サンシシ(山梔子)とは何か
サンシシは、アカネ科のクチナシの果実を乾燥させた生薬です。
古くから消炎、鎮痛、充血の緩和、精神安定(イライラの解消)などの作用があるとされ、多くの漢方方剤に含まれています。
サンシシが含まれる主な漢方方剤
以下のような処方にサンシシが含まれています。ご自身が服用している薬の名前がないか確認してください。
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加味逍遙散(かみしょうようさん):更年期障害や生理不順によく使われます。
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黄連解毒湯(おうれんげどくとう):のぼせ、更年期障害、皮膚炎などに使われます。
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茵ちん蒿湯(いんちんこうとう):蕁麻疹や口内炎などに使われます。
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辛夷清肺湯(しんいせいはいとう):鼻づまり、副鼻腔炎などに使われます。
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防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん):肥満症によく使われます。
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清上防風湯(せいじょうぼうふうとう):ニキビ治療に使われます。
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加味帰脾湯(かみきひとう):高齢者の不眠に使われます。
※これらは代表例であり、他にもサンシシを含む製剤は多数存在します。
報告されている2つの主要な副作用
サンシシの長期服用(一般的には5年以上とされることが多いですが、個人差があります)によって報告されている特異な副作用は、主に以下の2点です。
1) 腸管静脈硬化症
【どのような病気か】
大腸の壁の中を走る静脈に石灰化(カルシウムが沈着して硬くなること)や線維化が起こり、血流が悪くなる病気です。静脈が硬くなることで血液が戻りにくくなり、腸の粘膜が鬱血(うっけつ)して暗紫色に変色します。重症化すると腸管の壁が厚くなり、腸閉塞や壊死を引き起こすこともあります。
【自覚症状】
初期は無症状のことが多いですが、進行すると以下の症状が現れます。
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腹痛
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下痢
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便秘
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腹部膨満感(お腹が張る)
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悪心・嘔吐
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下血(稀ですが、進行した場合に見られることがあります)
【科学的メカニズム】
サンシシに含まれる成分「ゲニポシド(Geniposide)」が原因物質です。
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口から入ったゲニポシドが、腸内細菌の酵素によって「ゲニピン(Genipin)」という物質に分解されます。
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このゲニピンは、アミノ酸やタンパク質と反応して青色の色素を生成する性質があります。
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この青色色素が腸間膜静脈(腸の血液を集める血管)の壁に長期間かけて徐々に沈着します。
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沈着が続くと、血管壁が炎症を起こして厚く硬くなり(繊維化・石灰化)、血液の流れが滞るようになります。
2) 皮膚の青銅色の色素沈着(眼瞼周囲などの変色)
【どのような症状か】
腸管静脈硬化症を発症している患者さんの中に、皮膚の色調変化が見られるケースが報告されています。
特に特徴的なのが、目の周り(眼瞼)、顔面、爪、手掌(手のひら)、下腿(すね)などが、青銅色〜青紫色に変色する症状です。
【なぜ皮膚が変色するのか】
これも腸管静脈硬化症と同様に、ゲニピン由来の青色色素が原因と考えられています。
腸管から吸収された色素成分が血流に乗って全身に回り、皮膚の薄い部分や末梢組織に沈着することで、独特の「くすんだ青銅色」や「青みがかった灰色」に見えるようになります。
この症状は、単なる日焼けやシミとは明らかに異なる色調を示し、腸管内で起きている静脈硬化の「サイン」として皮膚に現れている可能性があります。
注意喚起
この副作用は単なる噂ではなく、医学的な調査に基づいて国が正式に注意喚起を行っています。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)による措置
2018年(平成30年)、厚生労働省の指示により、PMDAはサンシシを含有する漢方製剤の添付文書(薬の説明書)を改訂しました。
これにより、「腸管静脈硬化症」が「重大な副作用」の項目に追記されました。
疫学的データとリスク因子
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服用期間:多くの症例報告では、5年以上の長期服用が背景にあります。しかし、3年程度で発症した例も報告されており、個人差や服用量(1日に飲む量)も関係します。
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累積摂取量:サンシシの総摂取量が多いほどリスクが高まると考えられています。
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性別・年齢:報告例には高齢の女性が多い傾向がありますが、これは加味逍遙散など女性に処方されやすい漢方にサンシシが含まれていることが影響している可能性があります。
日本消化器内視鏡学会の見解
消化器内視鏡検査において、大腸粘膜が「暗紫色」や「黒褐色」に変色している所見は、サンシシ長期服用者における腸管静脈硬化症の特異的なサインとして広く認知されています。内視鏡医の間では、このような所見を見た場合、直ちに服薬歴を確認することが常識となっています。
症例提示
60歳代前半の女性で、50代前半から、更年期障害のため、加味逍遙散と黄連解毒湯を5年ほど内服していました。更年期障害が落ち着いた後、不眠症になり、今度は加味帰脾湯が処方されました。加味帰脾湯を飲んでいると睡眠の質がよくなるため、継続して内服していました。60歳くらいから、目の下にクマができるようになり、主治医からは「瘀血」と診断され、桂枝茯苓丸が処方に追加されました。1年間桂枝茯苓丸を飲んでも一向に目の下のクマが改善されないため、当院を受診されました。その患者さんの目の下のくまは、典型的なサンシシの長期内服による色素沈着でした。前医で、「瘀血」と診断されたことから、サンシシの副作用に気づいていなかったと思われ、製薬会社経由で、副作用を見逃していたことを前医に伝えてもらいました。
遠方から来院されたため、処方を「帰脾湯」に変更し、自宅近くの漢方専門医を紹介しました。
加味帰脾湯から、「山梔子」「柴胡」を除いたものが「帰脾湯」になります。
山梔子は長期使いたくないが、柴胡を使いたいときは、補中益気湯と酸棗仁湯を合方しています。
早期発見と対策
もし、サンシシを含む漢方薬を服用している場合、過度に恐れる必要はありませんが、以下の点に注意してください。
1) 服用薬の確認
まず、自分が飲んでいる漢方薬に「サンシシ」が含まれているかを確認してください。お薬手帳を見るか、薬剤師に「この薬にサンシシは入っていますか?」と尋ねるのが確実です。
2) 服用期間の把握
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短期間(数週間〜数ヶ月)の服用:基本的には心配ありません。この副作用は「長期・大量」の服用で蓄積した結果として起こるものです。
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長期間(数年単位)の服用:注意が必要です。漫然と飲み続けていないか、医師と相談する時期かもしれません。
3) 自覚症状のチェック
以下のサインがないか確認してください。
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慢性的な腹痛や便通異常(下痢・便秘の繰り返し)がある。
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目の周りや爪、皮膚が以前より青黒く、あるいは青銅色にくすんできた気がする。
4) 検査の検討
5年以上サンシシを含む漢方薬を服用しており、腹部症状がある場合は、消化器内科を受診し、大腸内視鏡検査や腹部CT検査を受けることをお勧めします。
受診の際は必ず「◯◯という漢方薬を◯年間飲んでいます」と伝えてください。これが診断の決定打になります。
治療と予後(回復について)
【原因薬剤の中止】
最も重要な治療は、サンシシ含有製剤の服用を中止することです。
多くの症例では、服用を中止するだけで腹痛や下痢などの症状は改善に向かいます。
【可逆性(元に戻るか)について】
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症状:腹痛などの自覚症状は、中止後に速やかに改善することが多いです。
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腸管の変化:軽度の着色やむくみは改善することがありますが、血管の石灰化や高度な線維化(硬くなった部分)は、服用をやめても完全に元通りには戻らない(不可逆的である)ことが多いと報告されています。
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皮膚の変色:服用中止により、時間をかけて徐々に薄くなることが期待できますが、完全に消失するまでには年単位の時間がかかる場合があります。
まとめ
サンシシによる腸管静脈硬化症や皮膚変色は、「長期連用」によって引き起こされる副作用です。
漢方薬は本来、体調や証(しょう:体質や状態)に合わせて処方を調整していくものです。「調子が良いから」といって、同じ処方を何年も漫然と飲み続けることにはリスクが伴います。
防風通聖散はやせ薬として有名で、薬局で容易に入手できるため、漫然と長期内服されていることがあり、特に注意が必要です。
重要なポイントのまとめ:
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自己判断で止めない:いきなり止めると原疾患(もともとの病気)が悪化することがあります。まずは処方医に相談してください。
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定期的な見直し:漢方薬も定期的に「今の体質に合っているか」「まだ飲み続ける必要があるか」を医師・薬剤師と確認しましょう。
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大腸検査の重要性:長期服用者は、症状がなくても定期的な大腸検査を受けることで、重症化する前に発見できます。
漢方薬は適切に使えば非常に有用な治療薬です。リスクを正しく理解し、定期的なチェックを行うことで、安全に恩恵を受けることができます。
参考文献・出典
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (PMDA)
医薬品安全対策情報(DSU)No.268 「サンシシ含有製剤の安全対策について」
使用上の注意改訂情報(平成30年3月27日指示分)
厚生労働省
重篤副作用疾患別対応マニュアル「腸管静脈硬化症」
日本消化器病学会 / 日本消化器内視鏡学会
関連論文およびガイドライン(静脈硬化症の診断基準に関する記述)
日本漢方生薬製剤協会
サンシシ含有製剤の適正使用に関するお知らせ
