2026年1月27日

はじめに
「漢方薬は天然由来だから副作用がない」と誤解されることがありますが、実際には薬であることには違いなく、稀に副作用が生じることがあります。
一番よく知られている漢方の副作用は、「甘草(かんぞう)」による、むくみ、高血圧です。
次に注意が必要な副作用の一つが「薬剤性肝障害(肝機能障害)」です。
肝障害の原因として最も頻度が高い生薬が、シソ科の植物の根を乾燥させた「黄芩(オウゴン)」です。非常にまれですが、「半夏(はんげ)」でも肝障害を起こすことがあります。私は過去に1例だけ経験しています。
漢方専門医であれば、黄芩の肝障害は年に一人は必ず経験する副作用です。
黄芩が含まれる主な漢方薬
黄芩は、熱を冷まし、炎症を抑える作用があるため、風邪に使う漢方薬に多く含まれていますが、やせ薬として有名な「防風通聖散」や高齢者の便秘に使用される「潤腸湯」にも含まれています。
総合病院の消化器内科に務めている友人医師によると、防風通聖散が原因と思われる肝障害がたまにあるそうです。防風通聖散はには「山梔子(サンシシ)」という生薬が含まれており、これも長期内服すると腸に蓄積されて腸間膜静脈硬化症を引き起こすことが知られています。
安易なダイエット目的で長期内服しないよう気をつけてください。
黄芩を含む代表的な漢方製剤には以下のような処方があります。
・小柴胡湯(しょうさいことう):風邪の後期、胃炎、肝炎など
・潤腸湯(じゅんちょうとう):便秘など
・大柴胡湯(だいさいことう):肥満、高血圧、便秘など
・防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん):肥満症、便秘など
・清上防風湯(せいじょうぼうふうとう):ニキビなど
・半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):胃腸炎、下痢など
・黄連解毒湯(おうれんげどくとう):のぼせ、二日酔いなど
これらを服用している場合、体質によっては肝機能障害が起こる可能性があります。
肝障害が起きるメカニズム
一般的に薬による肝障害には、大きく分けて「中毒性」と「アレルギー性」の2種類があります。
中毒性は、誰でも一定量以上飲めば肝臓が傷つくもの(アルコールの飲みすぎなどをイメージしてください)です。
黄芩による肝障害は、主に「アレルギー性」に分類されます。
服用した量に関わらず、その人の体質と薬の相性が合わない場合に、体が薬を「異物」とみなして過剰な免疫反応を起こし、結果として肝臓の細胞を攻撃してしまいます。
そのため、飲み始めてすぐに症状が出ることもあれば、しばらく飲み続けてから発症することもあり、予測が難しいのが特徴です。
発症する時期
副作用報告が多数ありますが、服用開始から「1ヶ月〜3ヶ月以内」に発症するケースが多いとされています。しかし、服用開始後1〜2週間で発症する場合や、数ヶ月以上経過してから発症する場合もあります。長期服用しているからといって必ずしも安全とは言い切れないため、継続的な注意が必要です。
注意すべき自覚症状
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期段階では自覚症状が出にくい臓器です。
しかし、ある程度障害が進むと、以下のような症状が現れることがあります。
これらの症状が出た場合は、ただちに使用を中止する必要があります。
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全身の倦怠感(だるさ)
これまで感じたことのないような、強いだるさや疲労感が続く。 -
食欲不振・吐き気
胃腸の調子が悪いわけではないのに、ご飯が美味しくない、吐き気がするといった症状。 -
発熱・発疹
風邪ではないのに微熱が続いたり、皮膚にかゆみや発疹が出たりする(アレルギー反応の一種)。 -
黄疸(おうだん)
白目の部分や皮膚が黄色くなる。これは血液中のビリルビンという色素が増加するために起こります。 -
褐色尿
尿の色が極端に濃くなり、ウーロン茶やコーラのような褐色になる。これは肝臓で処理されなかったビリルビンが尿に出てくるためです。 -
皮膚のかゆみ
全身、あるいは体の一部に強いかゆみが出る。
診断と検査
上記の症状で医療機関を受診した場合、血液検査によって診断が行われます。
特に以下の数値の上昇が判断基準となります。
・AST(GOT)およびALT(GPT):肝臓の細胞が壊れた時に血液中に漏れ出す酵素。
・ALPおよびγ-GTP:胆道系の酵素で、薬剤性肝障害で上昇しやすい。
・総ビリルビン:黄疸の原因となる物質。
副作用が出たら
治療は「原因と思われる漢方薬の内服を直ちに中止すること」です。
多くの場合、服用を中止するだけで、肝機能は徐々に回復し、正常値に戻ります。
黄芩による肝障害は、早期に発見し中止すれば、予後(その後の経過)は良好です。
しかし、発見が遅れて重症化すると、稀に「劇症肝炎」という命に関わる深刻な状態に進行することがあります。したがって、「漢方薬だから大丈夫」と過信せず、異変を感じたらすぐに医師や薬剤師に相談することが極めて重要です。
まとめ
黄芩を含む漢方エキス製剤は、多くの疾患に有効な優れた薬ですが、体質によっては肝機能障害を引き起こすリスクがあります。これは「毒性」ではなく「体質的な相性」によるものです。
・初期症状(だるさ、食欲不振、褐色尿、黄疸)を見逃さないこと
・定期的な血液検査を行うこと(当院では、服用が出やすい「黄芩」と「甘草」の使用歴を問診で確認するようにしています。)
・異変を感じたらすぐに中止すること
この3点を守ることで、リスクを最小限に抑えながら、安全に漢方治療を受けることができます。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
有光潤介