2026年5月08日

血圧の日内変動とは
私たちの血圧は、1日24時間の中で常に一定の数値を示しているわけではありません。時間帯や活動状態、睡眠、ストレス、食事などの影響を受けて、波のように上がったり下がったりを繰り返しています。これを「血圧の日内変動」と呼びます。
健康な人の正常な血圧変動パターンは、「ディッパー型」と呼ばれます。私たちの体は自律神経(交感神経と副交感神経)やホルモン分泌によって血圧をコントロールしています。日中の活動している時間は、交感神経が活発に働くため血圧は高めに推移します。夕方から夜にかけてリラックスし始めると、体を休ませる副交感神経が優位になり、血圧は次第に下がっていきます。そして睡眠中は、心臓や血管を休めるために日中の血圧よりも10パーセントから20パーセントほど低い状態になります。朝目覚める前からは、再び活動の準備をするために交感神経が働き始め、血圧が自然と上昇していきます。
注意すべき異常な変動パターン
しかし、加齢、動脈硬化、塩分の過剰摂取、睡眠時無呼吸症候群、肥満、糖尿病などの影響で自律神経のバランスが崩れると、この健康的な血圧のリズムが乱れてしまいます。日内変動の乱れは、血管や心臓に余計な負担をかけ続け、心筋梗塞や脳卒中などの深刻な病気を引き起こすリスクを高めることが証明されています。
ディッパー型
【緑線:Dipper】
- 特徴: 正常な血圧変動パターンです。日中は活動に合わせて高くなり、夜間睡眠時には日中よりも血圧が10〜20%ほど低下します。心臓や血管がしっかりと休めている状態です。
ノンディッパー型
【オレンジ線:Non-dipper】
- 特徴: 夜間になっても血圧が十分に下がらない(低下率が10%未満)パターンです。
- リスク: 睡眠中も血管に負担がかかり続けるため、高血圧による臓器障害(心臓肥大や腎機能低下など)の進行リスクが高くなります。
ライザー型 / 昇圧型
【赤線:Riser】
- 特徴: 日中よりも夜間睡眠中のほうが血圧が高くなってしまうパターンです。
- リスク: 最も重症度が高く危険なタイプとされています。睡眠時無呼吸症候群や心不全、重度の自律神経障害などが背景にあることが多く、脳卒中や心筋梗塞のリスクが非常に高くなります。
エクストリーム・ディッパー型
【紫線:Extreme Dipper】
- 特徴: 夜間の血圧が日中に比べて極端に下がりすぎる(低下率が20%以上)パターンです。
- リスク: 血圧が下がりすぎることで、就寝中に脳や心臓への血流が不足しやすくなり、夜間の脳梗塞(無症候性脳梗塞など)を引き起こす危険性があります。
モーニングサージ型
【青線:Morning Surge】
- 特徴: 起床前〜起床直後にかけて、血圧が急激に異常上昇するパターンです。
- リスク: 朝方の急激な血圧上昇は血管に大きなストレスを与えます。脳卒中や心筋梗塞は午前中に多発することが知られていますが、このモーニングサージが大きな引き金となっています。

日内変動の乱れが起きる原因と治療
日内変動が乱れる大きな原因の一つに「塩分の摂りすぎ」があります。塩分を過剰に摂取すると、体内に水分を溜め込もうとする働きが強まり、増えた血液を全身に送り出すために夜間も血圧を高く保つ必要が生じます。また、睡眠時無呼吸症候群によって睡眠中に酸欠状態になると、交感神経が興奮して夜間の血圧上昇を引き起こします。
現在の高血圧治療においては、この変動パターンに応じた「時間治療」という考え方が取り入れられています。夜間の血圧が高い人やモーニングサージが強い人には、あえて就寝前に降圧薬を服用するように医師が指示する場合があります。
日内変動を見つけ、対策するために
病院や診療所の診察室で測る血圧だけでは、昼間の状態しか分からないため、夜間や早朝の危険な変動を見逃してしまう恐れがあります。そこで非常に重要になるのが、家庭での毎日の「家庭血圧」の測定です。
日本高血圧学会の指針でも推奨されている正しい測り方は以下の通りです。
朝の測定:起床後1時間以内、トイレを済ませた後、朝食を食べる前、薬を飲む前に、座って1分から2分安静にした後に測ります。
夜の測定:就寝前に、座って1分から2分安静にした後に測ります。
血圧の記録を毎日つけることでご自身の変動パターンが見えてきます。血圧の記録を医師に提示することで、個人のリズムに合わせた最適な治療が可能になります。規則正しい生活や減塩、十分な睡眠を心がけ、血圧の日内変動をコントロールすることが大切です。
参考文献
- Morning surge in blood pressure and cardiovascular risk: evidence and perspectives, Kario K., Hypertension, 2010 Nov;56(5):765-73. DOI: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.110.157149
要約: 早朝に血圧が急激に上昇するモーニングサージが、24時間の平均血圧とは独立して心血管疾患や脳卒中の重大な引き金となるメカニズムとそのリスクについて解説した重要な学術論文です。 - Nocturnal blood pressure and cardiovascular disease: a review of recent advances, Yano Y, Kario K., Hypertension Research, 2012 Jul;35(7):695-701, DOI: 10.1038/hr.2012.26
要約: 夜間血圧の変動パターンを概説し、夜間の血圧低下の欠如(ノンディッパー型)や夜間高血圧が、心疾患や脳血管疾患の非常に強力な予測因子であることを示した包括的なレビュー論文です。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介