2026年1月14日

アレルギー体質が子供に遺伝するかどうかという疑問は、多くの方が抱く不安の一つです。
結論としては、アレルギー体質には遺伝的な要因が深く関わっています。しかし、遺伝だけで全てが決まるわけではありません。
現在の医学的研究に基づき、遺伝の確率、具体的に何が遺伝するのか、そして環境要因との関係について、一般の方にもわかりやすく解説します。
アレルギー体質は遺伝するのか
アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなど)を発症しやすい体質のことを医学的に「アトピー素因」と呼びます。この素因は、確かに親から子へと遺伝することが多くの研究で明らかになっています。
過去の統計データや疫学調査によると、両親のアレルギー体質の有無によって、子供がアレルギー疾患を発症する確率は以下のように推計されています。
両親ともにアレルギー体質の場合
子供が発症する確率は約50パーセントから70パーセント、報告によっては80パーセント近くに達するとされています。
両親のどちらか一方がアレルギー体質の場合
子供が発症する確率は約30パーセントから50パーセント程度と言われています。
両親ともにアレルギー体質でない場合
それでも子供が発症する確率はゼロではなく、約10パーセントから15パーセント程度あります。
このデータが示す通り、遺伝の影響は大きいものの、両親がアレルギーだからといって必ず子供もアレルギーになるわけではありません。逆に、両親にアレルギーがなくても発症するケースも十分にあり得ます。
具体的に何が遺伝するのか
「アレルギーそのもの」が遺伝するわけではありません。例えば、親が「そばアレルギー」だからといって、子供も必ず「そば」に反応するわけではないのです。遺伝するのは、あくまで「アレルギーを起こしやすい身体の仕組み」です。具体的には以下の2つの要素が遺伝しやすいと考えられています。
IgE抗体を作りやすい体質
私たち人間の体には、ウイルスや細菌などの異物が入ってきたときに、それを攻撃して排除しようとする免疫機能が備わっています。アレルギー体質の方の免疫システムは、本来は無害なもの(花粉、ダニ、特定の食べ物など)に対しても過剰に反応し、「IgE抗体」という物質を大量に作ってしまう傾向があります。このIgE抗体を産生しやすい能力が遺伝します。
皮膚や粘膜のバリア機能の弱さ
近年の研究で特に注目されているのが、皮膚のバリア機能に関連する遺伝子です。健康な皮膚は、水分を保ち、外からの刺激やアレルゲンの侵入を防ぐバリアの役割を果たしています。しかし、遺伝的に「フィラグリン」という皮膚の保湿成分を作る遺伝子に変異がある場合など、生まれつき皮膚が乾燥しやすくバリア機能が弱いことがあります。バリアが弱いと、そこからアレルゲンが体内に侵入しやすくなり、結果としてアレルギーを発症するリスクが高まります。
遺伝以外の要因:環境因子の重要性
近年、アレルギー疾患の患者数は世界的に増加傾向にあります。遺伝子の変化は何百年、何千年という単位で起こるものであり、ここ数十年の急激な患者数の増加を遺伝だけで説明することはできません。そこで重要視されているのが「環境因子」です。
遺伝的にアレルギーになりやすい素質(火薬)を持っていても、それに点火する環境(火種)がなければ発症しないことがあります。逆に、遺伝的素因がそれほど強くなくても、環境要因が重なれば発症することがあります。発症に関与すると考えられている主な環境因子には以下のようなものがあります。
生活環境の衛生状態(衛生仮説)
乳幼児期に細菌やウイルスにさらされる機会が減ったことで、免疫システムが本来戦うべき相手を見失い、無害なものに攻撃を仕掛けるようになったという説です。
食生活の変化
加工食品の増加、腸内環境の変化などが免疫系に影響を与えている可能性があります。
居住環境
気密性の高い住宅が増えたことで、ダニやカビが繁殖しやすくなり、これらを吸い込む機会が増えたことが挙げられます。
大気汚染やタバコの煙
排気ガスやPM2.5、受動喫煙などは、粘膜を傷つけアレルギー反応を誘発しやすくします。
アレルギーマーチという現象
遺伝的素因を持つ子供の場合、「アレルギーマーチ」と呼ばれる現象が起きることがあります。これは、年齢とともに現れるアレルギー疾患の種類が変化していく様子を行進(マーチ)に例えたものです。
典型的には、乳児期に「アトピー性皮膚炎」から始まり、皮膚のバリア機能が低下した部分から食物アレルゲンが侵入することで「食物アレルギー」を発症します。その後、幼児期から学童期にかけて「気管支喘息」が現れ、思春期頃には「アレルギー性鼻炎(花粉症など)」へと症状が移行、あるいは合併していくケースです。
この流れを断ち切るために、近年では乳児期からの徹底したスキンケア(保湿)や、適切な時期でのアレルゲン摂取(医師の指導の下で行う場合)などが重要視されるようになってきています。
まとめ
アレルギー体質は確かに遺伝する傾向があります。両親のどちらか、あるいは両方がアレルギーを持っている場合、子供がアレルギーを発症するリスクは統計的に高くなります。遺伝するのは特定の物質へのアレルギー反応ではなく、「IgE抗体を作りやすい免疫システム」や「皮膚のバリア機能の弱さ」といった体質的な特徴です。
しかし、発症するかどうかは、遺伝要因と環境要因の複雑な組み合わせによって決まります。「親のせいでアレルギーになった」と単純に捉えるのではなく、遺伝的なリスクがあることを理解した上で、スキンケアや環境整備など、コントロール可能な要因に目を向けることが大切です。
医学は進歩しており、かつては「除去」一辺倒だった予防法も、現在は「皮膚バリアの保護」や「早期からの適切な管理」へと変わってきています。遺伝について過度に悲観することなく、適切な知識を持って対処していくことが推奨されます。
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有光潤介