2026年1月19日

食物アレルギーと間違えられやすい疾患や症状について、免疫反応が関与しない「食物不耐症」や「仮性アレルゲン」による反応を中心に解説します。
これらの症状は、食べた直後にじんましんや腹痛、下痢などが起こるため、一般的に食物アレルギー(免疫グロブリンE=IgE抗体が関与するもの)と非常に区別がつきにくいのが特徴です。しかし、原因や対処法は根本的に異なります。主な病態をいくつかのカテゴリーに分けて詳述します。
仮性アレルゲンによる反応(化学物質による直接作用)
食物に含まれる特定の化学物質が、アレルギー反応と全く同じ症状(かゆみ、じんましん、発赤など)を直接引き起こすことがあります。これらは「仮性アレルゲン」と呼ばれ、免疫システムを介さずに症状が出ます。
【ヒスタミン中毒(ヒスタミン食中毒)】
ご質問にもあった代表的なものです。マグロ、カツオ、サバなどの赤身魚や、その加工品が常温で放置されると、食品中のアミノ酸(ヒスチジン)がヒスタミン産生菌によって「ヒスタミン」という物質に変化します。このヒスタミンは、アレルギー反応で体内の肥満細胞から放出される物質そのものです。
そのため、これを食べると、アレルギー体質でなくても誰にでも、食べた直後から顔面紅潮、じんましん、頭痛、舌のピリピリ感などが生じます。加熱してもヒスタミンは分解されないため、煮ても焼いても防げないのが特徴です。「サバアレルギー」だと思っていた人が、実はこのヒスタミン中毒だったというケースは非常に多く見られます。
【アセチルコリン、セロトニンなどを含む食品】
タケノコ、ヤマイモ、ナス、トマト、バナナなどには、アセチルコリンやセロトニンといった神経伝達物質や、血管に作用する物質が含まれています。これらを大量に摂取すると、口の周りが赤くなったり、かゆみを感じたり、頭痛が起きたりすることがあります。これもアレルギー検査(IgE抗体)は陰性となりますが、症状だけを見るとアレルギーと酷似しています。
【サリチル酸塩】
イチゴやトマト、一部のスパイスに含まれるサリチル酸塩に対して過敏な反応を示す人がいます。アスピリン喘息の患者さんなどで見られることが多く、摂取により鼻症状や喘息、じんましんが悪化することがあります。
食物不耐症(消化酵素の欠損や代謝異常)
特定の食物を消化・代謝する酵素が体質的に不足しているために起こる不調です。免疫反応ではなく、物質の処理能力の問題です。
【乳糖不耐症】
牛乳に含まれる糖質「乳糖(ラクトース)」を分解する酵素(ラクターゼ)が小腸で不足している状態です。分解されなかった乳糖が大腸に届くと、腸内細菌によって発酵し、ガスが発生したり、浸透圧の関係で水分が腸内に引き込まれたりします。
その結果、腹痛、腹部膨満感、下痢が起こります。牛乳アレルギー(カゼインなどのタンパク質への反応)とは異なり、呼吸困難やじんましんなどの全身症状は通常起こりません。
【アルコール不耐症】
アルコールを分解する酵素(ALDH2など)の働きが弱い、あるいは欠損している体質です。少量のアルコールや、奈良漬け、洋酒入りの菓子などを食べただけで、顔が赤くなる、動悸がする、吐き気がするといった症状が出ます。これを「アルコールに対するアレルギー」と表現する人がいますが、医学的には代謝酵素の問題です。
薬理学的作用を持つ食品成分
食品に含まれる成分が、薬のような作用(薬理作用)を及ぼして症状を引き起こすケースです。
【カフェイン】
コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどに含まれます。中枢神経興奮作用や胃酸分泌促進作用があり、動悸、震え、吐き気、腹痛などを引き起こすことがあります。これを「体に合わない=アレルギー」と捉える方がいますが、過剰摂取による中毒症状や感受性の高さによるものです。
【チラミン】
チーズ、赤ワイン、チョコレート、発酵食品などに含まれるチラミンには、血管を収縮させ、その後拡張させる作用があります。これにより、摂取後に激しい偏頭痛や動悸が起こることがあります。
食品添加物過敏症
保存料や着色料などの添加物に対して過敏反応を示すことがあります。
【亜硫酸塩】
ワインの酸化防止剤やドライフルーツの漂白剤として使われる亜硫酸塩は、一部の人(特に喘息患者)において、気道の収縮(喘息発作)やじんましんを引き起こすことが知られています。
【黄色4号(タートラジン)】
着色料の一種で、稀にじんましんや喘息症状を誘発することが報告されています。
過敏性腸症候群(IBS)とFODMAP(フォドマップ)
近年注目されている概念です。小腸で吸収されにくい特定の発酵性の糖質(FODMAP)を多く含む食品(小麦、玉ねぎ、豆類、一部の乳製品など)を摂取すると、腸内で過剰に発酵し、腹痛や下痢、便秘を引き起こします。
例えば、小麦を食べるとお腹の調子が悪くなるため「小麦アレルギー」や「グルテン不耐症」を疑う人がいますが、実際には小麦に含まれる「フルクタン」という糖質に対する過敏性腸症候群の症状である場合があります。
まとめ:正しい診断の重要性
これら「アレルギーに似た病気」は、血液検査(特異的IgE抗体検査)を行っても陰性となることがほとんどです。アレルギーではないのに「アレルギーだ」と思い込み、不要な食事制限を行うことは、栄養バランスの偏りや生活の質(QOL)の低下を招きます。
特に子供の場合、魚によるヒスタミン中毒を魚アレルギーと誤認して魚類を完全除去してしまうと、貴重なタンパク源やDHAなどの摂取機会を失うことになります。
食べた時の状況(食材の鮮度、体調、量)や症状の再現性を冷静に観察し、専門医による問診や負荷試験などを通じて、それが「免疫反応(アレルギー)」なのか、「代謝・中毒反応(不耐症・仮性アレルギー)」なのかを明確に区別することが推奨されます。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介