2026年5月19日

私が研修医のときとは、内視鏡の画質が雲泥の差で鮮明のなっており、また、画像処理技術により早期癌の検出率が上がっています。
当院では、富士フイルムの内視鏡システムを導入しており、画像処理技術として、BLI,LCIモードが装備されており、日々の診療に役立っています。
今回は、画像処理技術について解説しました。
画像強調内視鏡とは何か
かつての胃カメラは、太陽の光と同じような「白色の光」を胃の中に当てて、そのままの色合いで観察していました。しかし、初期の小さな胃がんや、ごくわずかな粘膜の荒れは、周囲の正常な胃の壁と色が非常に似ているため、熟練した医師であっても白色の光だけで見つけ出すのは至難の業でした。
そこで登場したのが「画像強調内視鏡」という技術です。これは、特定の色の光(波長)だけを当てたり、コンピューターによる高度な画像処理を行ったりすることで、胃の粘膜のわずかな「色の違い」や「血管の形」をくっきりと際立たせる技術です。これにより、がんなどの病変が周囲から浮き上がって見えるようになり、早期発見の確率が飛躍的に向上しました。
LCI:色の魔法で病変を遠くから見つけ出す技術
LCI(Linked Color Imaging)は、富士フイルム社が開発した技術で、主に「色のコントラスト(対比)」を拡張することに特化しています。
通常、胃の中がピロリ菌などで炎症を起こしていると、全体が赤っぽく見えます。その中に同じく赤っぽい初期のがんがあっても、同化してしまって見えにくいのが難点でした。LCIは、特殊な光の配合とコンピューター処理により、「赤い色はより赤く」「白い色はより白く」表現します。自然な色合いを残しつつも、わずかな色の違いを人間の目が認識しやすいように強調するのです。
特に注目すべきは、ピロリ菌の影響で胃の粘膜が荒れ、がんが発生しやすい「腸上皮化生」という状態になった粘膜の捉え方です。LCIを使うと、この危険な粘膜が特徴的な「紫色」になって見えます。一方で、早期の胃がんは「オレンジ色」や「赤色」として明るく浮かび上がります。つまり、紫色の背景の中にオレンジ色のがんがポツンと現れるため、胃の中を広く見渡している段階(遠景観察)でも、異常な場所を瞬時に発見しやすくなるのがLCIの最大の強みです。
以前であれば色素を散布してコントラストをつけて観察していましたが、画像処理することにより病変部分は同等以上の視認性向上になっています。
当院でも、最近、ピロリ除菌後5年以上経っている40代後半の男性の胃カメラをしたところ、胃の前庭部にオレンジ色に見える部分があり、生検をしたところ早期の胃癌と判明し総合病院に紹介しました。通常光で見ると全体にACAっぽい炎症所見にしか見えなかったため、改めて画像処理技術の進歩に感謝しました。
左下の画像は、ピロリが住んでいない胃の粘膜。右下の画像は、ピロリ菌が住んでいて、粘膜の萎縮が強い胃です。ちなみに、左側は妻、右側は父の胃です。
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BLI:粘膜の微細な構造をズームで読み解く技術
同じく富士フイルム社に搭載されているのが、BLI(Blue Laser/Light Imaging)という技術です。LCIが「遠くから見て異常を見つける(拾い上げ)」のを得意とするのに対し、BLIは「怪しい場所に近づいて、それが本当にがんかどうかを見極める(精密検査)」ことに優れています。
がんは大きくなるために、栄養を運ぶための独自の細かな血管(毛細血管)を周囲にたくさん張り巡らせる性質があります。BLIは、血液中の成分(ヘモグロビン)に強く吸収される「青色の短い波長の光」を強く当てます。すると、粘膜の表面にある細かな血管やデコボコした構造が、茶褐色にくっきりと浮かび上がります。
内視鏡のズーム機能(拡大観察)とBLIを組み合わせることで、医師は血管が不規則にねじれていないか、表面の構造が崩れていないかを顕微鏡のように詳細に観察でき、組織を採取する前に高い精度で良性か悪性かを判断することができます。
食道を観察するときは、このモードでも観察している医療機関が殆どだと思います。

NBI:血管の形からがんを見つけ出す先駆的技術
NBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)は、オリンパス社が開発し、内視鏡の歴史を大きく変えた画期的な技術です。目的や原理は富士フイルムのBLIと非常に似ています。
NBIは、青色(波長415ナノメートル)と緑色(波長540ナノメートル)という2つの特定の波長の光だけを特殊なフィルターを通して照射します。青い光は粘膜の浅い部分にある毛細血管を茶色く映し出し、緑の光は少し深い部分にある太い血管を青緑色に映し出します。これにより、粘膜の中の血管のネットワークが立体的かつ鮮明に浮かび上がります。
NBIも拡大観察との相性が抜群で、がん特有の異常な血管を見つけ出すのに威力を発揮します。また、見つかった早期胃がんを内視鏡を使って切り取る手術(ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術)の際にも、どこまでががんで、どこからが正常な粘膜なのか、その「境界線」を正確に把握するために非常に役立つことが証明されています。
これらの技術がもたらすメリット
最新の画像処理技術の普及は、単に「画像が綺麗になった」というだけでなく、内視鏡を受けた方の命と健康を守る上で以下のような多大なメリットをもたらしています。
早期発見による負担の少ない治療の実現
平坦で見つけにくい初期の胃がんでも、色や血管の異常として発見できる確率が高まりました。早期に見つかれば、お腹を切る開腹手術ではなく、数日の入院で済む内視鏡治療で完治を目指すことができます。
より正確な胃炎・ピロリ菌の診断
LCIなどの技術により、現在ピロリ菌に感染しているのか、過去に除菌が済んでいるのか、胃炎の広がりはどの程度かを色の変化から的確に把握できるようになりました。これは将来の胃がんリスクを予測する上で非常に重要です。
検査時間の短縮と苦痛の軽減
異常が目立ちやすいシステムを使うことで、医師はより短時間で確実に見落としのない検査を行うことができます。これは、どうしても苦しさや不安を伴いがちな胃カメラ検査において、患者様の心身の負担を減らすことにも繋がっています。
まとめ
富士フイルム社のシステムでは、「LCI」で胃全体を明るく色鮮やかに観察して病変を見つけ出し、疑わしい箇所があれば「BLI」に切り替えて血管や表面の構造をズームで細かくチェックする、という無駄のない連携が可能です。最先端の技術を活用することで、より安全で精度の高い医療が提供されています。
参考文献
- Linked color imaging can enhance recognition of early gastric cancer by high color contrast to surrounding gastric intestinal metaplasia, Fukuda H, et al. Journal of Gastroenterology . 2018 Oct;54(5):396-406. DOI: 10.1007/s00535-018-1515-6
要約: LCIを用いた早期胃がんの視認性向上に関する研究。周囲の腸上皮化生が紫色に描出されることで、赤色を呈する早期胃がんとの色の対比が高まり、病変の発見が容易になることを客観的に証明しています。 - Novel endoscopic findings as visualized by non-magnification endoscopy with linked color imaging are indicative of gastric intestinal metaplasia, Min M, et al. Chinese Medical Journal . 2019 Apr;132(7):782-788. DOI: 10.1097/CM9.0000000000000172
要約: LCI観察における「霧の中の紫色(Purple in Mist)」という特徴的な見え方が、胃がん発生のリスクとなる腸上皮化生の診断において、非常に高い感度と特異度を持つことを報告した重要な臨床研究です。 - Linked Color Imaging and Blue Laser Imaging for Upper Gastrointestinal Screening, Osawa H, et al. Clinical Endoscopy . 2018 Dec;51(6):513-526. DOI: 10.5946/ce.2018.132
要約: 富士フイルム社のLCIおよびBLIを用いた胃・食道スクリーニングの有用性をまとめたレビュー論文。LCIの全体観察で病変を拾い上げ、BLIで血管構造を詳細観察する連携の重要性を解説しています。 - Usefulness of Narrow-Band Imaging in Endoscopic Submucosal Dissection of the Stomach, Kim JW. Clinical Endoscopy . 2018 Nov;51(6):527-533. DOI: 10.5946/ce.2018.186
要約: オリンパス社のNBIが早期胃がんの内視鏡治療(ESD)にどのように貢献するかをまとめた論文。NBIが腫瘍の正確な境界線や深達度を予測し、安全で確実な切除をサポートする科学的根拠を提供しています。 - Narrow-Band Imaging: Clinical Application in Gastrointestinal Endoscopy, Barbeiro S, et al. GE – Portuguese Journal of Gastroenterology . 2018 Jul;26(1):40-53. DOI: 10.1159/000487470
要約: NBIの原理と臨床応用について包括的に解説した文献。415nmの青色光と540nmの緑色光が、表層の毛細血管を強調するメカニズムや、がん特有の血管網を可視化して早期発見に繋がるプロセスを詳述しています。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
有光潤介

