花粉の飛ばないスギ・ヒノキの仕組みと、日本の森が置き換わる時期について|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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花粉の飛ばないスギ・ヒノキの仕組みと、日本の森が置き換わる時期について

花粉の飛ばないスギ・ヒノキの仕組みと、日本の森が置き換わる時期について|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年3月18日

花粉の飛ばないスギ・ヒノキの仕組みと、日本の森が置き換わる時期について

花粉の飛ばない(少ない)スギ・ヒノキとは?

現在、花粉症対策として開発され、植林が進められている苗木には、大きく分けて「少花粉」と「無花粉」の2種類があります。林野庁ではこれらを総称して「花粉の少ない苗木」と呼んでいます。

・ 少花粉スギ・ヒノキ(花粉量が一般的な木の1%以下)

全国の広大な森の中から、もともと花粉をつける量が極端に少ない「エリートの木」を探し出し、それらを掛け合わせて育てた品種です。完全にゼロというわけではありませんが、花粉の量は通常の木の1パーセント以下と非常に少ないのが特徴です。ヒノキについては無花粉の発見がスギより遅れたため、現在普及している花粉対策苗木のほとんどがこの「少花粉」タイプとなっています。

・ 無花粉スギ(花粉が全く出ない)

木に雄花(おばな:花粉が詰まっている袋のような器官)自体は形成されるものの、細胞分裂の異常によってその中に花粉が全く作られない突然変異の品種です。

この無花粉スギは、1992年に富山県の神社林で初めて発見されました。長年の研究の結果、この「花粉を作らない」という性質は、中学校の理科で習う「メンデルの遺伝の法則(劣性遺伝)」に従って遺伝することが科学的に証明されています。

つまり、親となる木が持つ遺伝子を調べ、無花粉の木同士や、無花粉の遺伝子を隠し持っている木を計画的に交配させることで、花粉を全く飛ばさない苗木を人間の手で確実に作り出すことができるようになったのです。

植え替えがなかなか進まない「4つの理由」

「遺伝の仕組みがわかっていて人工的に作れるなら、すぐに全部の森を植え替えればいいのに」と思うかもしれませんが、現実には非常にゆっくりとしたペースでしか進んでいません。

林野庁のデータによると、2023年時点で、花粉の少ないスギに植え替えられた面積は累計で約4万ヘクタールです。日本のスギ人工林全体は約444万ヘクタールありますから、これまでの実績は「全体の1パーセント以下」にすぎません。なぜこれほどまでにペースが遅いのでしょうか。それには主に4つの厳しい現実があります。

伐採と搬出のコストが高い

日本の人工林の多くは急峻な山の斜面にあります。木を切り倒し、重機を入れて麓まで運び出すには多額の費用がかかります。現在、外国産の安い輸入木材に押されて国産木材の価格が低迷しているため、木を売っても伐採や運搬の費用をまかなえず「赤字」になってしまう山が多く、伐採自体が敬遠されがちです。

林業の担い手不足

過酷な労働環境や従事者の高齢化により、実際に山に入って木を切り、新しい苗木を1本ずつ手作業で植える林業従事者が著しく減少しています。

苗木が育つまでの時間

花粉の少ない苗木を作るためには、まず親となる木(母樹)を育て、花を咲かせ、種を採り、それを苗木として一定の大きさまで育てるまでに何年もかかります。急に「明日から全部無花粉スギの苗木にしてほしい」と言われても、全国の種苗場での生産体制がすぐに追いつくわけではありません。

山の所有者がわからない

長い年月の中で代替わりが進み、「この山は誰のものか」「隣の山との境界線はどこか」がわからなくなっている森林が多く存在します。他人の土地の木を勝手に伐採して植え替えることは法律上できないため、所有者探しに膨大な時間がかかっています。

現在のペースと、完全に置き換わるのは「いつ頃」か?

現状のペース(何十年もかけて累計1パーセント以下)のままでは、日本の森が置き換わるまでに数百年以上の時間がかかってしまいます。この事態を重く見た政府は、2023年に「花粉症対策の全体像」を取りまとめ、植え替えのペースをこれまでの何倍にも大幅に加速させる新たな国家目標を発表しました。

10年後(2033年度ごろ)の目標

花粉の最大の発生源となっているスギ人工林を、重点的に伐採することで「約2割減少」させる。また、新しく植林するスギ苗木の9割以上を「花粉の少ない苗木」にする。

(現状として、新しく植えられるスギ苗木のうち、約5割がすでに花粉の少ない苗木に置き換わっています。しかし、ヒノキの対策苗木はまだ全体の約1割程度に留まっており、生産体制の強化が急がれています)

30年後(2053年度ごろ)の目標

スギ人工林の伐採と植え替えをさらに進め、スギ花粉の発生量を全体で「半減」させる。
上記の通り、国を挙げて対策を極限まで加速させたとしても、30年後(2050年代)でようやく「花粉の量が今の半分になる」というペースが現実的な限界です。

残りの半分をさらに伐採して植え替えるには、計算上さらに数十年の時間が必要になります。樹木は農作物と違い、植えてから伐採して木材として建築などに使えるようになるまでに、少なくとも50年ほどの時間がかかります。そのため、短いサイクルで次々と森を入れ替えることは物理的に不可能です。また、急激に山の木を全て切ってしまうと、土砂崩れなどの深刻な災害を引き起こすリスクがあるため、少しずつ計画的に伐採していく必要があります。

したがって、根拠のない推測を排し、科学的・現実的なデータから導き出される結論としては、日本のすべての人工林スギ・ヒノキが花粉の飛ばない木に「完全に」置き換わる時期は【少なくとも今世紀後半(2070年代から2100年ごろ)、あるいはそれ以上の長い年月がかかる】と言わざるを得ません。状況によっては100年以上を要する、超長期的な国家プロジェクトとなります。

未来に向けての明るい兆し

「完全に置き換わるのは自分が生きている間には終わらないのか」と、がっかりさせてしまったかもしれません。しかし、林業の現場では希望となる技術革新も進んでいます。

近年、「特定母樹(とくていぼじゅ)」と呼ばれるスーパーエリートツリーの開発と普及が急速に進んでいます。これは「花粉が通常の半分以下」であることに加え、「成長スピードが通常の1.5倍以上早い」という優れた特徴を持っています。

成長が早いということは、より早く立派な木材として収穫できるため林業の利益が出やすくなり、植え替えのサイクルを劇的に早めることができます。また、成長が早いぶん二酸化炭素(CO2)をたくさん吸収するため、地球温暖化対策としても非常に優秀です。林野庁はこの特定母樹への植え替えを強力に推進するための補助金制度などを拡充しています。

さらに、切り出した木材の使い道(需要)を増やすため、中高層ビルなどの大型建築物に木材を活用する新しい建築技術の開発や、住宅の木造化を国が支援する動きも活発になっています。「伐って、使って、花粉の少ない苗木を植えて、育てる」という健全な森林のサイクルが、少しずつですが確実に回り始めています。

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック

院長 有光潤介

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