
大学病院での経験と開業への決意
私はこれまで長きにわたり、大学病院で内科診療に従事してまいりました。大学病院では多くの患者様の診療に携わるなかで、最先端の医療技術と知識を学び、実践する日々を送ってきました。しかしその一方で、限られた時間の中での診察、慢性的な医師不足、医療の効率化に追われる日常のなかで、「本当に患者様にとって必要な医療とは何か」を深く考えるようになりました。
そうしたなかで、次第に「自分が理想とする医療」を実現できる場所を求める気持ちが強くなり、このたびご縁をいただき、この地にて開業する運びとなりました。私がこの場所に開業を決めた理由は、都市の喧騒から少し離れた落ち着いた地域の中で、一人ひとりの患者様とじっくり向き合える環境を作りたいという思いからです。地域の皆様の健康を長く支えていける「かかりつけ医」として、信頼される医療を提供していくことを目指しています。
生活習慣改善を重視した医療
私が考える理想の医療とは、病気を「薬で抑えること」だけを目的とするのではなく、できる限り生活習慣の改善、特に「食生活の見直し」を通じて、病気の進行を防ぎ、薬に頼りすぎずに治療を行っていくことです。現代医療の進歩によって、病気を診断し、投薬することは非常に精密かつ迅速になりました。しかし、根本的な健康の土台は日々の生活習慣の中にあると、私は強く実感しています。
私がこうした考えに至った背景には、身近な家族の健康問題がありました。私の父親の兄弟たちは、男女問わず、ほぼ全員が糖尿病、高脂血症、高血圧といったいわゆる「生活習慣病」を抱え、比較的若いうちに亡くなっています。こうした病気は遺伝的な体質も影響しますが、食習慣や運動習慣など、日々の積み重ねによって悪化していくことが知られています。
私自身も例外ではなく、35歳を過ぎた頃から空腹時の血糖値が徐々に高くなってきました。このままでは自分も同じ道をたどってしまうという危機感から、糖質制限を中心とした食生活への切り替えを行いました。その結果、体調は明らかに改善し、現在も大きなトラブルなく健康を維持しています。身をもって「食生活が健康に与える影響の大きさ」を実感したことは、私の診療の方針にも大きく影響しています。
栄養指導へのこだわり
このような経験から、当院では「栄養指導」に特に力を入れています。管理栄養士が4名在籍しており、患者様一人ひとりの体質や病態、生活スタイルに合わせた食事指導を丁寧に行っています。単に「糖質を控える」といった一律のアドバイスではなく、具体的な食材選びや調理法の工夫、食事記録のフィードバックなど、継続しやすく、実践的なサポートを提供しています。
薬の使用に対する慎重な姿勢
薬を使用する際にも、可能な限り「少量・短期間」を原則とし、特に抗生物質の使用には細心の注意を払っています。抗生物質は必要な場面では命を救うほど重要な薬ですが、安易な使用は腸内細菌叢(腸内フローラ)を乱し、免疫力や消化機能に影響を及ぼすことが近年の研究でも明らかになっています。そのため、当院では抗生物質を使用する際には、明確な感染症の診断がある場合に限り、WHOのAWaRe分類に沿ったできるだけ「Access(アクセス)」と呼ばれる第一選択薬を用い、安全かつ効果的な治療を心がけています。
西洋医学と漢方医学の融合
当院の診療のもう一つの特徴は、「西洋医学」と「伝統医学(漢方医学)」の融合です。ガイドラインに基づいた西洋医学の治療は、もちろん第一選択として重要ですが、なかには薬を飲んでも症状が改善しない、原因がはっきりしない不定愁訴など、現代医学だけでは解決が難しいケースも少なくありません。そういった場合には、漢方薬を積極的に取り入れています。
漢方薬は、個々の体質や症状に応じた処方が可能であり、特に慢性の疾患や自律神経系の不調、更年期障害、冷えや疲れなど、日常生活に支障をきたす“未病”の状態に対して大きな力を発揮します。また、漢方薬を併用することで、西洋薬の効果が高まったり、副作用が軽減されたりすることも多く見られます。
私が漢方医学に強く興味を持つようになったのは、師である江部洋一郎先生との出会いがきっかけでした。江部先生からは、漢方医学における「脈診(みゃくしん)」の重要性を教わりました。脈診とは、患者様の手首に触れ、その脈の状態から身体全体のバランスや気血の流れを診断する技術です。一見、非科学的に思えるかもしれませんが、実際には非常に繊細で、経験と洞察力を必要とする診察法です。私は日々の診療で脈診を大切にし、患者様の体の声に耳を傾けながら、漢方処方を行っています。
患者中心の医療と今後の展望
当院では、すべての患者様が「自分の健康を自分で守れる力」を身につけていただけるよう、医学的な知識だけでなく、生活の中で実践できるアドバイスを重視しています。治療の中心にあるのは、患者様ご自身です。医師として、患者様の体の状態を正しく把握し、的確な助言を行いながら、健康をともに築いていく。そんな医療を目指して、日々診療に取り組んでいます。
これからも地域の皆様に信頼され、安心して相談いただけるクリニックを目指し、学びを止めず、丁寧な医療を続けてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。