悪玉コレステロール値が正常でも安心は禁物?1560万人のデータが明かす『中性脂肪の隠れたリスク』|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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悪玉コレステロール値が正常でも安心は禁物?1560万人のデータが明かす『中性脂肪の隠れたリスク』

悪玉コレステロール値が正常でも安心は禁物?1560万人のデータが明かす『中性脂肪の隠れたリスク』|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2025年11月03日

見過ごされてきたもう一つの「脂肪」

健康診断の結果を見ると、多くの人がまず「LDLコレステロール(悪玉コレステロール)」の数値に注目します。しかし、もし血液中の別の脂肪、つまり見過ごされがちな「中性脂肪」が、心臓の健康の重要な鍵を握っているとしたらどうでしょうか?
この度、1560万人以上という前例のない規模のデータを解析した画期的な大規模研究が、中性脂肪(トリグリセリド)に関する常識を覆す可能性のある真実を明らかにしました。特に、ご自身のコレステロール値は管理できていると考えている人々にとって、これは決して見過ごすことのできない発見です。

この記事では、この最新研究から得られた最もインパクトのある知見を、分かりやすく解説していきます。

悪玉コレステロール値が低くても、中性脂肪が高いとリスクは残る

今回の研究で最も画期的だった発見は、LDLコレステロール値が理想的なレベル(100 mg/dL未満)にある人々でさえ、中性脂肪値が高いと心血管疾患による死亡リスクが依然として残る、という点です。

ここで重要になるのが「残余リスク」という考え方です。
具体的には、LDLコレステロール値が低いこのグループにおいて、中性脂肪値が2倍になるごとに、急性心筋梗塞による死亡リスクが15%上昇することが判明しました。
例えば、これは中性脂肪値が70mg/dLから140mg/dLに倍増するだけで、心筋梗塞で命を落とすリスクが15%も上昇するという計算になります。

この結果は、これまで比較的リスクが低いと考えられていた人々にとっても、中性脂肪の管理がいかに重要であるかを示唆しています。

心血管疾患のリスクは、実は若者ほど強い

そして、この「残されたリスク」が特に深刻な影響を及ぼすのが、意外にもこれまで安心しがちだった若い世代なのです。

この結果が特に注目されるべき理由は、心臓病は主に高齢者の問題である、という一般的な思い込みを覆す点にあります。
研究によれば、中性脂肪値と、心血管疾患全体、虚血性心疾患、そして急性心筋梗塞による死亡率との関連性は、最も若い成人グループ(18~44歳)で最も強かったのです。

特に急性心筋梗塞による死亡リスクに関しては、若年層では中性脂肪値が2倍に増加するごとに、リスクが最大で24%も高まることが示されました。
これは、若いうちから高い中性脂肪に長期間さらされることの蓄積的な影響や、高齢者では他の死因が競合するため統計的な関連性が薄まる可能性などが考えられます。
この事実は、若いうちからの意識と管理がいかに重要であるかを浮き彫りにしています。

「他の要因のせい」ではない、中性脂肪は”独立した”リスク因子

これまで、高い中性脂肪値は肥満や糖尿病といった他の健康問題を示す単なる「マーカー」に過ぎないのではないか、という議論がありました。

しかし、今回の非常に大規模な研究は、高い中性脂肪が心血管疾患による死亡の「独立したリスク因子」であることを明確にしました。この結論は、LDLコレステロール、HDLコレステロール、血圧、空腹時血糖値、糖尿病の有無、BMIといった他の主要なリスク因子を統計的に調整した後でも、揺るぎないものでした。

研究の結論部分にある以下の言葉が、この点を力強く裏付けています。

高中性脂肪血症は、若年者、そしてLDL-C値が低い高齢者の両方において残存リスクを伴い、心血管疾患による死亡率を独立して上昇させます。これは、LDL-C値が管理されていても高中性脂肪血症の管理が重要であることを示唆しています。

中性脂肪が他の数値とは無関係に、それ自体でリスクとなり得るからこそ、医師や研究者たちはこれまでの「正常値」に疑問を投げかけ、より積極的な「目標値」を模索し始めたのです。

目指すべきは「100未満」?新しい目標値の提案

では、私たちは具体的にどのくらいの数値を目指すべきなのでしょうか?この研究は、その問いに対する一つの明確な答えを示唆しています。

現在の多くの臨床ガイドラインでは、中性脂肪の正常範囲を「150 mg/dL未満」としていますが、治療における具体的な目標値は示されていません。これに対し、今回の研究結果に基づき、著者らは新たな理想的な目標値として「中性脂肪値を100 mg/dL未満とすること」を提案しています。

その根拠として、動脈硬化が原因となる心臓や血管の病気(ASCVD)による死亡リスクが最も低かったのは、一貫して中性脂肪値が100 mg/dL未満のグループだったことが挙げられています。特に、LDLコレステロール値がすでに管理されている人々においては、50 mg/dL未満でリスクが最も低くなることも示されました。

あなたの健康診断、コレステロール値だけで満足していませんか?

今回の1560万人規模の研究が示したメッセージは明確です。
中性脂肪は、悪玉コレステロール値が低くても決して無視できない、心臓の健康にとって重要かつ独立したリスク因子です。
そして、そのリスクは特に若い世代にとって見過ごすことができません。

中性脂肪が高いと言われると、脂っこい食品の取り過ぎと考える方がほとんどだと思いますが、実は、甘い物、炭水化物(ご飯、パン、麺類)や果物の取り過ぎで中性脂肪は上昇します。

なかなか自己流で中性脂肪が下がらないかたは、遺伝的な素因もあるとは思いますが、食事に問題がある場合が多いため、当院の栄養指導を受けることをお勧めします。
糖質制限食に精通した管理栄養士が、適切にアドバイスします。

参考文献

Eur J Prev Cardiol. 2024 Feb 15;31(3):280-290. doi: 10.1093/eurjpc/zwad330.
Impact of hypertriglyceridaemia on cardiovascular mortality according to low-density lipoprotein cholesterol in a 15.6-million population

吹田市大阪府長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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