2026年6月19日

「塩分の摂りすぎがむくみを招く」というのはよく知られた話ですが、実は甘いもの(糖質)の摂りすぎも、翌日の強いむくみを引き起こす大きな原因になります。ケーキやアイスクリーム、あるいはラーメンや白米をたくさん食べた翌朝、顔がパンパンに腫れていたり、足が重く感じたりした経験はないでしょうか。
これは一晩で脂肪がついたわけではありません。体内に大量の水分が急激に貯留した結果です。なぜ甘いものが水分の貯留につながるのか——そこには、推測ではなく医学生理学的に解明された明確なメカニズムがあります。主な原因は2つです。「グリコーゲン合成に伴う水分の結合」と「インスリンによる腎臓でのナトリウム再吸収の促進」。本稿では、これらを順にわかりやすく説明します。
原因1:グリコーゲン貯蔵に伴う「水分の抱え込み」(スポンジ効果)
私たちが食事から摂取した糖質(炭水化物や砂糖など)は、消化管で「グルコース(ブドウ糖)」という小さな分子に分解され、血液中に吸収されます。血液中のグルコースは全身の細胞に運ばれてエネルギーとして使われますが、余った分は肝臓や筋肉の細胞内に「グリコーゲン」という形で一時的に貯蔵されます。
グリコーゲンは、いわば体内のエネルギーの貯金箱のようなものです。しかし、このグリコーゲンには「極めて水分を抱え込みやすい」という生理学的な特徴があります。具体的には、体内に1グラムのグリコーゲンを貯蔵するためには、およそ3グラムから4グラムの水分が一緒に結合しなければならないという法則があります。
例えば、甘いものをたくさん食べて、体内に新たに300グラムのグリコーゲンが合成されたと仮定しましょう。この時、300グラムのグリコーゲンに結合するために、その3倍から4倍にあたる900グラムから1200グラム(約1リットル前後)の水分が体内に引き込まれ、留まることになります。
これは、乾燥したスポンジが水を吸って膨らむ様子に似ています。甘いものを食べすぎた翌日に体重が1キロから2キロ急激に増えることがありますが、その正体は脂肪ではなく、グリコーゲンとともに筋肉や肝臓の細胞内に蓄えられた「大量の水分」なのです。細胞内やその周囲の細胞間質液に水分がパンパンに満たされるため、外見上は重度な「むくみ」として現れます。
原因2:インスリン分泌による「腎臓での塩分・水分保持」
甘いものを食べて浮腫むもう一つの重大な原因が、ホルモンと腎臓の働きに関連しています。甘いもの(特に砂糖を多く含むお菓子や清涼飲料水)を摂取すると、血液中の糖分の濃度(血糖値)が急激に上昇します。
この急激な血糖値の上昇を察知すると、すい臓から「インスリン」というホルモンが大量に分泌されます。インスリンの最も有名な働きは、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込ませて血糖値を下げることですが、実はインスリンにはもう一つ、非常に重要な生理作用があります。それが「腎臓に対する作用」です。
腎臓は、血液をろ過して尿を作り、体内の水分量や塩分(ナトリウム)の濃度を一定に保つフィルターの役割を果たしています。通常、余分な塩分や水分は尿として体外に排泄されます。しかし、血液中のインスリン濃度が高くなると、インスリンは腎臓の「尿細管」という部分に直接働きかけ、「一度捨てようとしたナトリウム(塩分)を血液中に回収しなさい(再吸収しなさい)」という強力な命令を出します。
ナトリウムが腎臓から血液中へと引き戻されると、血液中の塩分濃度が上がってしまいます。人間の身体は体液の浸透圧(塩分濃度など)を常に一定に保つように精密にプログラムされているため、上がった塩分濃度を薄めようとして、体内に水分を溜め込むようになります。
つまり、甘いものを食べてインスリンが大量に分泌されると、塩辛いものをいっさい食べていなくても、身体が勝手に「塩分と水分を体内に閉じ込めるモード」に切り替わってしまうのです。これにより、血管の中や細胞の周りの組織液のボリュームが増大し、顔や手足にむくみを引き起こします。
原因3:慢性的な糖質過多による血管内皮のダメージ
上記2つは甘いものを食べた直後から翌日にかけて起こる「急性のむくみ」のメカニズムですが、甘いものを日常的に過剰摂取している場合には、「慢性のむくみ」を引き起こす原因にもなります。
血液中の余分な糖分は、体内のタンパク質と結びついて「AGEs(終末糖化産物)」という老化物質を作り出します。この現象を「糖化」と呼びます。AGEsは血管の壁(血管内皮細胞)を傷つけ、微小な炎症を引き起こします。
健康な血管は、適度な水分を保持しつつ、必要な栄養素だけを組織に浸出させる適度なバリア機能を持っています。しかし、糖化によって血管がダメージを受けると、血管の壁の「透過性」が異常に高くなります。これは、水道のホースに目に見えない小さな穴がたくさん開いて、水が周囲にじんわりと漏れ出しているような状態です。血管の中を流れるべき血液中の水分が、細胞と細胞の間のスペースへと漏れ出しやすくなり、慢性的な浮腫体質を形成してしまいます。
むくみを解消するための生理学的なアプローチ
このように、甘いものを食べたあとの浮腫は「水分と糖の結合」および「インスリンによる塩分・水分の保持」という、正常な生理的反応によって起こります。
したがって、この浮腫を解消するためには、体内に溜まりすぎたグリコーゲンを適度に消費し、インスリンの分泌を落ち着かせることが最も理にかなっています。具体的には、翌日の食事で糖質の摂取量を控えめにすることで、身体はエネルギー源として蓄えられたグリコーゲンを分解して使い始めます。グリコーゲンが分解されれば、結合していた3倍量の水分も同時に解放され、尿として速やかに排泄されます。
また、糖質を控えることでインスリンの分泌量も低下するため、腎臓は再びスムーズにナトリウムと余分な水分を体外へ排泄できるようになります。さらに、軽い有酸素運動を取り入れて筋肉を動かすことでグリコーゲンの消費を促し、カリウムを多く含む野菜などを摂取してナトリウムの排泄を助けることも、医学生理学的に非常に効果的なアプローチです。
参考文献
1.The effect of insulin on renal handling of sodium, potassium, calcium, and phosphate in man, DeFronzo RA, et al. J Clin Invest . 1975 Apr;55(4):845-55. DOI: https://doi.org/10.1172/JCI107996
要約: 健常者を対象とした臨床研究において、インスリンの分泌増加が腎臓の尿細管でのナトリウム排泄を減少(再吸収を促進)させることを証明した論文です。糖質摂取に伴うインスリン追加分泌が、いかにして体内に塩分と水分を強力に貯留させ、浮腫や血圧上昇の基盤となるかを実証した古典的かつ極めて重要な医学生理学の文献です。
2.Glycogen storage: illusions of easy weight loss, excessive weight regain, and distortions in estimates of body composition, Kreitzman SN, et al. Am J Clin Nutr . 1992 Jul;56(1 Suppl):292S-293S. DOI: https://doi.org/10.1093/ajcn/56.1.292S
要約: 体内に1gのグリコーゲンが貯蔵される際、およそ3グラムから4グラムの水分が結合して保持されるという生理学的法則を実証した論文です。炭水化物を過剰摂取してグリコーゲンが合成されるプロセスが、脂肪の蓄積ではなく、急激な体水分量の増加(むくみや一時的な体重増加)を引き起こす主要な原因であることを解説しています。
3.Insulin’s impact on renal sodium transport and blood pressure in health, obesity, and diabetes, Tiwari S, et al. Am J Physiol Renal Physiol . 2007 Oct;293(4):F974-84. DOI: https://doi.org/10.1152/ajprenal.00149.2007
要約: インスリンが腎臓の尿細管へ直接働きかけ、上皮ナトリウムチャネル等の複数のナトリウム輸送体を活性化することで、強力に塩分と水分の再吸収を促進する分子メカニズムを解説した総説です。糖質摂取によるインスリン分泌が、塩分摂取量にかかわらず体液量を増加させ、浮腫を誘発する生理学的プロセスを詳細にまとめています。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本消化器病学会専門医)