「授乳中、食べちゃダメ?」その思い込み、最新医学が否定します|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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「授乳中、食べちゃダメ?」その思い込み、最新医学が否定します

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2026年1月18日

「授乳中、食べちゃダメ?」その思い込み、最新医学が否定します

食物アレルギーと診断された乳児を持つお母様が、授乳中に食事制限(食物除去)を行うべきかどうかについて、最新の医学的ガイドラインと科学的根拠に基づき解説します。
結論から申し上げますと、「母親の自己判断による食物除去は推奨されない」というのが、現在のアレルギー専門医の共通した見解です。
なぜ除去が不要なのか、どういう場合に必要なのか、除去することのリスクは何かについて、専門的な知識を一般の方にもわかりやすく詳述します。

母親の食物除去に関する基本的な考え方

日本小児アレルギー学会をはじめ、欧米のアレルギー学会のガイドラインにおいて、原則として「授乳中の母親が食物除去を行う必要はない」とされています。これには主に2つの大きな理由があります。

母乳に移行するアレルギー成分はごく微量

お母様が食べた食事に含まれるタンパク質(アレルゲン)が、そのままの形で母乳に移行するわけではありません。食べたものは母親の消化器官でアミノ酸や小さなペプチドに分解されます。アレルギーの原因となる抗原性を保ったまま母乳に出てくる量は、母親が摂取した量の「数千分の一から数万分の一」程度と極めて微量であることが分かっています。
この微量なアレルゲンは、多くの場合、赤ちゃんにアレルギー症状を引き起こすレベルには達しません。食物アレルギーと診断されている赤ちゃんであっても、その原因食物を「赤ちゃん自身が直接食べた場合」には症状が出ますが、「お母さんが食べて母乳を介して摂取した場合」には症状が出ないことがほとんどなのです。

「念のため」の除去は推奨されない

かつては「アレルギー予防のために、妊娠中や授乳中は卵や牛乳を控えたほうがよい」といわれた時代もありましたが、現在の医学ではこれは否定されています。最新の研究では、母親が食事制限をしても、子どものアレルギー発症を予防する効果は認められていません。むしろ、早期から微量のアレルゲンにさらされることが、将来的にその食べ物を食べられるようになるための「免疫寛容(体が異物として攻撃しなくなること)」を誘導する可能性も示唆されています。

母親が食物除去を検討すべき「例外的なケース」

原則は不要ですが、例外的に母親の除去が必要となるケースがあります。それは以下の条件が揃った場合のみであり、必ず医師の指導のもとで行う必要があります。

明らかに母乳が原因で症状が出ている場合

母親が特定の食物(例えば卵や牛乳など)を摂取した後に授乳すると、決まって赤ちゃんに明らかなアレルギー症状(湿疹の悪化、嘔吐、血便、機嫌が悪くなるなど)が現れ、その食物を母親がやめると症状が治まる場合です。
この因果関係を確認するためには、医師の管理下で厳密なプロセスを経る必要があります。

  1. 疑わしい食物を母親が完全に除去し、赤ちゃんの症状が改善するか確認する。

  2. 症状が改善した後、再度その食物を母親が摂取し、症状が再発するか確認する(負荷試験)。

この手順を踏んで初めて「母乳性のアレルギー」と診断され、母親の食物除去が指示されます。なんとなく肌が荒れているからといって、憶測で除去を始めることは避けるべきです。

重症のアトピー性皮膚炎が治らない場合

適切なスキンケア(ステロイド外用薬などによる治療)を十分に行っても、赤ちゃんの湿疹や皮膚炎が改善せず、母乳に含まれる微量のアレルゲンが関与していると強く疑われる場合です。この場合も、まずはスキンケアの徹底が最優先であり、食事制限は最後の手段となります。

スキンケアの重要性:皮膚こそが最大の侵入経路

現在のアレルギー診療において最も重要視されているのが「皮膚の状態」です。
食物アレルギーというと「口から入って起こるもの」と思われがちですが、実はアレルギーの発症には「経皮感作(けいひかんさ)」というメカニズムが大きく関わっています。

経皮感作とは

荒れた皮膚(湿疹や乾燥肌)の隙間から、ホコリや食べ物のカスなどのアレルゲンが体内に侵入することで、体がそれを「敵」だと認識し、アレルギー体質になってしまうことです。

経口免疫寛容とは

一方で、口から腸を通して入ってきた物質に対しては、体は「栄養」と判断し、免疫反応を起こさないようにする仕組みがあります。
つまり、赤ちゃんの肌が荒れたままだと、そこからアレルゲンが侵入してアレルギーが悪化しやすくなります。お母様が食事制限をするよりも、赤ちゃんの肌をツルツルの状態に保つこと(スキンケアと湿疹の治療)のほうが、アレルギーの悪化を防ぐためには遥かに効果的で重要であることが科学的に証明されています。

血液検査の数値と実際の症状は違う

よくある誤解として、「血液検査(IgE抗体)の数値が高いから、母乳からも除去しなくてはならない」というものがあります。
アレルギー検査で陽性(数値が高い)であることと、実際に食べて症状が出ること(アレルギー発症)はイコールではありません。これを「感作」といいます。数値が高くても、実際に食べて症状が出なければ除去する必要はありません。
ましてや、赤ちゃん本人が食べて症状が出るレベルであっても、前述の通り母乳経由では量が極めて少ないため、母親まで除去する必要があるケースは稀です。血液検査の数値だけを見て、母親が過度な食事制限を行うことは科学的根拠に乏しい行為です。

母親が食物除去を行うことの重大なリスク

安易な食物除去には、お母様と赤ちゃんの双方に健康上のデメリットがあります。

母親の栄養不足とストレス

授乳中は母体の回復と母乳生成のために、通常よりも多くの栄養が必要です。例えば、乳製品をすべて除去するとカルシウム不足により骨粗鬆症のリスクが高まります。卵や小麦を除去すれば、タンパク質やエネルギーの確保が難しくなります。また、「何を食べていいかわからない」という毎日のストレスは、育児において大きな負担となり、母乳の出が悪くなるなどの悪循環を招きかねません。

赤ちゃんの栄養への影響

母親の食事が極端に偏ると、母乳に含まれるビタミンやミネラルなどの栄養素が不足する可能性があります。赤ちゃんの発育に必要な栄養を届けるためにも、お母様はバランスよく様々な食材を摂取することが推奨されます。

誤った「安全神話」への依存

「私が食事制限をしているから大丈夫」と安心し、本来行うべき赤ちゃんのスキンケアがおろそかになったり、赤ちゃんへの離乳食開始を不必要に遅らせたりすることの方が、結果的にアレルギーのリスクを高めてしまうことがあります。

今後の対応についてのアドバイス

もし現在、お母様が自己判断で特定の食べ物を避けているのであれば、以下のステップで対応を見直すことをお勧めします。

  1. 自己判断での除去をやめる
    医師からの明確な指示がない限り、通常のバランスの取れた食事に戻してください。

  2. 赤ちゃんのスキンケアを徹底する
    皮膚に湿疹がある場合は、小児科や皮膚科で処方された薬を指示通りに塗り、皮膚のバリア機能を高めてください。これがアレルギー対策の基本です。

  3. 専門医に相談する
    「母乳を飲んだ後に必ず症状が出る」という確信がある場合は、アレルギー専門医のいる医療機関を受診してください。そこで、食物日誌の記録や負荷試験などを通じて、本当に除去が必要かどうかを科学的に判断してもらいましょう。

まとめ

食物アレルギーと診断された赤ちゃんの母親であっても、授乳中に食物除去を行う必要は原則としてありません。
母乳に含まれるアレルゲンは極めて微量であり、それが原因で症状が出るケースは非常に稀です。むしろ、母親の過度な除去による栄養不足やストレス、スキンケアの不足といった弊害の方が懸念されます。
「食べたもので母乳の質が悪くなる」「母乳がアレルギーの原因」といった科学的根拠のない情報に惑わされず、お母様自身が美味しく食事をとり、赤ちゃんの肌をきれいに保つことに注力してください。

参考文献

  1. 食物アレルギー診療ガイドライン2021 [link]
    要約: 日本小児アレルギー学会による最新ガイドライン。授乳中の母親の食物除去は、児に明らかな症状が誘発される場合を除き行うべきではないとし、安易な除去による母体の栄養障害リスクを警告している。
  2. Primary prevention of food allergy: translates evidence into clinical practice, Muraro A, et al. Allergy, 2014, DOI: 10.1111/all.12398
    要約: 欧州アレルギー学会によるガイドライン。妊娠期および授乳期の母親の食事制限が、子どものアレルギー発症を予防するという証拠はないと結論付け、バランスの良い食事を推奨している。
  3. The Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children: The Role of Maternal Dietary Restriction, Breastfeeding, Timing of Introduction of Complementary Foods, and Hydrolyzed Formulas, Greer FR, et al. Pediatrics, 2019, DOI: 10.1542/peds.2019-0281
    要約: 米国小児科学会(AAP)による臨床報告。授乳中の母親が食事制限を行っても、子どものアトピー性疾患の発症予防には効果がないとし、栄養不足のリスクを避けるため制限は推奨しないとしている。
  4. Consensus communication on early peanut introduction and the prevention of peanut allergy in high-risk infants, Fleischer DM, et al. The Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2015, DOI: 10.1016/j.jaci.2015.06.001
    要約: 食物除去よりも早期摂取がアレルギー予防に有効であることを示した画期的な研究(LEAP試験)に基づく合意声明。除去ありきではなく、適切な管理下での摂取の重要性を示唆している。

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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