2026年5月07日

はじめに
「最近、ちょっとしたことでイライラしてしまう」「気持ちが落ち着かない」「夜も眠れずにイライラが続く」——このような経験をしたことはありませんか。
現代はストレスの多い社会です。
仕事や家庭のこと、人間関係、体調の変化など、私たちはさまざまな要因で心のバランスを崩しやすくなっています。
西洋医学では、イライラの原因を自律神経の乱れやホルモンバランス、ストレス反応などで説明します。
一方、漢方医学では「体と心はひとつにつながっている」という考えのもと、イライラを「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の流れの乱れや、五臓(ごぞう:肝・心・脾・肺・腎)のバランスの不調として捉えます。
特に「肝(かん)」は、気持ちのコントロールに深く関わる臓器と考えられています。
肝の働きが乱れると、怒りっぽくなったり、気分がふさぎ込んだりしやすくなるのです。
漢方で考えるイライラの原因
漢方では、イライラの背景にいくつかのタイプがあると考えます。
気が滞っているタイプ(肝気鬱結)
ストレスや緊張が続くと、体の中をめぐる「気」の流れが滞ってしまいます。胸がつかえる、ため息が多い、張り感があるなどの症状とともに、イライラしやすくなります。
気が熱に変わってしまったタイプ(肝火上炎)
気の滞りが強くなると、それが「熱」に変わり、顔が赤くなる、頭に血がのぼる、目が充血する、眠れないなどの症状が出て、感情も爆発しやすくなります。
心と体のエネルギー不足タイプ(心脾両虚)
頑張りすぎや心配しすぎで体が消耗すると、気や血が不足してしまいます。元気が出ない、不安、不眠、抑うつ気分とともに、ちょっとしたことでイライラしがちです。
体の潤い不足タイプ(陰虚火旺)
加齢や慢性の不調で「潤い(陰)」が減ると、体の中に余計な熱(虚火)が出てきます。のぼせやほてり、寝汗などとともに、気持ちが落ち着かずイライラしやすくなります。
このように、同じ「イライラ」でも、人によって原因や体質は異なります。そのため、漢方薬は「その人に合った処方」を選ぶことがとても大切になります。
イライラに使われる代表的な漢方薬
柴胡疎肝湯(さいこそかんとう)
どんなときに?
ストレスで胸が張る、ため息が多い、頭が痛くなる、月経前にイライラが強くなるときに使われます。
特徴
気の流れをよくして、気持ちをスッキリさせる働きがあります。
加味逍遙散(かみしょうようさん)
どんなときに?
更年期や月経前後にイライラ、不安、のぼせなどが出るときに使われます。
特徴
気と血のバランスを整え、ストレスと熱を取り除く働きがあります。女性に特に用いられることが多い処方です。
抑肝散(よくかんさん)
どんなときに?
子どもの夜泣きや疳(かん)の強い子、認知症で怒りっぽい方、神経が過敏で落ち着かないときに使われます。
特徴
気持ちの高ぶりを抑えて、心を落ち着ける働きがあります。衝動的になりやすい方に合います。
母子同服といって、親と子供が同時に抑肝散を飲む治療が原典には記載されています。
子供さんの歯ぎしりにも効果がある場合があります。
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
どんなときに?
抑肝散が合いそうだけれど、胃の不調(吐き気、胃のつかえ、食欲不振)があるときに使われます。
特徴
気持ちを落ち着けるだけでなく、胃腸の働きも整えます。
温胆湯(うんたんとう)
どんなときに?
不安が強くて眠れない、夢をよく見る、驚きやすいなどの症状があるときに使われます。
特徴
胃腸の調子を整えながら、心を安定させる働きがあります。
体質や症状による使い分け
ストレスがたまって胸が張る → 柴胡疎肝湯
更年期や月経前後にイライラする → 加味逍遙散
子育て、介護、仕事のストレスでイライラ → 抑肝散
胃の不調を伴ういらいら → 抑肝散加陳皮半夏
不安が強く眠れない → 温胆湯
同じ「イライラ」でも、人によってぴったり合う薬は違います。
漢方薬を使うときの注意
体質に合わないと副作用が出ることがあります(胃の不調、むくみ、肝臓の異常など)。
自己判断で長く飲むのは危険です。必ず医師や薬剤師に相談してください。
強いイライラの裏には、うつ病や不安障害などの病気が隠れていることもあります。気になる場合は精神科や心療内科の受診も考えましょう。
まとめ
イライラは、ストレスや体調の変化によって誰にでも起こる身近な症状です。漢方では「肝」を中心に心と体のバランスが乱れることで起こると考えられ、体質や症状に合わせて薬を選びます。
柴胡疎肝湯、加味逍遙散、抑肝散、温胆湯、酸棗仁湯などが代表的ですが、人によって合う薬は違います。
漢方薬は自然由来の薬とはいえ、きちんと診断と管理のもとで使うことが大切です。
イライラに悩むとき、漢方薬は一つの有効な選択肢になり得ます。
体と心の両方に働きかける漢方の考え方は、現代のストレス社会を生きる私たちにとって大きな助けになるでしょう。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(漢方専門医・指導医)