2026年6月13日

秋の足音が近づく8月から10月にかけて、くしゃみや鼻水、目のかゆみに悩まされることはありませんか。それはもしかすると「キク科」の植物による花粉症かもしれません。春のスギ花粉症はよく知られていますが、実は夏から秋にかけても花粉症のシーズンは続いています。
ここでは、キク科の花粉症の原因となる植物、特有の症状、気をつけるべき食物アレルギー、そして日常でできる対策について、科学的な根拠に基づき一般の方にもわかりやすく解説します。
1. キク科の花粉症の原因となる主な植物
キク科の花粉症を引き起こす代表的な植物には、「ブタクサ」と「ヨモギ」があります。これらは日本のどこにでも生えている身近な雑草です。
ブタクサ
空き地や河川敷、道端などに群生する背の高い雑草です。8月から10月にかけて開花し、大量の花粉を飛ばします。北米原産の植物ですが、現在では日本全国に帰化しています。
ヨモギ
草餅の材料などとして日本人には古くから親しまれている植物ですが、こちらも8月から10月にかけて花粉を飛散させます。土手や野原など、日当たりの良い場所に多く自生しています。
スギなどの樹木の花粉が風に乗って数十キロメートルも飛散するのに対し、ブタクサやヨモギなどの「草本類(雑草)」の花粉は比較的重く、飛散距離は数メートルから数十メートル程度にとどまります。そのため、原因となる植物が生えている場所に近づかないことが、最も強力な予防策となります。
2. 主な症状
基本的なアレルギー症状は、春の花粉症と同じです。
・鼻の症状: 立て続けに出るくしゃみ、透明で水のような鼻水、鼻づまり。
・目の症状: 目のかゆみ、充血、涙目。
・その他の症状: 喉のイガイガ感、皮膚のかゆみ、全身の倦怠感。喘息をお持ちの方は、花粉を吸い込むことで咳や息苦しさなどの喘息症状が悪化することもあります。
3. キク科花粉症で特に注意すべき「食物アレルギー」
キク科の花粉症において最も注意しなければならないのが、「花粉食物アレルギー症候群(PFAS)」または「口腔アレルギー症候群(OAS)」と呼ばれる合併症です。
これは、花粉に含まれるタンパク質と、特定の果物や野菜に含まれるタンパク質の構造が非常に似ているために起こります。人間の免疫システムが花粉の成分だと勘違い(交差反応といいます)して、食べ物に対してもアレルギー反応を起こしてしまう現象です。
キク科の花粉症患者が反応しやすい食べ物には、以下のようなものがあります。
・ブタクサ花粉症の方: メロン、スイカ、キュウリ、ズッキーニ(ウリ科)、バナナなど。
・ヨモギ花粉症の方: セロリ、ニンジン(セリ科)、リンゴ、桃、マンゴー、ピーナッツ、さらにはマスタード、黒コショウ、フェンネルなどのスパイス類。
症状としては、これらの生の果物や野菜を食べた直後(数分以内)に、唇、舌、口の中、喉にピリピリ感、かゆみ、イガイガ感、腫れが現れます。多くの場合、原因となるタンパク質が胃酸で分解されるため症状は口の周りにとどまります。しかし、油断は禁物です。
植物のタンパク質の種類によっては、重篤な症状を引き起こすことがあります。少し専門的になりますが、大きく2つのタイプに分けて知っておくと安全です。
・熱に弱いタンパク質(PR-10やプロフィリンなど)
果物などに広く含まれています。これらは熱や胃液の消化酵素に弱いため、加熱調理をすればアレルギー症状が出ないことが多く、生のまま食べて症状が出た場合でも、口の中だけの軽い症状で済むことがほとんどです。
・熱に強いタンパク質(LTP: 脂質転移タンパク質など)
ヨモギ花粉症の患者などが反応を示すことがあるタンパク質です。LTPは熱や消化酵素に対して非常に強いため、加熱調理した食品や加工食品を食べても症状が出ることがあります。また、胃で分解されずに腸までアレルゲンが到達しやすいため、全身のじんましん、腹痛、嘔吐、さらには命に関わるアナフィラキシーショックなど、重篤な症状を引き起こすリスクが高いという厄介な特徴があります。
4. 日常生活での予防と対策
花粉症の症状を和らげ、食物アレルギーの危険を回避するためには、日常生活でのセルフケアと適切な医学的アプローチの両輪が必要です。
原因植物に近づかない
ブタクサやヨモギは背が低く飛散距離が短いため、生息地に近づかないことが最大の防御です。秋の河川敷、堤防、空き地、草むらでの散歩や運動には十分な注意を払いましょう。
花粉を体に入れない
外出時はマスクやメガネを着用し、目や鼻への花粉の侵入を物理的に防ぎます。衣類は、ウールなどの毛羽立った素材を避け、花粉が付着しにくいツルツルとしたポリエステルなどの素材を選ぶと良いでしょう。帰宅時は玄関に入る前に衣服についた花粉を払い落とし、すぐに手洗い、うがい、洗顔を行って花粉を洗い流します。
食事に気をつける
自分がどの果物や野菜、スパイスで口に違和感が出るかをメモしておき、該当する食品の生での摂取を控えることが大切です。特にキク科の花粉飛散時期(8月から10月)は、免疫システムが過敏になっているため食物アレルギーの症状も出やすくなります。口にピリピリとした違和感を覚えたら、決して無理をして飲み込まず、食べるのをやめてください。
適切な薬物治療
症状が出始める前、あるいは軽いうちから耳鼻咽喉科やアレルギー科を受診し、抗ヒスタミン薬の内服や、点鼻薬、点眼薬を処方してもらうことで、ピーク時の不快な症状を大きく軽減できます。
血液検査による正確な診断
医療機関では、血液検査(特異的IgE抗体検査)によって自分がどのアレルゲンに反応しているかを知ることができます。近年では「コンポーネント診断」と呼ばれる、より精密なアレルギー検査も普及してきました。これにより、自分が熱に弱いタンパク質に反応しているのか、それともアナフィラキシーのリスクがある熱に強いタンパク質(LTPなど)に反応しているのかといったレベルまで特定できるようになっています。正確な診断を受けることで、加熱すれば食べられるのか、完全除去すべきかの確かな判断基準が得られます。
秋のアレルギー症状は夏の疲れや風邪と間違われやすいですが、特定の場所に行くと鼻水が出る、特定の果物を食べると口が痒くなるといったサインを見逃さず、適切な対策を取りましょう。
出典元一覧
- Comprehensive review of pollen-food allergy syndrome: Pathogenesis, epidemiology, and treatment approaches, Kato Y, et al., Allergology International, 2025年1月, DOI: 10.1016/j.alit.2024.08.007
要約:花粉食物アレルギー症候群(PFAS)の病態・疫学・治療を網羅的にレビュー。主要アレルゲンはPR-10タンパクやプロフィリンであり、花粉症患者の相当数がPFASを合併する。経口免疫療法や抗IgE療法など新興治療の可能性についても論じられている。 - Pollen-Food Allergy Syndrome: Allergens, Clinical Insights, Diagnostic and Therapeutic Challenges, Haidar L, et al., Applied Sciences, 2024年12月, DOI: 10.3390/app15010066
要約: ブタクサやヨモギを含む花粉と食物の交差反応によるPFASについて、分子レベルでのアレルゲン群(PR-10やLTP等)の働きや、軽微から重篤に至る症状、最新の診断法と治療の課題を論じた重要文献。 - Development of mouse model for oral allergy syndrome to identify IgE cross-reactive pollen and food allergens: ragweed pollen cross-reacts with fennel and black pepper, Kamei A, et al., Frontiers in Immunology, 2022年7月, DOI: 10.3389/fimmu.2022.945222
要約: 口腔アレルギー症候群(OAS)の交差反応アレルゲン同定を目的としたマウスモデルを開発。ブタクサ花粉がフェンネルおよびブラックペッパーと交差反応することを実証し、新規の花粉―食物アレルゲンペアを特定した。