2026年6月04日

GLP-1作動薬はダイエット薬として、一部の自由診療クリニックが適応外使用の診療を行っており厚生労働省や学会も問題視しています。また、あるインフルエンサーのSNSでのマンジャロに関する発言で、炎上騒ぎを起こしています。
当院では、私のポリシーで、GLP-1作動薬の適応外使用目的の処方は行っていません。
今回は、GLP-1作動薬をダイエット目的で安易に使用するとリバンドが早い理由を解説します。
なぜGLP-1受容体作動薬を止めるとリバウンドが早いのか
肥満治療薬を中止した後に起こる急激な体重増加には、人間の体が持つ生物学的な防衛システムが深く関わっています。理由は大きく分けて2つあります。
第一に、薬剤による強力な食欲抑制の「強制解除」です。マンジャロなどの薬剤は、脳の満腹中枢に直接働きかけて偽の満腹信号を送り、同時に胃の動きを緩やかにして食べ物が体内に長く留まるように作用します。これにより、本人の意志とは関係なく食べる量が劇的に減り、体重が落ちていきます。
しかし、薬の投与を止めると、それまで無理やり抑え込まれていた食欲のブレーキが突如として外れます。胃の動きも元のスピードに戻るため、以前と同じか、あるいはそれ以上の強い空腹感が押し寄せることになります。
第二に、体体内の「恒常性(ホメオスタシス)」という仕組みの反動です。恒常性とは、体が現在の状態を一定に保とうとする機能のことです。薬によって短期間で大幅に体重が減少したとき、脳はそれを健康的に痩せたとは認識せず、「深刻な飢餓の危機に直面している」と判断します。
この飢餓モードの状態で薬の成分が体内から消えると、脳は失ったエネルギーを何としてでも取り戻そうとして、強烈な食欲を発生させると同時に、食べたものを効率よく脂肪として蓄えようとします。
この現象は、国際的な大規模臨床試験である「SURMOUNT-4」や「STEP-4」という研究で証明されています。これらの試験では、薬の力で劇的に体重を減らした患者たちのうち、途中で薬を偽薬(プラセボ)に切り替えたグループのほとんどが、わずか1年の間に減量した体重の大部分を急速にリバウンドさせてしまうことが確認されました。つまり、薬で痩せるという行為は、食欲を一時的に外からコントロールしているに過ぎません。
食事療法と運動療法がリバウンドしにくく安全である理由
これに対して、自らの意志と行動で食事を管理し、定期的に運動を行うダイエットが、なぜリバウンドしにくく、かつ安全であると言えるのか。そこにはライフスタイルを根本から変えるアプローチならではの3つの確かなメリットがあります。
1.筋肉量を維持し、基礎代謝の低下を防ぐ
食事と運動を組み合わせたダイエットがリバウンドしにくい最大の理由は、体の中の「筋肉(除脂肪体重)」が守られる点にあります。
寝ている間でも呼吸や体温維持のために消費されるエネルギーのことを「基礎代謝」と呼びますが、この基礎代謝の多くを消費しているのが筋肉です。薬だけに頼って食事量が激減するような急激な減量を行うと、体は脂肪だけでなく、自分の筋肉をも分解してエネルギーに変えてしまうため、筋肉量が著しく減少します。
筋肉が減ると基礎代謝が落ち、結果として「以前より消費エネルギーの少ない、太りやすい体(省エネ体質)」になってしまいます。薬を止めた後に恐ろしいスピードで体重が戻るのは、この基礎代謝の低下も原因の一つです。
一方、適切な食事療法(特にタンパク質をしっかり摂ること)と、運動療法(特に筋力トレーニング)を組み合わせた減量では、筋肉の分解が最小限に抑えられます。科学的な分析(メタアナリシス)でも、食事制限に運動を加えることで、脂肪だけを効率よく減らし、筋肉量を維持できることが証明されています。基礎代謝がしっかりと維持されていれば、ダイエットを終えた後も日常の消費カロリーが高く保たれるため、リバウンドのスピードは格段に緩やかになります。
2.脳の報酬系と行動パターンの根本的な習慣化
薬による減量は、外的な要因で食欲を一時的に麻痺させているだけなので、本人の食生活の好みや、ストレスが溜まると食べてしまうといった「太る原因となった行動パターン」は何も解決していません。そのため、サブスクリプションを解約するように薬を止めれば、元の生活に戻り、元の体重に戻るのは必然です。
しかし、自ら食事の栄養バランス(カロリーだけでなく、栄養素の質)を意識し、定期的に体を動かす生活へとシフトしていくプロセスは、脳の報酬系や行動パターンを根本から書き換える「行動変容」をもたらします。
健康的な食事を選ぶ知識や、運動によって得られる爽快感を脳が一度学習すると、それは一時的な我慢ではなく、心地よい「一生ものの生活習慣」へと定着していきます。自分で身につけた健康的な習慣には、薬のような「中止」という概念がありません。生活の基盤そのものが太りにくいものへとアップデートされているため、リバウンドのリスクが極めて低いのです。
3.副作用のリスクがない安全性と、多面的な健康増進効果
安全性という観点において、理にかなった食事と運動に勝るものはありません。
マンジャロなどのGLP-1関連薬には、吐き気、嘔吐、激しい便秘、下痢といった消化器系の副作用が非常に高い確率で現れることが報告されています。また、これらの新しい薬剤を何年も、あるいは何十年も使い続けた場合の長期的な安全性や、体への影響については、まだ完全に解明されていない部分もあります。
これに対し、適切な食事管理と運動には、このような薬物特有の健康リスクがありません。それどころか、運動は心肺機能を高め、血管を若返らせ、骨密度を維持し、免疫力を向上させるなど、単に体重を落とすこと以上の膨大な健康メリットを全身にもたらします。
さらに、運動をすることで脳内にセロトニンやエンドルフィンといった「幸福ホルモン」が分泌され、ストレスが緩和されることも科学的に分かっています。体への負担がなく、むしろ心身の健康度を底上げしながら安全に痩せられる点こそが、ライフスタイル改善の最も優れた強みです。
結論
マンジャロをはじめとする最新の肥満治療薬は、医療の歴史において画期的な発明であり、高度な肥満に悩む人々を救う強力なツールです。しかし、それは決して「体脂肪を魔法のように消し去る薬」ではなく、食欲を人工的に抑え込み続けるための、まさにサブスクのような存在です。
自分の力で食事を整え、お気に入りの運動を日常に取り入れるアプローチは、薬に比べれば体重減少のスピードはゆっくりかもしれません。しかし、その過程で維持された筋肉(基礎代謝)と、脳に定着した健康的な習慣は、誰にも奪われることのないあなた自身の財産となります。
リバウンドを防ぎ、一生モノの健康的で美しい体を維持するためには、薬という外部の力に依存し続けるのではなく、食事と運動によって自分のライフスタイルを少しずつアップデートしていくことが、最も確実で、最も安全な王道であると言えます。
参考文献
1.Continued treatment with tirzepatide for maintenance of weight reduction in adults with obesity: the SURMOUNT-4 randomized clinical trial, Aronne LJ, et al. JAMA. 2024 Jan 2;331(1):38-48. DOI: 10.1001/jama.2023.24945
要約: 肥満患者にチルゼパチドを36週間投与して減量させた後、継続群と偽薬群に分けた試験。偽薬に切り替えた群は1年間で減量分の約14パーセントが急速にリバウンドし、薬の有効性を維持するためには長期的な継続投与が不可欠であることを示した重要な臨床研究。
2.Effect of Continued Weekly Subcutaneous Semaglutide vs Placebo on Weight Loss Maintenance in Adults With Overweight or Obesity: The STEP 4 Randomized Clinical Trial, Rubino D, et al. JAMA. 2021 Apr 13;325(14):1414-1425. DOI: 10.1001/jama.2021.3224
要約: GLP-1受容体作動薬セマグルチドを20週間投与した後に偽薬へ切り替えた群と、継続した群を比較した試験。偽薬群はその後48週間で減量した体重の大部分をリバウンドしており、薬による食欲抑制効果を止めると、体重が元の状態へ戻る性質を証明した。
3.Diet, exercise or diet with exercise: comparing the effectiveness of treatment options for weight-loss and changes in fitness for adults (18-65 years old) who are overfat, or obese; systematic review and meta-analysis, Clark JE. J Diabetes Metab Disord. 2015 Apr 17;14:31. DOI: 10.1186/s40200-015-0154-1
要約: 食事療法単独、運動療法単独、およびその両方を組み合わせた減量効果を比較した包括的分析。食事制限に運動(特に筋トレ)を組み合わせることで、減量時の筋肉減少が抑えられ、基礎代謝が維持されるため、長期的にリバウンドしにくい健康的な体組成を作れることを示した。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
有光潤介