグリトール(セイブル)
糖の「吸収」の段階に働きかける薬です。
メカニズム
小腸の粘膜にある、多糖類をブドウ糖に分解する酵素(α-グルコシダーゼ)の働きを阻害し、糖の吸収スピードを緩やかにします。
メリット
- 食後高血糖の抑制: インスリンを無理に出させるのではなく、血糖値の上昇カーブをなだらかにします。
- 体重への影響: 体重増加を起こしにくいです。
デメリット・注意点
- 腹部症状: 糖が分解されないまま大腸に届くため、ガスが発生し、お腹の張り(膨満感)、放屁(おなら)の増加、軟便などが非常に高頻度で起こります。
- 低血糖時の対応: 他の薬(SU薬など)と併用して低血糖が起きた場合、砂糖(ショ糖)ではなく、ブドウ糖そのものを摂取しないとすぐに吸収されず回復しません。
治療のトレンド:臓器を守る時代へ
かつては「HbA1cを下げること」が唯一の正義でした。しかし、大規模な臨床試験の結果、血糖値を下げるだけでは必ずしも心臓病や死亡率が減らないことが分かってきました。
現在、世界的なガイドライン(米国糖尿病学会・欧州糖尿病学会など)では、以下のような方針が推奨されています。
- 心不全や慢性腎臓病、動脈硬化性疾患がある場合: HbA1cの値に関わらず、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬(注射が主だが飲み薬もある)を優先的に使用する。これらは臓器保護のエビデンスが確立しているためです。
- それ以外の場合: 基本的にはメトホルミンから開始し、副作用やコスト、体重管理の必要性に応じて他の薬を組み合わせる。
副作用と付き合うために
すべての薬には副作用のリスクがありますが、医師は「ベネフィット(利益)」が「リスク」を上回ると判断した場合にのみ処方します。
- 低血糖: 冷や汗、動悸、手指の震え、強い空腹感などがサインです。すぐにブドウ糖やジュースを摂取できるよう準備しておくことが大切です。
- シックデイ(病気の時): 熱がある、下痢をしている、食事がとれない時は、薬を飲むのを止めるべき場合があります(特にSGLT2阻害薬、メトホルミン、SU薬)。事前に主治医と「飲めない時はどうするか」を相談しておくことが重要です。
まとめ
糖尿病の内服薬は、単なる「血糖値下げ薬」から「全身の臓器を守り、健康寿命を延ばす薬」へと進化しています。 どの薬が最適かは、患者様一人ひとりの体の状態、生活スタイル、合併症の有無によって異なります。「隣の人が飲んでいるから良い薬」というわけではありません。 ご自身の飲んでいる薬がどのような目的で処方されているのか、主治医や薬剤師とよく話し合い、納得して治療を継続することが、将来の健康を守る鍵となります。
参考文献
- 9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026, ElSayed NA, et al. Diabetes Care, 2026, DOI: https://doi.org/10.2337/dc26-S009
要約: 米国糖尿病学会(ADA)による2026年版の最新治療ガイドライン。心不全・慢性腎臓病・動脈硬化性疾患を持つ患者へのSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の優先投与、および体重管理を治療の中核に据える方針を詳述した世界標準の指針。 - Metformin: clinical use in type 2 diabetes, Sanchez-Rangel E, et al. Diabetologia, 2017, DOI: https://doi.org/10.1007/s00125-017-4336-x
要約: 第一選択薬であるメトホルミンの作用機序(肝糖産生抑制等)と臨床応用に関する詳細なレビュー。長期的な安全性や、なぜ多くのガイドラインで最初に使うべき薬とされているかの科学的根拠を網羅的に解説。 - Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes, Zinman B, et al. New England Journal of Medicine, 2015, DOI: https://doi.org/10.1056/NEJMoa1504720
要約: SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)が、心血管疾患を持つ2型糖尿病患者の心血管死や入院リスクを有意に低下させることを証明した「EMPA-REG OUTCOME試験」。現代の「臓器を守る治療」への転換点となった重要論文。 - Efficacy and safety of imeglimin monotherapy versus placebo in Japanese patients with type 2 diabetes (TIMES 1): a double-blind, randomized, placebo-controlled, phase 3 trial, Dubourg J, et al. Diabetes Care, 2021, DOI: https://doi.org/10.2337/dc20-0763
要約: 日本人2型糖尿病患者を対象としたイメグリミン(ツイミーグ)の第3相臨床試験。プラセボと比較して有意な血糖降下作用を示し、安全性も許容範囲内であることを証明した、グリミン系薬剤承認の基盤となった重要文献。 - Oral Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes, Husain M, et al. New England Journal of Medicine, 2019, DOI: https://doi.org/10.1056/NEJMoa1901118
要約: 経口GLP-1受容体作動薬(セマグルチド/リベルサス)の心血管安全性を検証した「PIONEER 6試験」。心血管死や心筋梗塞などのリスクを増加させず、むしろ低下させる傾向を示し、安全性を確立した試験。 - Physiology and Pharmacology of DPP-4 in Glucose Homeostasis and the Treatment of Type 2 Diabetes, Deacon CF. Frontiers in Endocrinology, 2019, DOI: https://doi.org/10.3389/fendo.2019.00080
要約: 日本で広く使われるDPP-4阻害薬の薬理学的メカニズムを解説。インクレチン分解酵素を阻害することで、血糖値が高い時だけインスリン分泌を促す仕組みや、低血糖リスクの低さについて詳述したレビュー。 - Thiazolidinedione Use, Fluid Retention, and Congestive Heart Failure: A Consensus Statement From the American Heart Association and American Diabetes Association, Nesto RW, et al. Circulation, 2003, DOI: https://doi.org/10.1161/01.CIR.0000103683.99399.7E
要約: チアゾリジン薬が心不全を誘発・悪化させるリスクに関するAHAとADAの合同声明文。強力なインスリン抵抗性改善作用を持つ一方で、体液貯留による心負荷に十分な注意が必要であることを警告し、使用上の指針を定めた重要文献。