新型コロナと腸内細菌の意外な関係|後遺症や免疫に関わる「腸肺軸」とは?|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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新型コロナと腸内細菌の意外な関係|後遺症や免疫に関わる「腸肺軸」とは?

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2026年8月03日

新型コロナと腸内細菌の意外な関係|後遺症や免疫に関わる「腸肺軸」とは?

COVID-19感染と腸内細菌叢の関係:呼吸器の病気になぜ「腸」が深く関与するのか

呼吸器の病気なのに、なぜ腸が関係するのか

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は肺の病気という印象が強いですが、消化管も重要な舞台です。ウイルスが細胞に侵入するときの入り口となるACE2という受容体は、小腸の上皮細胞に非常に多く存在しており、ウイルスは実際に腸の細胞に感染して増殖することが確認されています。下痢、吐き気、食欲低下といった消化器症状もしばしばみられます。

さらに、腸と肺は免疫を通じて influence し合っており、これを「腸肺軸(gut-lung axis)」と呼びます。腸内細菌は免疫の調整、病原体の排除、栄養の代謝に関わるため、そのバランスが崩れると肺の炎症反応にも影響が及ぶと考えられています。

感染すると腸内細菌叢はどう変わるか

香港での初期の研究(15名)では、入院中の患者の便の中で腸内細菌のバランスが崩れ、その変化が便中のウイルス量や重症度と関連していました。とくに、腸を守る働きをもつフェカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)が減り、日和見的な菌が増える傾向がみられました。

続く100名規模の研究でも、患者の腸内細菌叢は非感染者と明確に異なり、投薬の有無にかかわらず変化が認められました。免疫を落ち着かせる働きをもつ菌が減っている人ほど、血液中の炎症物質(TNF、CXCL10など)が高いという関連もありました。注目すべきは、この乱れがウイルス消失後30日以上たっても残っていた点です。

2025年に発表されたシステマティックレビューとメタ解析(15研究、患者904名・対照557名)では、こうした所見が地域や解析手法を超えて一貫していることが示されました。菌の多様性を示すシャノン指数は有意に低下し、F. prausnitziiは減少、エンテロコッカス属は増加していました。

短鎖脂肪酸の減少

腸内細菌は食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸(酪酸など)をつくり、これが腸のバリアを保ち、炎症を抑えます。抗菌薬を使っていない患者66名を対象とした研究では、重症・重篤な患者ほど腸内細菌の短鎖脂肪酸およびL-イソロイシン産生能力が低下しており、便中の短鎖脂肪酸濃度も実際に低下していました。この状態は回復から30日以上経っても続いていました。

罹患後症状(Long COVID)との関係

106名を6か月追跡した研究では、76%が何らかの症状(倦怠感、記憶力低下、脱毛など)を残していました。症状が続いた人では腸内細菌の多様性が低く、Bacteroides vulgatusやRuminococcus gnavusが増え、F. prausnitziiが減っていました。一方、症状が残らなかった人の腸内細菌叢は6か月時点で非感染者と同等まで回復していました。前述のメタ解析でも、多様性の低下はLong COVIDと関連していました(オッズ比1.89)。

ただし、これらはいずれも観察研究です。腸内細菌の乱れが症状の「原因」なのか「結果」なのかは、まだ確定していません。抗菌薬の使用、食事、入院環境なども影響しうる交絡因子です。

ワクチンの効きめとの関連

138名の接種者を調べた研究では、接種前の腸内細菌叢の構成と、中和抗体の産生量や副反応の頻度に関連がみられました。ビフィズス菌の一種(Bifidobacterium adolescentis)やRoseburia faecisが多い人で抗体価が高く、Prevotella copriなどが多い人では副反応が少ない傾向でした。

介入研究の現状

香港で行われた無作為化二重盲検プラセボ対照試験(463名)では、3種のビフィズス菌と3種のプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクス製剤(SIM01)を6か月間服用した群で、プラセボ群より複数の罹患後症状が有意に改善しました。ただしこれは単一施設の試験であり、市販のプロバイオティクス全般に同じ効果があるという意味ではありません。現時点で、腸内細菌を標的とした治療は研究段階です。

まとめと現実的な対応

現時点で確実に言えるのは、COVID-19では腸内細菌の多様性が低下し、酪酸をつくる有益菌が減る傾向があり、その変化が重症度や罹患後症状と統計的に関連している、ということです。因果関係の証明と治療への応用は今後の課題です。

日常でできることとしては、食物繊維や発酵食品を含むバランスのよい食事、十分な睡眠、抗菌薬の適正使用といった、腸内環境全般に良いとされる基本的な生活習慣が挙げられます。特定のサプリメントで予防や治療ができるという科学的根拠は、現時点ではありません。

参考文献

1.Alterations in Gut Microbiota of Patients With COVID-19 During Time of Hospitalization, Zuo T, et al. Gastroenterology. 2020 Sep;159(3):944-955.e8. DOI: https://doi.org/10.1053/j.gastro.2020.05.048
要約: 香港の入院患者15名の便を経時的に解析した先駆的研究。入院中を通じて腸内細菌叢の乱れが持続し、便中ウイルス量や重症度と関連。F. prausnitziiの減少と日和見菌の増加を報告。

2.Gut microbiota composition reflects disease severity and dysfunctional immune responses in patients with COVID-19, Yeoh YK, et al. Gut. 2021 Apr;70(4):698-706. DOI: https://doi.org/10.1136/gutjnl-2020-323020
要約: 患者100名と非感染者78名を比較。免疫調整能をもつ菌の減少が血中TNF、CXCL10などの上昇と相関し、菌叢の乱れはウイルス消失後30日以上持続することを示した。

3.Prolonged Impairment of Short-Chain Fatty Acid and L-Isoleucine Biosynthesis in Gut Microbiome in Patients With COVID-19, Zhang F, et al. Gastroenterology. 2022 Feb;162(2):548-561.e4. DOI: https://doi.org/10.1053/j.gastro.2021.10.013
要約: 抗菌薬未使用の患者66名を解析。重症例ほど腸内細菌の短鎖脂肪酸およびL-イソロイシン産生能が低下し、回復後30日を超えても改善しないことを示した。

4.Gut microbiota dynamics in a prospective cohort of patients with post-acute COVID-19 syndrome, Liu Q, et al. Gut. 2022 Mar;71(3):544-552. DOI: https://doi.org/10.1136/gutjnl-2021-325989
要約: 患者106名を6か月追跡。76%に罹患後症状が残存し、症状のある群では細菌の多様性低下とF. prausnitzii減少が持続。症状のない群は6か月で正常域まで回復した。

5.Gut microbiota composition is associated with SARS-CoV-2 vaccine immunogenicity and adverse events, Ng SC, et al. Gut. 2022 Jun;71(6):1106-1116. DOI: https://doi.org/10.1136/gutjnl-2021-326563
要約: 接種者138名の便を解析。接種前の腸内細菌構成が中和抗体価および副反応の頻度と関連することを示し、菌叢を介した免疫応答調整の可能性を提起した。

6.Gut microbiota in COVID-19: key microbial changes, potential mechanisms and clinical applications, Zhang F, Lau RI, Liu Q, Su Q, Chan FKL, Ng SC. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2023 May;20(5):323-337. DOI: https://doi.org/10.1038/s41575-022-00698-4
要約: ACE2発現、腸肺軸、免疫恒常性という三つの観点から機序を整理した総説。急性期から罹患後症状までの菌叢変化を体系化し、介入戦略の課題も論じている。

7.A synbiotic preparation (SIM01) for post-acute COVID-19 syndrome in Hong Kong (RECOVERY): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial, Lau RI, et al. Lancet Infect Dis. 2024 Mar;24(3):256-265. DOI: https://doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00685-0
要約: 罹患後症状を有する463名を対象とした無作為化二重盲検試験。ビフィズス菌3種とプレバイオティクスの併用製剤で複数症状が有意に改善。多施設での検証が必要と結論。

8.Gut Microbiome Dysbiosis in COVID-19: A Systematic Review and Meta-Analysis of Diversity Indices, Taxa Alterations, and Mortality Risk, Mateescu DM, et al. Microorganisms. 2025 Nov 11;13(11):2570. DOI: https://doi.org/10.3390/microorganisms13112570
要約: 15研究のメタ解析。シャノン指数の有意な低下、F. prausnitzii減少とEnterococcus増加を定量化し、多様性低下が死亡およびLong COVIDと関連することを示した。

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック

院長 有光潤介(日本消化器病学会専門医・日本消化器病学会専門医)

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