2026年1月07日

1. はじめに:検査の目的とは?
食物アレルギーの診断において最も重要なのは、「検査の数値」ではなく「実際の症状」です。
医学的に、食物アレルギーは「原因となる食物を摂取した際に、免疫学的機序(仕組み)を介して身体にとって不利益な症状が起こる現象」と定義されています。
つまり、「食べて症状が出る」ことが診断の絶対条件です。
血液検査で高い数値が出ても、食べて無症状であれば、それはアレルギーではありません。逆に、数値が低くても重篤な症状が出ることもあります。
検査を行う真の目的は、「原因食物の特定」と「食べられる範囲(耐性)の確認」を行い、「必要最小限の除去にとどめる(=食べられるものは食べる)」ことにあります。
2. 診断のゴールデンスタンダード
科最も信頼性が高く、診断の確定に用いられるのが「食物経口負荷試験(OFC)」です。
食物経口負荷試験(OFC: Oral Food Challenge)
医師の管理下で、実際に疑わしい食品を分割して摂取し、症状が出るかどうかを観察する検査です。
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なぜ必要なのか:
血液検査や皮膚テストはあくまで「感作(アレルギー反応の準備状態)」を見ているに過ぎず、実際に症状が出るかどうか(発症)までは100%予測できないからです。 -
メリット:
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これまで「なんとなく怖いから」除去していた食品が、実は食べられると判明することが多い(除去解除)。
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万が一症状が出た場合でも、どの程度の量でどのような症状が出るかを知ることで、安全管理がしやすくなる。
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リスクと対策:
アナフィラキシー(重篤なアレルギー反応)が誘発されるリスクがあるため、救急対応が可能な医療機関で実施することが推奨されます。
日本小児アレルギー学会『食物アレルギー診療ガイドライン2021』において、OFCは確定診断のための最も確実な検査と位置づけられています。
3. 補助的検査:血液検査と皮膚テスト
問診で原因食物を推定した後、その裏付けをとるために行われるのが血液検査や皮膚テストです。これらはあくまで「補助」であり、単独で診断を確定するものではありません。
1) 特異的IgE抗体検査(血液検査)
血液中に、特定の食品に対する「IgE抗体(アレルギーの武器のようなもの)」がどれくらいあるかを測定します。
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クラス判定(0〜6):
数値の高さに応じてクラス分けされますが、「クラスが高い=症状が重い」とは必ずしも限りません。
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プロバビリティカーブ(確率曲線):
IgE抗体価(UA/mL)が高くなるにつれて、症状が出る「確率」は上がりますが、個人の体質や体調、食品の加工状態(加熱など)によって反応は異なります。
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代表的な検査項目:
卵白、オボムコイド(加熱卵)、牛乳、小麦など。
2) コンポーネント検査(成分ごとの精密検査)
近年のアレルギー診療で重要視されているのが、食品そのものではなく、その中の「特定のタンパク質成分」に対する抗体を測る検査です。これにより、より正確な診断が可能になります。
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小麦の例(ω-5グリアジン):
通常の「小麦IgE」が陽性でもパンが食べられる人は多いです。しかし、「ω-5グリアジン」という成分が陽性の場合、運動誘発性アナフィラキシーなどの重篤な反応のリスクが高いことが分かっています。 -
ピーナッツの例(Ara h 2):
「ピーナッツIgE」全体を見るよりも、「Ara h 2」という特定のタンパク質を見る方が、実際に症状が出るリスク(臨床的反応性)との相関が高いというエビデンスがあります。 -
果物・野菜(PFAS:花粉食物アレルギー症候群):
シラカンバ花粉症の人がリンゴで口が痒くなるのは、花粉と果物のタンパク質構造が似ているため(交差反応)です。コンポーネント検査(Bet v 1など)でこの関連性を確認できます。
3) 皮膚プリックテスト
微量の抗原液を皮膚に垂らし、専用の針で軽く突いて、15分後に赤みや腫れ(膨疹)が出るかを見る検査です。
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特徴:
血液検査よりも感度が高い場合があり、即時型アレルギーの判定に有用です。結果がすぐに出るのもメリットですが、抗ヒスタミン薬などを服用していると反応が出ないため、事前の休薬が必要です。
4. 科学的根拠のない注意すべき検査:IgG抗体検査
ここで非常に重要な注意点があります。インターネット等で宣伝されている「遅延型フードアレルギー検査(IgG抗体検査)」についてです。
食物IgG抗体検査は推奨されていません
この検査は、特定の食品に対するIgG抗体を測るものですが、以下のような理由から、日本および世界のアレルギー学会で「食物アレルギーの診断には有用ではない」と公式に否定されています。
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生理的反応である:
IgG抗体は、健康な人でも日常的に食べている食品に対して上昇します。これは免疫がその食品を「異物」ではなく「栄養」として受け入れている(免疫寛容)証拠である場合も多く、アレルギー反応を示すものではありません。 -
不必要な食事制限の原因:
この検査を行うと、好んで食べているものほど高い数値が出やすいため、本来食べる必要のある栄養価の高い食品まで除去してしまうリスクがあります。
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日本アレルギー学会
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米国アレルギー喘息免疫学会(AAAAI)
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欧州アレルギー臨床免疫学会(EAACI)
これらすべての主要機関が、IgG検査を診断に用いないよう推奨しています。
5. 診断までの正しいステップ(フローチャート)
適正な診断は、以下の手順で進められます。
Step 1:詳細な問診(最も重要)
医師は以下のような情報を集め、原因を絞り込みます。これを怠ってとりあえず検査セット(View39など)を行うことは推奨されません。
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何を食べて、どのくらいの時間で症状が出たか?(即時型は通常2時間以内)
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どんな症状か?(じんましん、咳、嘔吐など)
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その食品を以前食べたときはどうだったか?
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運動や入浴などの要因が重なったか?
Step 2:身体診察
特にアトピー性皮膚炎の有無は重要です。皮膚のバリア機能が低下していると、皮膚からアレルゲンが侵入し(経皮感作)、食物アレルギーを発症するリスクが高まることが科学的に証明されています(二重抗原曝露仮説)。
皮膚の状態を整えることが、正しい検査結果の解釈や治療にも繋がります。
Step 3:特異的IgE抗体検査・皮膚テスト
問診で疑われた食品に対してのみ実施します。
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注意: 「念のため全部調べてください」という網羅的な検査は、偽陽性(アレルギーではないのに陽性と出る)を招き、無用な食事制限につながるため推奨されません。
Step 4:除去試験と負荷試験
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除去試験: 疑わしい食品を1〜2週間除去し、症状が消失するか確認します。
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経口負荷試験(OFC): 最終確認として、実際に食べて判断します。
6. まとめ
食物アレルギー検査について、科学的な視点からまとめると以下のようになります。
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自己判断しない:
市販の検査キットや、独自の判断での食事除去は栄養障害のリスクがあります。 -
「IgE陽性=アレルギー」ではない:
検査結果の数値だけに振り回されないでください。「食べて大丈夫なら、それはアレルギーではない」が基本原則です。 -
専門医への相談:
アレルギー専門医(日本アレルギー学会専門医など)は、検査数値の解釈だけでなく、年齢や成長に合わせた「必要最小限の除去」と「解除のタイミング」を指導してくれます。 -
IgG検査には手を出さない:
高額な自費診療で行われることが多いですが、診断的意義は確立していません。
食物アレルギーは、正しく診断し、正しく管理すれば、多くの場合、成長とともに食べられるようになる(耐性獲得)可能性が高い疾患です。
アレルギー専門の医療機関での診断を受けることが、QOL(生活の質)を守るための最短ルートです。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介