どうして成長すると食べられるようになるの?食物アレルギーが治る仕組み|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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どうして成長すると食べられるようになるの?食物アレルギーが治る仕組み

どうして成長すると食べられるようになるの?食物アレルギーが治る仕組み|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年1月21日

どうして成長すると食べられるようになるの?食物アレルギーが治る仕組み

乳幼児期の食物アレルギーが成長とともに改善し、多くのケースで食べられるようになる現象は、医学的に「耐性獲得(アウトグロー)」と呼ばれます。このプロセスは非常に複雑で、消化器官の物理的な発達、免疫システムの学習機能、そしてアレルゲンとなるタンパク質の性質という3つの主要な要素が絡み合って起こります。なぜ子供の体は食べ物を「敵」とみなすのをやめ、「受け入れる」ようになるのか、その科学的メカニズムについて解説します。

消化管バリア機能の成熟:物理的な壁の完成

生まれたばかりの赤ちゃんの消化管は、実はまだ「未完成」の状態にあります。これが乳幼児期にアレルギーが多い最大の物理的要因の一つです。

腸管透過性の低下(壁の隙間が閉じる)

大人の腸の粘膜は、細胞同士が「タイトジャンクション」と呼ばれる接着装置で強固に結びついており、隙間のない壁を作っています。これにより、栄養素として分解された小さな分子(アミノ酸など)だけを吸収し、未消化の大きなタンパク質や異物が体内に入るのを防いでいます。
しかし、乳幼児の腸は細胞同士の結合が緩く、隙間が空いている状態にあります。これを「腸管透過性が高い」状態と言います。この隙間から、十分に消化されていない大きなタンパク質(アレルゲン)がそのまま体内(粘膜の下にある免疫細胞がいる場所)に侵入してしまいます。免疫細胞は、この大きなタンパク質を「異物(敵)」と認識しやすいため、アレルギー反応が起こります。
成長とともに、この細胞間の結合は強固になり、物理的なバリア機能が完成します。その結果、アレルゲンが容易に体内へ侵入できなくなり、アレルギー反応が起きにくくなります。

消化能力の向上(ハサミの切れ味が良くなる)

食べたタンパク質は、胃酸や消化酵素(ペプシン、トリプシンなど)によって細かく分解され、アレルギーを起こさないレベルの「アミノ酸」や「小さなペプチド」になります。
乳幼児は胃酸の分泌量が少なく、消化酵素の働きも未熟です。そのため、タンパク質を十分に細かく分解できません。アレルギーの原因となるのは、ある程度の大きさを持ったタンパク質の構造(エピトープ)です。未消化のまま腸に到達したタンパク質は、アレルゲンとしての活性を保ったままであるため、免疫システムを刺激してしまいます。
年齢とともに胃酸分泌や酵素活性が大人と同じレベルに達すると、タンパク質は速やかに分解・無毒化されるようになり、免疫細胞が反応する機会が激減します。

免疫システムの学習:経口免疫寛容の成立

私たちの体には、口から入ってくる食べ物を「異物」ではなく「栄養」として受け入れるための特別な仕組みが備わっています。これを「経口免疫寛容(けいこうめんえきかんよう)」と呼びます。乳幼児期のアレルギー改善は、このシステムが正常に働き始めることと密接に関係しています。

制御性T細胞(Treg)の誘導

アレルギー反応の中心には、体を守る免疫の司令塔であるT細胞が存在します。アレルギー体質の人では、アレルゲンに対して攻撃命令を出す「Th2細胞」というタイプが過剰に働いています。
一方で、免疫の暴走を抑えるブレーキ役の細胞が存在します。これを「制御性T細胞(Treg:ティーレグ)」と呼びます。
正常な経口免疫寛容のプロセスでは、腸の特殊な免疫細胞(樹状細胞など)が食べ物のタンパク質を取り込み、「これは危険な敵(ウイルスや細菌)ではなく、安全な食べ物だ」という情報をT細胞に伝えます。すると、攻撃的なTh2細胞ではなく、ブレーキ役のTregが作られます。
成長に伴い、微量のアレルゲンにさらされ続けることや、腸内環境の変化によって、このTregが効率よく誘導されるようになります。Tregはアレルギー反応を起こす細胞の働きを強力に抑制し、「攻撃しなくていい」という記憶を免疫システムに植え付けます。これが耐性獲得の免疫学的な本質です。

腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の役割

近年の研究で、腸内細菌がこの「免疫のブレーキ(Treg)」を育てるために不可欠であることがわかってきました。特に、食物繊維などをエサにして腸内細菌が作り出す「酪酸」などの短鎖脂肪酸は、Tregの分化を促進します。
乳幼児期に多様な食品を摂取し、腸内細菌叢が豊かになっていく過程は、単に消化を助けるだけでなく、免疫システムに「寛容」を教え込むために重要なステップとなります。

アレルゲンの性質と「慣れ」やすさ

すべての食物アレルギーが同じように治るわけではありません。例えば、牛乳や鶏卵のアレルギーは就学前までに治ることが多い一方、ピーナッツやそばのアレルギーは大人になっても残りやすい傾向があります。これには、アレルゲンタンパク質の「構造」が関係しています。

構造の変化しやすさ(コンフォメーション・エピトープ)

免疫細胞が敵だと認識するタンパク質の目印を「エピトープ」と呼びます。
牛乳や卵に含まれる主要なアレルゲンの一部は、立体的で複雑な形をしています。これらは加熱や消化酵素によって形が崩れやすいという特徴があります(コンフォメーション・エピトープ)。形が崩れてしまえば、免疫細胞はもうそれを「敵」だと認識できません。
子供が成長し、加熱した卵や牛乳を含む加工品を少しずつ食べられるようになると、免疫システムは「加熱された(壊れた)形」には反応しなくなります。これを繰り返すうちに、徐々に加熱が不十分なものや、生のタンパク質に対しても、過剰な攻撃指令を出さないようにシステムが修正されていきます。

構造の頑丈さ(リニア・エピトープ)

一方で、ピーナッツなどに含まれるアレルゲンは、加熱しても消化されても壊れにくい、非常に頑丈な構造(紐状の並び順で認識されるリニア・エピトープなど)を持つものが多いです。これらは腸の中で分解されずにアレルゲンとしての形を保ち続けるため、免疫システムが「安全だ」と学習するチャンスが得にくく、アレルギーが治りにくい原因となります。

まとめ:多層的な防御システムの完成

乳幼児期の食物アレルギーが改善するのは、単に「体が大きくなったから」ではありません。

  1. 腸の壁が完成し、異物の侵入を防げるようになる(物理的バリア)。

  2. 消化能力が向上し、アレルゲンを無害なアミノ酸まで分解できるようになる(化学的バリア)。

  3. 免疫システムが学習し、攻撃役(Th2)よりもブレーキ役(Treg)が優位になる(免疫学的寛容)。

これら3つのメカニズムが、成長という時間軸の中で連動して成熟していくことで、かつては「敵」だった食べ物が、体にとって必要な「栄養」として平穏に受け入れられるようになるのです。これが、科学的に説明される「アレルギーが治る」という現象の正体です。

参考文献

  1. The natural history of food allergy, Savage J, Johns CB. J Allergy Clin Immunol Pract, 2015, DOI: 10.1016/j.jaip.2015.11.024要約: 食物アレルギーの自然経過に関する包括的レビュー。牛乳や卵のアレルギーは高い確率で耐性を獲得する一方、ピーナッツや木の実類は持続しやすい傾向があること、およびその疫学データを詳述した論文。

  2. Immunology of Food Allergy, Tordesillas AL, Berin MC, Sampson HA. Immunity, 2017, DOI: 10.1016/j.immuni.2017.07.004
    要約: 食物アレルギーの免疫学的メカニズムを解説。腸管バリアの機能、Th2細胞による感作、および制御性T細胞(Treg)による経口免疫寛容の誘導プロセスを分子レベルで詳述した基礎文献。

  3. Food allergy: A review and update on epidemiology, pathogenesis, diagnosis, prevention, and management, Sicherer SH, Sampson HA. J Allergy Clin Immunol, 2018, DOI: 10.1016/j.jaci.2017.11.003
    要約: 食物アレルギーに関する疫学、発症機序、診断、管理の最新知見を網羅したレビュー。遺伝的要因や環境要因に加え、耐性獲得に関わる最新の臨床的知見と管理ガイドラインをまとめている。

  4. Oral tolerance to food protein, Pabst O, Mowat AM. Mucosal Immunology, 2012, DOI: 10.1038/mi.2012.4
    要約: 経口免疫寛容(Oral Tolerance)のメカニズムに焦点を当てた論文。腸管関連リンパ組織における抗原提示、T細胞の分化、および食物抗原に対する免疫応答の抑制機序を詳細に解説している。

 

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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