鼻の炎症が肺を蝕むとき ― 知っておきたい“隠れ喘息”の真実|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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鼻の炎症が肺を蝕むとき ― 知っておきたい“隠れ喘息”の真実

鼻の炎症が肺を蝕むとき ― 知っておきたい“隠れ喘息”の真実|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年1月20日

鼻の炎症が肺を蝕むとき ― 知っておきたい“隠れ喘息”の真実

はじめに:決まった「期間」はないが、明確な「リスク」がある

結論から申し上げますと、アレルギー性鼻炎を発症してから喘息に移行するまでの期間に、すべての人に当てはまる「◯年後」という決まった定説はありません。発症から1年以内に喘息を併発するケースもあれば、10年以上経過してから発症するケース、あるいはほぼ同時に発症するケースもあります。
しかし、大規模な疫学調査や長期的な追跡研究によって、「鼻炎は喘息の強力な予告サインである」こと、そして「鼻炎を放置することで、時間の経過とともに喘息のリスクが高まる」ことは科学的に証明されています。医学界では、この鼻と肺の関係を「One Airway, One Disease(ひとつの気道、ひとつの病気)」という概念で捉えています。

「One Airway, One Disease」という考え方

鼻と肺は、解剖学的に別々の臓器のように見えますが、実際には上気道(鼻)と下気道(肺・気管支)としてつながった「一本の道」です。粘膜の構造も非常に似通っています。そのため、鼻でアレルギー炎症が起きているとき、肺でも目には見えないレベルで炎症が起きていることが多くあります。
アレルギー性鼻炎を持つ患者さんの約20から40パーセントが喘息を合併しており、逆に喘息患者さんの約80パーセントがアレルギー性鼻炎を合併しているというデータがあります。これは、両者が非常に密接に関係していることを示しています。

アレルギー性鼻炎から喘息への「移行」を示す研究データ

いつ喘息になるのかという疑問に対して、いくつかの重要な長期追跡研究(コホート研究)がヒントを与えてくれます。
ヨーロッパで行われた大規模な調査(ECRHS)では、アレルギー性鼻炎のある人は、そうでない人に比べて、その後の人生で喘息を発症するリスクが約3.5倍から4倍高くなることが示されました。特に、鼻炎の発症から長期間経過してもそのリスクは消えず、鼻炎症状が続いている限り、肺への負担は蓄積されていきます。
また、別の研究では、鼻炎の診断を受けてから1年以内の喘息発症率が高いという報告もありますが、これは「鼻炎から喘息へ進んだ」というよりは、「もともとアレルギー体質が強く、鼻と肺の症状がほぼ同時に表面化した」と捉える方が医学的に正確な場合が多いです。一方で、小児期に鼻炎があり、成人してから喘息を発症するという「数十年越しの移行」も珍しくありません。

なぜ鼻炎が続くと喘息になるのか?(メカニズム)

鼻炎が喘息を引き起こす、あるいは悪化させるメカニズムには、主に3つのルートが考えられています。

(1) 鼻閉による口呼吸の影響

鼻は、吸い込んだ空気を温め、加湿し、フィルターとして空気中のホコリやウイルスを除去する高性能なエアコンの役割を果たしています。しかし、鼻炎で鼻が詰まると「口呼吸」になります。口呼吸では、冷たく乾燥した汚れた空気が直接肺に送り込まれるため、気管支が刺激を受け、炎症を起こしやすくなります。これが長期間続くことで、喘息の発症リスクが高まります。

(2) 炎症物質の垂れ込み(後鼻漏)

鼻の粘膜で作られた炎症物質を含んだ鼻水が、喉の奥へと垂れ込むこと(後鼻漏)があります。この炎症物質が気管支の入り口を刺激したり、睡眠中に微量に気管支へ入り込んだりすることで、肺の炎症を誘発します。

(3) 全身性の炎症反応(鼻肺反射と血液循環)

これが最も医学的に注目されているメカニズムです。鼻の粘膜でアレルギー反応が起きると、炎症を引き起こす化学伝達物質(サイトカインなど)が血液中に放出され、全身を巡って肺に到達します。また、鼻の神経が刺激されると、反射的に気管支が収縮するという「鼻肺反射」も存在します。つまり、鼻で火事が起きると、飛び火して肺でもボヤ騒ぎが始まるのです。

「隠れ喘息」の期間

一般の方が最も注意すべきなのは、自覚症状が出るずっと前から、肺の機能低下が始まっている可能性があるという点です。
研究によると、アレルギー性鼻炎の患者さんに対して精密な呼吸機能検査を行うと、喘息の症状(咳やゼーゼーする音)が全くないにもかかわらず、気道が過敏になっていたり、細い気管支に炎症が起きていたりするケースが多く見つかります。これを放置し、風邪や花粉の大量飛散などをきっかけに、ある日突然「喘息発作」として表面化するのです。
つまり、「いつ移行するか」という問いへの答えは、「症状が出たときには、すでに水面下で長い期間をかけて移行が進んでいた」ということになります。

移行を防ぐためにできること

アレルギー性鼻炎を「たかが鼻づまり」と軽く見ず、治療を行うことが、将来の喘息予防につながります。
鼻の炎症を抑える点鼻薬(ステロイド点鼻薬など)や、アレルギー反応そのものを抑える抗ヒスタミン薬を使用することで、鼻の症状だけでなく、気道の過敏性も改善することが多くの臨床研究で示されています。
特に、「鼻が詰まって苦しいときだけ薬を使う」のではなく、医師の指示通りに継続して炎症をコントロールし続けることが、肺を守る「防波堤」となります。

結論

アレルギー性鼻炎から喘息へ移行する期間は個人差が大きく、数ヶ月から数十年と幅広いです。しかし、鼻炎がある時点で喘息予備軍であることは科学的な事実です。
「期間」を気にするよりも、「現在ある鼻炎をしっかりコントロールすること」が、結果として喘息への時計の針を止める、あるいは遅らせるための最も確実な医学的手段です。鼻の治療は、鼻のためだけではなく、肺を守るための治療でもあるのです。

参考文献

  1. Rhinitis and onset of asthma: a longitudinal population-based study. Shaaban R, et al. The Lancet, 2008, DOI: 10.1016/S0140-6736(08)61446-4
    要約:ヨーロッパの一般住民を対象とした大規模追跡調査(ECRHS)。アレルギー性鼻炎がある場合、その後の喘息発症リスクが約3.5倍になることを証明し、鼻炎が独立した強力な危険因子であることを示した重要論文。

  2. Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma (ARIA) 2008. Bousquet J, et al. Allergy, 2008, DOI: 10.1111/j.1398-9995.2007.01620.x
    要約:WHOのイニシアチブによるガイドライン。「One Airway, One Disease」の概念を確立し、鼻炎と喘息を単一の気道疾患として統合的に治療すべきであるという世界的な指針を示した記念碑的文献。

  3. Rhinitis as an independent risk factor for adult-onset asthma. Guerra S, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2002, DOI: 10.1067/mai.2002.121701
    要約:約20年間にわたる追跡調査を行い、アレルギー性鼻炎を持つ成人は、持たない成人に比べて喘息を新規発症するリスクが有意に高いことを実証した研究。

  4. Association of childhood perennial allergic rhinitis with subclinical airflow limitation, Ciprandi G, et al. Clin Exp Allergy, 2010, DOI: 10.1111/j.1365-2222.2009.03399.x
    要約:200名の通年性アレルギー性鼻炎患児を対象とした研究。鼻炎の罹患期間が長いこと、およびダニ感作があることが、小気道機能(FEF25-75)の低下と有意に関連していることを突き止め、喘息への移行を防ぐ早期介入の重要性を示唆した論文。

 

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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