肌から始まる一生のアレルギー ― アレルギー・マーチを正しく知る|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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肌から始まる一生のアレルギー ― アレルギー・マーチを正しく知る

肌から始まる一生のアレルギー ― アレルギー・マーチを正しく知る|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年1月15日

はじめに:アレルギー・マーチとは何か

アレルギー・マーチとは、乳児期から小児期、そして成人期へと成長する過程で、アレルギー疾患が次々と形を変えて現れる現象のことを指します。まるでマーチ(行進)のように、あるいはリレーのバトンを渡すように、異なるアレルギー症状が連鎖していくことから、この名前が付けられました。

典型的な流れとしては、生後間もない時期に「アトピー性皮膚炎」から始まり、続いて「食物アレルギー」を発症、幼児期になると「気管支喘息」が現れ、学童期以降に「アレルギー性鼻炎(花粉症など)」へと移行していくパターンが多く見られます。

かつては、これらはそれぞれ別々の病気と考えられていましたが、現在では一連の免疫反応の流れであるという理解が定着しています。この連鎖のメカニズムを正しく理解することは、アレルギーの予防や重症化を防ぐために極めて重要です。


第一段階:皮膚のバリア機能低下とアトピー性皮膚炎

アレルギー・マーチの出発点は、多くの場合「皮膚」にあります。

人間の皮膚は本来、外部からの異物(細菌、ウイルス、アレルゲンなど)の侵入を防ぐ強力なバリア機能を持っています。しかし、遺伝的な体質や環境要因によって皮膚が乾燥したり、湿疹(アトピー性皮膚炎)によってバリア機能が壊れたりすると、そこから微細なアレルゲンが体内に侵入しやすくなります。

ここで重要な概念が「経皮感作」です。

食物アレルギーというと、食べて発症するイメージが強いですが、近年の研究により、多くのケースで「荒れた皮膚からアレルゲンが入ることでアレルギー体質が作られる」ことが分かってきました。

例えば、湿疹のある赤ちゃんの皮膚に、空気中を漂う微量の卵やピーナッツの成分が付着し、傷ついたバリアを通過して体内に侵入します。すると免疫細胞はこれを「危険な敵」と誤認し、攻撃準備(IgE抗体の産生)を整えてしまいます。これが「感作」と呼ばれる状態です。この状態で、離乳食としてその食物を口にすると、アレルギー反応が起きてしまうのです。

第二段階:食物アレルギーの発症と「二重抗原曝露仮説」

なぜ、皮膚からはアレルギーになり、口から食べると大丈夫な場合があるのでしょうか。これを説明するのが「二重抗原曝露仮説(Dual Allergen Exposure Hypothesis)」です。

皮膚からの侵入:アレルギーの原因になりやすい(感作)

口(腸管)からの侵入:体がその物質を受け入れる寛容(トレランス)を誘導しやすい

健康な皮膚を保ち、アレルゲンの侵入を防ぎつつ、口から適切な時期に食物を摂取することで、腸管免疫の「これは食べ物だから攻撃しなくてよい」という学習機能を働かせることが、食物アレルギー予防の鍵となります。

かつては「アレルギーが心配なら、卵などの摂取を遅らせるべき」という指導が行われていました。しかし、この仮説と後の臨床試験により、現在は「遅らせるのではなく、皮膚の状態を良くした上で、早期に微量を摂取開始する方が予防になる」という考え方に大きく転換しています。

第三段階:気管支喘息への移行

乳児期のアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを経て、3歳から4歳頃になると、今度は呼吸器系に症状が現れ始めます。これが気管支喘息です。

アレルギー反応を起こす場所が、皮膚や腸から、気道(空気の通り道)へと移動してくるのです。風邪を引くたびにゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸音がしたり、夜間に咳が止まらなくなったりします。

アトピー性皮膚炎が重症であればあるほど、また発症時期が早ければ早いほど、後の喘息やアレルギー性鼻炎の発症リスクが高まることが多くの疫学研究で示されています。これは、皮膚で始まった炎症が全身の免疫システムに影響を与え、全身性の「Th2優位(アレルギーを起こしやすい免疫バランス)」の状態を作り出してしまうためと考えられています。

第四段階:アレルギー性鼻炎と成人期への影響

学童期(小学生以降)になると、喘息の症状が落ち着く子もいますが、入れ替わるようにアレルギー性鼻炎(通年性のダニアレルギーや、季節性のスギ花粉症など)が増加します。くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状が慢性化し、集中力の低下や睡眠障害を引き起こすこともあります。

この段階に至ると、いわゆる「アレルギー体質」が固定化されやすく、成人になっても症状が続く、あるいは一度治まった喘息が成人して再発するといったケースも見られます。

アレルギー・マーチを断ち切るために

アレルギー・マーチの連鎖を断ち切る、あるいは進行を緩やかにするために、現在の医学で推奨されている介入ポイントは主に以下の2点です。

スキンケアと皮膚炎の治療

アレルギー・マーチの入り口である「皮膚」のバリア機能を保つことが最優先です。保湿剤によるスキンケアだけでなく、湿疹が出ている場合はステロイド外用薬などで炎症をしっかり抑え込み、ツルツルの肌を維持することが、アレルゲンの侵入(経皮感作)を防ぐ基本となります。ただし、保湿剤のみで全てのアレルギーが予防できるわけではないという報告もあり、医師の指導の下、適切な治療を行うことが重要です。

食物の適切な導入

自己判断で特定の食物を除去し続けることは、かえってアレルギーのリスクを高める可能性があります。特にアトピー性皮膚炎がある乳児の場合、医師の管理下で皮膚をきれいに治してから、卵などを微量ずつ早期に摂取開始することで、食物アレルギーの発症を予防できるというエビデンス(PETIT試験など)が確立されています。

まとめ

アレルギー・マーチは、単に病気が次々と起こるだけでなく、それぞれの段階が次の段階の原因やリスク因子となっています。しかし、悲観する必要はありません。そのメカニズムが解明されたことで、「皮膚のバリア機能」と「腸管の免疫寛容」という二つの側面から、早期に介入する方法が見つかっています。

「肌荒れくらい」と放置せず、乳児期の皮膚トラブルを早期にコントロールすること。これが、将来の喘息や花粉症を防ぐための、最初で最大の防御策といえるのです。

参考文献

1.The atopic march and atopic multimorbidity: Many trajectories, many pathways, Paller AS, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2019, DOI: https://doi.org/10.1016/j.jaci.2018.11.006
要約: アレルギー・マーチを単なる直線的な進行ではなく、多様な軌跡(フェノタイプ)として再定義した論文。皮膚バリア機能障害が全身の炎症を引き起こし、他のアレルギー疾患併発の起点となるメカニズムを詳述しています。

2.Epidemiologic risks for food allergy, Lack G. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2008, DOI: https://doi.org/10.1016/j.jaci.2008.04.032
要約: 「二重抗原曝露仮説」を提唱した極めて重要な論文。アレルギー感作は皮膚から、免疫寛容は経口摂取から成立することを示し、その後のアレルギー予防ガイドラインを大きく変える理論的支柱となりました。

3.Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial, Natsume O, et al. The Lancet, 2017, DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(16)31418-0
要約: 日本の研究チームによる画期的な臨床試験。アトピー性皮膚炎のある乳児に対し、皮膚治療を行った上で卵を早期から微量摂取させることで、卵アレルギーの発症を約8割抑制できることを証明しました。

4.From atopic dermatitis to asthma: the atopic march, Spergel JM. Annals of Allergy, Asthma & Immunology, 2010, DOI: https://doi.org/10.1016/j.anai.2009.10.002
要約: アトピー性皮膚炎から喘息への進行メカニズムを解説したレビュー。アトピー性皮膚炎の重症度が後の気道過敏性や喘息発症の強力な予測因子であることを示し、早期治療の重要性を説いています。

5.Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis, Palmer CN, et al. Nature Genetics, 2006, DOI: https://doi.org/10.1038/ng1767
要約: 皮膚の保湿因子である「フィラグリン」の遺伝子変異が、アトピー性皮膚炎の主要なリスク因子であることを突き止めた研究。皮膚バリア機能の破綻がアレルギー疾患の根本原因の一つであることを遺伝子レベルで解明しました。

 

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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