同じダニなのに、なぜ症状は人それぞれ?―アレルギーの正体を免疫から解き明かす|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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同じダニなのに、なぜ症状は人それぞれ?―アレルギーの正体を免疫から解き明かす

同じダニなのに、なぜ症状は人それぞれ?―アレルギーの正体を免疫から解き明かす|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年1月17日

同じダニなのに、なぜ症状は人それぞれ?―アレルギーの正体を免疫から解き明かす

アレルギー反応の共通基盤:全身の免疫システム

まず、症状がどこに出るかに関わらず、すべてのアレルギー患者さんの体内で起きている共通の現象があります。それは「IgE(アイジーイー)抗体」による感作です。

健康な人の免疫システムは、ダニの死骸やフンを無視しますが、アレルギー体質の人の免疫システムはこれを「危険な敵」と誤認します。このとき、ダニの成分(タンパク質)にぴったりくっつく「ダニ特異的IgE抗体」という武器が作られます。

このIgE抗体は、血液に乗って全身を巡り、皮膚や粘膜の下に待機している「マスト細胞(肥満細胞)」の表面にくっつきます。これで迎撃準備が完了した状態を「感作」と呼びます。

再びダニが体に入ってくると、マスト細胞上のIgE抗体がそれをキャッチし、マスト細胞が爆発するように化学伝達物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)を放出します。このヒスタミンが神経を刺激すれば「かゆみ」、血管を広げれば「赤み・腫れ」、腺を刺激すれば「鼻水・涙」となります。

放出される物質は同じでも、それが「鼻の粘膜」で起きればくしゃみになり、「目の結膜」で起きれば目のかゆみになり、「皮膚」で起きれば湿疹になるのです。

なぜ反応する場所が違うのか:臓器特異性と遺伝

では、なぜマスト細胞の爆発が特定の人では鼻で、特定の人では皮膚で起きるのでしょうか。これには遺伝的な「臓器の弱さ(臓器特異性)」が関係しています。

私たちの体には、遺伝的に「炎症を起こしやすい場所」の個人差があります。

例えば、気管支の壁が生まれつき敏感な家系の人では、ダニ吸入によって気管支で炎症が起きやすく、喘息になります。

一方で、皮膚のバリア機能を作る遺伝子(フィラグリン遺伝子など)に変異がある人は、皮膚の防御壁が隙間だらけになっているため、そこからダニ成分が侵入しやすく、皮膚で激しい炎症(アトピー性皮膚炎)が起きます。

つまり、体の中で一番防御が手薄な場所、あるいは免疫細胞が集まりやすい場所が、その人の「主戦場」となるのです。

侵入ルートの違い:経皮感作と経気道感作

アレルゲンが「どこから入ってきたか」も症状を決定づける大きな要因です。

吸入によるルート(経気道感作)

ダニの死骸やフンは乾燥して粉々になり、微粒子として空中に舞い上がります。これを呼吸とともに吸い込んだ場合、最初に接触するのは鼻の粘膜や目の結膜、そして気管支です。したがって、空中のダニに反応するタイプの人は、鼻炎(くしゃみ・鼻水)、結膜炎(目のかゆみ)、喘息といった呼吸器・粘膜の症状が中心になります。

皮膚からのルート(経皮感作)

近年の研究で最も重要視されているのが、皮膚からの侵入です。

正常な皮膚はダニを通しませんが、乾燥肌や湿疹でバリアが壊れている皮膚では、ダニの成分が奥深くまで浸透します。皮膚の下で免疫細胞がダニを認識すると、全身性の強いアレルギー反応のスイッチが入ります。

特に乳幼児期においては、まず皮膚からダニのアレルギーが始まり(アトピー性皮膚炎)、そこで作られたIgE抗体や活性化した免疫細胞が、やがて血液に乗って鼻や肺へ移動し、数年後に鼻炎や喘息を引き起こすことが分かっています。

アレルギー・マーチ:年齢による症状の変遷

「人によって症状が違う」だけでなく、「同じ人でも年齢によって症状が変わる」ことがあります。これを「アレルギー・マーチ(アレルギーの行進)」と呼びます。

典型的なパターンでは、乳児期に顔や体の湿疹(アトピー性皮膚炎)から始まります。皮膚のバリアが未熟なためです。

その後、幼児期から学童期になると、皮膚の症状は少し落ち着く一方で、今度は気管支喘息を発症します。

さらに思春期や成人になると、アレルギー性鼻炎(花粉症や通年性鼻炎)が主体になります。

つまり、現在「鼻炎だけ」の人も、過去には「皮膚炎」があったかもしれませんし、現在「皮膚炎だけ」の子供も、将来「喘息」になるリスクを持っています。このように、症状の違いは、その人がアレルギー・マーチのどの段階(ステージ)にいるかを表している場合があるのです。

局所の微細環境:サイトカインの使い分け

最後に、分子レベルのメカニズムについて触れます。

アレルギー炎症の現場では、免疫細胞同士が「サイトカイン」というメッセージ物質を出し合って指令を出しています。

実は、臓器によってこの指令の種類が微妙に異なります。

アトピー性皮膚炎の皮膚では、「IL-31(インターロイキン31)」というサイトカインが多く放出されます。これは別名「かゆみサイトカイン」と呼ばれ、感覚神経を直接刺激して猛烈なかゆみを引き起こします。

一方、喘息の気道や鼻炎の鼻粘膜では、「IL-4」や「IL-13」に加え、「IL-5」などが働き、粘液(鼻水・痰)の産生や、好酸球という細胞の動員を促します。

同じダニアレルギーでも、皮膚という組織、鼻という組織が、それぞれ特有のサイトカイン環境を作り出しているため、皮膚では「かゆみと湿疹」、鼻では「水っぽい鼻水と腫れ」というように、出力される症状の形が変わるのです。

まとめ

ダニアレルギーの症状が人によって異なる理由は、以下の4点の組み合わせで説明されます。

  • 遺伝的要因:生まれつき、皮膚、鼻、気管支のどこが弱いか(ショック臓器)が人によって異なる。
  • 侵入経路:アレルゲンを吸い込んだのか、皮膚から入ったのかによって、最初の反応場所が決まる。
  • 時間の経過:アレルギー・マーチという進行プロセスの中で、年齢とともに主となる症状が皮膚から呼吸器へと移動していく。
  • 分子メカニズム:それぞれの臓器で放出される指令物質(サイトカイン)の種類が異なり、特有の症状を引き起こす。

これらが複雑に絡み合い、ある人は「目がかゆい」、ある人は「肌が荒れる」という個別の症状として現れています。

参考文献

  1. EAACI Molecular Allergology User’s Guide, Matricardi PM, et al., Pediatric Allergy and Immunology, 2016, DOI: 10.1111/pai.12563
    要約: 欧州アレルギー臨床免疫学会による分子アレルギー学のガイドライン。アレルゲン成分(コンポーネント)を用いた診断の有用性を解説し、IgE感作のパターンが個人の症状やリスクとどう関連するかを体系化した重要文献。
  2. Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma (ARIA) 2008 update, Bousquet J, et al., Allergy, 2008, DOI: 10.1111/j.1398-9995.2007.01620.x
    要約: アレルギー性鼻炎と喘息を「一つの気道、一つの病気」として捉えるARIAガイドラインの更新版。上気道(鼻)の炎症が下気道(肺)へ波及するメカニズムと、包括的な治療戦略について詳述している。
  3. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis, Palmer CN, et al., Nature Genetics, 2006, DOI: 10.1038/ng1767
    要約: 皮膚バリア機能を担うタンパク質「フィラグリン」の遺伝子変異が、アトピー性皮膚炎の主要な発症リスクであることを解明した研究。バリア機能の破綻がアレルギー発症の起点となることを遺伝子レベルで示した。
  4. Atopic dermatitis and the atopic march, Spergel JM, Paller AS, Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2003, DOI: 10.1016/j.jaci.2003.09.033
    要約: アトピー性皮膚炎から喘息やアレルギー性鼻炎へと進展する「アレルギー・マーチ」の概念を確立した代表的なレビュー。皮膚バリアの欠陥が経皮感作を引き起こし、全身のアレルギー疾患へとつながる過程を詳細に解説している。
  5. Ocular allergy overview, Bielory L, Immunology and Allergy Clinics of North America, 2008, DOI: 10.1016/j.iac.2007.12.011
    要約: 眼のアレルギー疾患に関する包括的レビュー。結膜におけるマスト細胞の役割、神経と免疫系の相互作用によるかゆみの発生機序、および鼻炎との密接な関連性について病態生理学的に詳述している。

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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