夏バテ ― 高温多湿の夏に体が消耗する仕組みと、その対策|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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夏バテ ― 高温多湿の夏に体が消耗する仕組みと、その対策

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2026年8月01日

夏バテ ― 高温多湿の夏に体が消耗する仕組みと、その対策

夏バテは「病名」ではありません

「夏バテ」は医学の正式な病名ではありません。高温多湿の環境が続くことで、だるさ、食欲不振、寝つきの悪さ、集中力の低下、胃腸の不調といった症状がまとまって現れる状態を指す、日本で慣用的に使われてきた言葉です。ただし病名ではないからといって「気のせい」ではなく、その背景で起きている生理的な変化は、かなりの部分が研究で説明できます。ここでは主な五つの要因を、根拠となる研究とあわせて整理します。

体温を保つこと自体が、体への負担になっている

ヒトは体温が上がると、皮膚の血管を広げて熱を逃がし、汗をかいて気化熱で体を冷やします。この二つはどちらも循環器に負担をかけます。皮膚に大量の血液を送るため心拍数が上がり、発汗で体液が失われると循環血液量が減り、心臓はさらに速く拍動しなければなりません。暑熱生理学の大型総説は、暑い環境では深部体温の上昇、脱水、ナトリウムの喪失が連鎖的に起こり、身体的にも認知的にも能力が落ちていく過程を体系的に整理しています(文献1)。

「何もしていないのに疲れる」という夏の感覚は、実際には何もしていないわけではありません。体温を一定に保つために、体が休みなく働き続けている結果です。

わずかな脱水でも、だるさと気分に影響する

脱水と聞くと重症の熱中症を思い浮かべますが、影響はもっと手前から始まります。健康な若い男性26人を対象としたランダム化試験では、体重の約1.6パーセントという軽度の脱水でも、注意力の誤りが増え、作業記憶の反応が遅くなり、疲労感と緊張・不安が有意に高まりました(文献2)。重要なのは、深部体温が上がっていない状態でもこの変化が起きたことです。

つまり「熱中症になっていないから大丈夫」ではなく、汗で失った分を戻しきれていないというだけで、だるさや気分の落ち込みは生じうる、ということになります。

眠りが浅くなり、翌日に持ち越される

温熱環境と睡眠の総説によれば、寝具や寝衣を使う現実に近い条件では、暑さへの曝露は中途覚醒を増やし、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)とレム睡眠を減らします。湿度が高いと負荷はさらに増します(文献3)。

これは実社会のデータでも確認されています。米国の76万5000人規模の調査では、夜間気温が平年より高いほど「睡眠不足の夜」が増え、その影響は夏季、そして高齢者や低所得層で大きいことが示されました(文献4)。さらに68か国4万7628人のリストバンドによる実測700万件超の解析では、夜間気温の上昇は主に入眠の遅れを介して睡眠時間を短くし、高齢者、女性、もともと暑い地域に住む人ほど影響が大きいことが分かっています(文献5)。

睡眠不足そのものが翌日の疲労感や集中力低下を招くため、「暑い → 眠れない → 翌日だるい → 夜も回復できない」という循環ができあがります。

食欲が落ちるのは、生理的な反応です

夏に食が細るのは気持ちの問題ではありません。13のランダム化比較試験を統合したメタ解析では、暑い環境に曝露された後はその後のエネルギー摂取量が有意に減少し(効果量マイナス0.39)、逆に寒い環境では増加しました。暑熱条件での摂取量の減少は平均で約635キロジュール(およそ150キロカロリー)でした(文献6)。

摂取エネルギーが減れば活力はさらに落ちます。夏バテが「だるい」と「食べられない」の両方を含むのには、こうした背景があります。

屋内外の寒暖差の繰り返し

日本人28人(平均44歳)を対象に、温度差のある2部屋の間を4往復してもらった実験があります。ベイズ状態空間モデルを使い、環境変化による一時的な反応と、蓄積していく負荷とを分離して解析したところ、温度差のある条件では副交感神経の指標が低下し、交感神経優位を示す指標が上昇し、その負荷は往復を重ねるほど蓄積しました。21分間の常温滞在では回復しきりませんでした(文献7)。

この研究には、通説を修正する興味深い結果もあります。暑熱の後に室温より低い21度の環境に入った条件のほうが、26度に戻る条件よりも自律神経への負荷が小さかったのです。「冷房を効かせすぎることが夏バテの原因」という一般的な説明は、少なくとも単純化しすぎている可能性があります。また、主観的な疲労感は早い段階で頭打ちになった一方、自律神経への負荷は増え続けました。自覚がなくても負荷は溜まる、ということです。

なおこの研究は空調メーカーの資金提供を受けており、対象も28人と小規模である点は差し引いて読む必要があります。

栄養についての補足

ビタミンB1(チアミン)は糖質をエネルギーに変える補酵素として不可欠で、欠乏すると倦怠感、食欲不振、循環器症状、末梢神経障害などが生じます(文献8)。ただし、「夏バテがビタミンB1欠乏によって起きる」という直接的な証拠はありません。そうめんや冷やし中華など糖質に偏った食事が続くと必要量が増える一方で摂取が減る、という状況が起こりうる、という範囲で理解するのが妥当です。

何をすればよいか

水分と塩分の両方を補うことが基本です。環境省のマニュアルおよび日本生気象学会の指針では、大量に発汗する場面では0.1から0.2パーセント程度の塩分を含む飲料(食塩水やスポーツドリンク)が推奨されています(文献9、10)。水だけを大量に飲むと血中ナトリウム濃度が下がり、かえって体調を崩すことがあります。喉の渇きは脱水がある程度進んでから生じるため、渇く前にこまめに摂ることが大切です。

暑さに体を慣らす「暑熱順化」も有効です。総説によれば、順化が進むと発汗の開始が早まって汗の量が増え、血漿量が増加し、同じ運動をしたときの体温と心拍数が下がります。多くの適応は最初の1週間程度で始まります(文献11)。夏本番の前から、無理のない範囲で汗をかく習慣をつけておくと違いが出ます。

睡眠環境は我慢しないことです。暑さに耐えて眠るという選択に生理学的な利点はありません。就寝中も冷房や除湿を使い、湿度を下げることを優先してください。

食事は、量が減るぶん質を意識します。糖質だけに偏らず、肉、魚、卵、大豆製品などのたんぱく質源を意識的に確保してください。

「夏バテ」で片付けてはいけないとき

次のような場合は、他の病気の可能性を考える必要があります。涼しくなっても数週間以上だるさが続く、体重が減っている、発熱がある、動悸や強い息切れがある、めまいで倒れる、意識がもうろうとする。

熱中症のほかにも、貧血、甲状腺機能の異常、糖尿病、感染症、うつ病など、夏の不調と区別しにくい病気は少なくありません。季節のせいだと思い込んで受診が遅れることが、いちばん避けたい事態です。

参考文献

  1. Exercise under heat stress: thermoregulation, hydration, performance implications, and mitigation strategies, Périard JD, Eijsvogels TMH, Daanen HAM. Physiol Rev. 2021 Oct 1;101(4):1873-1979. DOI: https://doi.org/10.1152/physrev.00038.2020 要約: 暑熱下の体温調節と体液バランスを網羅した生理学総説。皮膚血流増加と発汗が循環系に与える負担、高体温・脱水・ナトリウム喪失が身体能力と認知機能を低下させる機序を体系的に整理している。
  2. Mild dehydration impairs cognitive performance and mood of men, Ganio MS, Armstrong LE, Casa DJ, et al. Br J Nutr. 2011 Nov;106(10):1535-1543. DOI: https://doi.org/10.1017/S0007114511002005 要約: 健康男性26人のランダム化試験。体重比約1.6パーセントの軽度脱水で注意課題の誤り増加、作業記憶の反応遅延、疲労感と緊張・不安の有意な上昇を確認。高体温を伴わなくても生じた点が重要。
  3. Effects of thermal environment on sleep and circadian rhythm, Okamoto-Mizuno K, Mizuno K. J Physiol Anthropol. 2012 May 31;31(1):14. DOI: https://doi.org/10.1186/1880-6805-31-14 要約: 温熱環境と睡眠の総説。寝具や寝衣を用いる現実的な条件では、暑熱曝露が中途覚醒を増やし徐波睡眠とレム睡眠を減少させること、高湿度がその負荷をさらに増大させることを整理している。
  4. Nighttime temperature and human sleep loss in a changing climate, Obradovich N, Migliorini R, Mednick SC, Fowler JH. Sci Adv. 2017 May 26;3(5):e1601555. DOI: https://doi.org/10.1126/sciadv.1601555 要約: 米国76万5000人の調査データと夜間気温を接続した大規模研究。夜間気温が平年より高いほど睡眠不足の夜が増え、夏季および高齢者・低所得層で影響が大きいことを示した。
  5. Rising temperatures erode human sleep globally, Minor K, Bjerre-Nielsen A, Jonasdottir SS, Lehmann S, Obradovich N. One Earth. 2022 May 20;5(5):534-549. DOI: https://doi.org/10.1016/j.oneear.2022.04.008 要約: 68か国4万7628人のリストバンド実測700万件超を解析。夜間気温の上昇は主に入眠遅延を介して睡眠時間を短縮し、高齢者・女性・温暖地域の住民ほど影響が大きいことを示した。
  6. Effects of Acute Heat and Cold Exposures at Rest or during Exercise on Subsequent Energy Intake: A Systematic Review and Meta-Analysis, Millet J, Siracusa J, Tardo-Dino PE, et al. Nutrients. 2021 Sep 28;13(10):3424. DOI: https://doi.org/10.3390/nu13103424 要約: 13のランダム化比較試験のメタ解析。暑熱曝露後はエネルギー摂取量が有意に減少し(効果量マイナス0.39)、寒冷では増加。夏に食が細るのが生理的反応であることを裏づけた。
  7. Estimating psychophysiological loads by repeated temperature steps on humans using a state–space model, Iwasaki M, Morito Y, Watanabe K, et al. PLoS One. 2025 Nov 3;20(11):e0335545. DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0335545 要約: 日本人28人が温度差のある2室を反復移動した実験。ベイズ状態空間モデルにより、寒暖差の反復で副交感神経活動が低下し交感神経優位の負荷が蓄積することを定量化した。空調メーカー資金による研究。
  8. Thiamine deficiency disorders: a clinical perspective, Smith TJ, Johnson CR, Koshy R, et al. Ann N Y Acad Sci. 2021 Aug;1498(1):9-28. DOI: https://doi.org/10.1111/nyas.14536 要約: ビタミンB1欠乏症の臨床総説。チアミンがエネルギー代謝に必須であること、欠乏が倦怠感、食欲不振、循環器症状、神経症状など広範な臨床像を呈することを解説している。
  9. 熱中症環境保健マニュアル2022(総論は2025年7月改訂版を先行公開), 環境省. 2022年3月改訂. https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php 要約: 環境省による保健指導マニュアル。熱中症の定義と重症度分類、暑さ指数(WBGT)の活用、水分と塩分の補給方法、暑熱順化の考え方を公的立場から整理した基本資料。
  10. 日常生活における熱中症予防指針 Ver.4, 日本生気象学会. 2022年5月23日. https://seikishou.jp/cms/wp-content/uploads/20220523-v4.pdf 要約: 日本生気象学会の指針。大量発汗時は0.2パーセント程度の塩分を含む水分の摂取を推奨し、飲酒後や空調使用時の補給、暑熱順化が熱中症予防に有効であることを具体的に示している。
  11. Adaptations and mechanisms of human heat acclimation: Applications for competitive athletes and sports, Périard JD, Racinais S, Sawka MN. Scand J Med Sci Sports. 2015 Jun;25 Suppl 1:20-38. DOI: https://doi.org/10.1111/sms.12408 要約: 暑熱順化の総説。発汗と皮膚血流の改善、血漿量の増加、体温と心拍数の低下、細胞保護機構の亢進が起こり、熱中症リスクの低減と暑熱下での能力改善につながることを整理している。

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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