2025年12月02日

以前公開した内容を、新しいワードプレスの形式に直して、見やすく書き直しました。
妊娠・授乳中の漢方薬と西洋薬の安全性について
どの漢方製剤の添付文書にも、妊婦、産婦、授乳婦等への投与については、「妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」との記載があります。
しかし、医療用漢方エキス製剤において、妊婦、産婦、授乳婦に投薬が「禁忌(使用してはいけない)」とされているものは存在しません。 実際に、妊娠中や授乳中に漢方薬を処方された経験をお持ちの女性も多いと思います。
一方、西洋医学の薬には、授乳中に使用してよい薬と控えた方がよい薬が明確に分かれています。授乳中に控えた方がよいとされる薬は、アミオダロン、コカイン、ヨウ化ナトリウムなどごく一部であり、これらはかなり特殊な薬であるため、一般的な生活で服用することはまずありません。
服用のタイミングと赤ちゃんへの影響
漢方薬・西洋薬を問わず、授乳中のお母さんが特に注意しなければならないのは、赤ちゃんが生後2ヶ月未満の時です。
生後間もない赤ちゃんは内臓機能が未熟なため、母乳を通じて入ってきた薬の成分をうまく解毒できず、体内の薬物濃度が上昇して副作用を起こす可能性があるといわれています。
【授乳のポイント】
一般的に、内服後に母乳中の薬の濃度が高くなるのは**「2〜3時間後」**と言われています。内服直後の授乳は問題ありません。
もし授乳間隔が短い場合は、薬を内服する前に「搾乳」しておくことをお勧めしています。
授乳中のママにおすすめの風邪薬(漢方)
授乳中の女性は、授乳や夜泣きによる寝不足などの育児ストレスで胃腸が弱り、風邪を引きやすくなっていることが多いです。
葛根湯(かっこんとう)
風邪薬として有名ですが、「麻黄(まおう)」という胃もたれしやすい成分が含まれているため、胃腸が弱っている授乳中の女性にはあまりお勧めできません。
桂枝湯(けいしとう)
体力が弱っている授乳中の女性にお勧めです。風邪の引き始めで、「寒気がして少し汗ばんでいるとき」に使用するのがポイントです。
参蘇飲(じんそいん)
風邪を引いて少しこじらせてしまい、何を飲んでよいか分からない場合にお勧めです。
※桂枝湯も参蘇飲も、病院を受診しなくても薬局で購入可能です。
注意が必要な成分「大黄(だいおう)」
漢方薬の中で、成分が母乳に移行すると報告されているのが、「大黄」に含まれるアントラキノン誘導体です
大黄は主に下剤(瀉下作用)として使われますが、精神安定作用や悪玉腸内細菌の抑制効果もあります。しかし、この成分を含む母乳を飲んだ乳児が、下痢を起こす可能性があります。
大黄の主成分(センノシド)は、市販の下剤(コーラックなど)の主成分としても有名です。「大黄」が含まれる漢方製剤は、授乳中の服用を避けるか、服用中は授乳を一時中止したほうがよいでしょう。
【大黄が含まれるが、名前からは分かりにくい漢方薬】
漢方薬の名前に「大黄」が入っていれば分かりやすいですが、以下のような有名な漢方薬にも含まれているため注意が必要です。
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん): やせ薬として有名
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう): 精神安定剤として使用
大柴胡湯(だいさいことう):ストレス英の便秘に使用
桃核承気湯(とうかくじょうきとう): 月経不順で使用
メーカーによる効き目の違い
大黄は熱に不安定な成分を含むため、製造方法によって成分量にかなり差が出ます。
事例: A社の麻子仁丸(ましにんがん)では1日3回でも便がすっきり出なかったのに、B社に変えたら1日1回ですっきり出た。
事例: A社の桃核承気湯は1日3回で丁度よかったが、B社に変えたら効きすぎて困った。
このように、同じ名前の漢方エキス製剤でも製薬会社ごとに効き目が異なる点には注意が必要です。
まとめ
医療用漢方エキス製剤には、授乳婦に「禁忌」の薬は存在しない。
ただし、「大黄(だいおう)」の入った漢方製剤は、乳児の下痢の原因となるため、授乳中の服用を避けるか、授乳の一時中止が望ましい。
最後に
薬局で購入される場合は、必ず構成生薬(成分)を確認するようにしてください。
なお、上記(大黄)以外の漢方薬については、乳汁への移行報告や有害事象の報告はありません。
判断に困る場合は、漢方専門医がいる病院への受診をお勧めします
参考文献(出典)
※ 国立成育医療研究センターが公開している、「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」および「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」のリストは下記を参照してください。
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/news_med/druglist.html
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介