2026年1月14日

花粉症における「鼻水」と「鼻づまり」。どちらも鼻の症状ですが、実はこの2つ、体の中で起きている「正体」も「メカニズム」も全く別の現象だということをご存知でしょうか。
多くの人が「鼻水がたくさん溜まって、それが詰まって鼻づまりになる」と考えていますが、医学的には少し違います。鼻水は「神経の反射による液体の分泌」であり、鼻づまりは「粘膜の腫れ(むくみ)」です。
なぜ同じ花粉を吸い込んでいるのに、ある時は水のように流れ出し、ある時はコンクリートのように詰まってしまうのか。この不思議なメカニズムについて、一般の方にも分かりやすく解説します。
すべての始まりは「防衛システムの誤作動」
まず、鼻水も鼻づまりも、元をたどれば「免疫(めんえき)」という体の防衛システムが過剰に反応していることが原因です。
私たちの体には、ウイルスや細菌などの敵が入ってくると、それを攻撃して追い出そうとする仕組みが備わっています。花粉症の人の体は、無害であるはずの「花粉」を「危険な侵入者」だと勘違いしてしまいます。
花粉が鼻の中に入ってくると、体の中では「IgE抗体(アイジーイーこうたい)」というセンサーが反応し、鼻の粘膜にある「肥満細胞(マスト細胞)」という司令塔にくっつきます。そして、再び花粉が入ってきた瞬間、この司令塔から「攻撃開始!」という合図と共に、様々な化学物質が放出されます。
ここで重要なのが、放出される化学物質の種類です。主に以下の2つが主役となります。
- ヒスタミン
- ロイコトリエン
この2つの物質が、それぞれ「鼻水」と「鼻づまり」という異なる症状を引き起こす犯人なのです。
鼻水の正体は「洗い流すための放水」
まずは「鼻水」のメカニズムから見ていきましょう。
花粉が侵入した直後、肥満細胞から瞬時に放出されるのが「ヒスタミン」という物質です。このヒスタミンは、非常に仕事が早いのが特徴です。
ヒスタミンが放出されると、鼻の粘膜にある「知覚神経(三叉神経)」を直接刺激します。すると、その刺激は脳へと伝わり、脳は即座に2つの命令を下します。
一つは「くしゃみを出して、異物を吹き飛ばせ!」という命令。
もう一つは「鼻の奥にある分泌腺(鼻腺)から水を出して、異物を洗い流せ!」という命令です。
これが、花粉症の鼻水の正体です。つまり、あの止まらない鼻水は、花粉というゴミを外に洗い流そうとする「生体防御反応」としての「放水」なのです。
風邪の時の鼻水は、ウイルスと戦った白血球の死骸などが混ざるため、黄色く粘り気があることが多いですが、花粉症の鼻水が無色透明でサラサラしているのはこのためです。成分のほとんどが水分であり、まさに「蛇口をひねった水」のように流れ出てきます。
この反応は、花粉が入ってから数分〜数十分という非常に短い時間で起こります。これを専門的には「即時相反応(そくじそうはんのう)」と呼びます。
鼻づまりの正体は「粘膜の腫れ」
次に、多くの人を苦しめる「鼻づまり」についてです。
「鼻水が鼻の中にたくさん溜まっているから詰まる」と思われがちですが、実は鼻をいくらかんでも通りが良くならない経験はありませんか? それもそのはず、鼻づまりの主な原因は、液体の詰まりではなく「肉の壁」が膨れ上がっていることだからです。
ここで登場するのが、もう一つの化学物質「ロイコトリエン」です。
ヒスタミンが神経を刺激するのに対し、ロイコトリエンは「血管」に作用します。鼻の内部には「下鼻甲介(かびこうかい)」という、ひだ状の突起があります。ここは非常に血管が豊富な場所です。
ロイコトリエンが指令を出すと、この鼻の粘膜にある血管が広がり(拡張)、血管から水分が染み出してきます。すると、粘膜全体が水を含んだスポンジのようにブヨブヨに腫れ上がります。これを「浮腫(ふしゅ=むくみ)」と言います。
通常、鼻の穴(空気の通り道)は十分に広いスペースがありますが、左右の壁(粘膜)が腫れ上がって膨張することで、空気の通り道が物理的に塞がれてしまいます。これが鼻づまりの正体です。
例えるなら、道路で事故が起きたわけではないのに(鼻水が詰まっているわけではないのに)、道路工事で道幅が極端に狭くなり、車が通れなくなっている渋滞のような状態です。だから、いくら鼻をかんでも「壁」はなくならないため、鼻は通らないのです。
この反応は、ヒスタミンによる鼻水よりも少し遅れてやってきます。また、一度腫れてしまうとなかなか引かないため、症状が長時間続きやすいのが特徴です。これを「遅発相反応(ちはつそうはんのう)」と呼びます。
なぜ夜になると詰まるのか?「モーニングアタック」の謎
鼻水と鼻づまりの違いを理解すると、花粉症特有の悩みも見えてきます。
鼻水(ヒスタミン)は「神経」の反応なので、花粉を浴びた瞬間に症状が出ます。一方、鼻づまり(ロイコトリエン)は「炎症・うっ血」の反応なので、じわじわと進行し、そして持続します。
日中に吸い込んだ花粉の影響で、夜になってから鼻づまりがピークに達することがあります。さらに、夜横になって寝ると、重力の影響で頭部に血液が溜まりやすくなります。ただでさえ炎症で腫れている鼻の粘膜に、さらに血液が集まることで、血管はパンパンに膨れ上がり、鼻の穴を完全に塞いでしまいます。これが、寝る時に鼻が詰まって息苦しくなる原因です。
また、朝起きた瞬間に激しいくしゃみや鼻水に襲われる「モーニングアタック」という現象があります。これは、就寝中に鼻の中に溜まった花粉が、起床時の自律神経の切り替わり(リラックスモードから活動モードへ)によって一気に神経を刺激し、ヒスタミンが暴れ出すことで起こります。
つまり、以下のようなサイクルが生まれます。
- 昼間: 花粉を浴びて「鼻水」が出る(即時相)。同時に、じわじわと粘膜の炎症準備が始まる。
- 夜間: 炎症が進み、血管が拡張して「鼻づまり」がひどくなる(遅発相)。
- 朝方: 自律神経のスイッチが入り、敏感になった神経が爆発して再び「鼻水・くしゃみ」が出る。
治療のアプローチが違う
原因となる物質が違うということは、それを止めるための薬や対策も異なるということを意味します。
【鼻水がつらい人】
ヒスタミンの働きを抑える必要があります。一般的に「抗ヒスタミン薬」と呼ばれる薬がこれにあたります。神経への刺激をブロックすることで、水道の蛇口を閉めるような働きをします。即効性があるものが多いですが、古いタイプの薬だと、脳の神経まで鎮めてしまい、強い眠気が出ることがあります。
【鼻づまりがつらい人】
ヒスタミンを抑えるだけでは不十分な場合があります。血管の拡張や炎症を抑える「抗ロイコトリエン薬」や、強力な抗炎症作用を持つ「点鼻ステロイド薬(噴霧薬)」が効果的です。
特に点鼻薬は、腫れ上がった粘膜に直接作用して炎症を鎮め、広がりすぎた血管を収縮させて、空気の通り道を確保します。
最近の市販薬や処方薬には、この両方の成分をバランスよく配合したものや、どちらかの症状に特化したものが存在します。「鼻水は止まったけど、鼻づまりが治らない」という場合は、薬のタイプが自分の症状(原因物質)と合っていない可能性があるのです。
まとめ
ここまでの話をまとめてみましょう。
鼻水
- 主犯: ヒスタミン
- 作用: 神経を刺激し、分泌腺から水を出させる。
- 目的: 花粉を外へ洗い流す(放水)。
- イメージ: 蛇口が開けっ放しになった状態。
- 特徴: 反応が早い(サラサラしている)。
鼻づまり
- 主犯: ロイコトリエン(およびプロスタグランジンなど)
- 作用: 血管を広げ、粘膜を腫れさせる。
- 目的: 炎症反応による防御壁の形成(過剰防衛)。
- イメージ: 道幅が工事で狭くなった状態。
- 特徴: 反応が遅れてやってくる(物理的に塞がる)。
この2つは、兄弟のような症状ですが、性格は正反対です。
鼻水は「出そうとする動き」、鼻づまりは「閉じようとする動き」と言えるかもしれません。
花粉症のシーズン、ティッシュが手放せないときは「今、私の体は全力で花粉を洗い流そうとしているんだな」と思い、鼻が詰まって苦しいときは「粘膜が腫れて炎症と戦っているんだな」とイメージしてみてください。
敵を知れば、対策も見えてきます。自分の症状が「水」タイプなのか「詰まり」タイプなのか、あるいは「両方」なのか。それによって、選ぶべき薬やケアの方法(鼻を温めて血流を良くするか、あるいは冷やして炎症を抑えるかなど)を医師や薬剤師と相談することで、あの大変な季節を少しでも快適に過ごすことができるはずです。
私たちの体は、時としてありがた迷惑なほど必死に私たちを守ろうとしてくれています。その暴走をなんとかなだめながら、春の季節と上手く付き合っていきましょう。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介