2026年8月13日

スマートウォッチの数字より「昼間の眠気」が鍵。医師が解説する、睡眠の質を正しく測る方法
7時間は寝た。それなりに早く布団に入った。なのに朝がつらいし、昼過ぎには頭が働かない。
外来で本当によく聞く話です。そして多くの方が「自分は睡眠の質が悪いんだと思います」とおっしゃる。ただ、この「質」という言葉、実はかなりぼんやりしています。何をもって悪いと言えるのか。そこがはっきりしないと、対策の打ちようがありません。
質には、ちゃんと物差しがある
米国のNational Sleep Foundationが専門家パネルを組んで、277本の研究を洗い直したうえで整理した指標があります。眠りを「途切れなさ」で評価するという考え方です。
大人の場合、こんな具合です。寝つくまでの時間は15分以内なら良好、60分を超えると質が悪い。夜中に5分以上しっかり目が覚める回数は、1回までなら許容範囲。目が覚めたあと再び眠るまでの合計時間は20分以内。そして、布団にいた時間のうち実際に眠っていた割合を睡眠効率と呼びますが、これが85パーセント以上あるかどうか。
ここで面白いのは、この専門家パネルが「深い睡眠は何パーセント必要か」という点については意見をまとめられなかった、ということです。睡眠段階の構成に関する指標は合意に至らず、さらなる研究が必要とされました。
つまり、スマートウォッチが表示する「深い睡眠12パーセント」という数字に一喜一憂する科学的根拠は、今のところ乏しい。そこはあまり気にしなくていい部分です。
感じている眠りと、実際の眠りはズレる
もうひとつ知っておいてほしいことがあります。
「ほとんど一睡もできなかった」と訴える方に脳波検査をすると、実際にはしっかり眠っている。こういうケースは決して珍しくありません。逆説性不眠、あるいは睡眠状態誤認と呼ばれます。検査上の総睡眠時間が本人の申告より明らかに長く、そのズレは他の不眠症のタイプより大きいことが知られています。
これは気のせいでも大げさでもありません。脳の「眠りを感じ取る仕組み」の問題です。ですから、自己申告だけで判断すると方向を間違えることがある。ここが厄介なところです。
いちばん確かな答え合わせは、昼間にある
では何を手がかりにするか。私は日中の状態を重視します。
夜の主観はブレます。でも、会議中に落ちそうになる、信号待ちでウトウトする、といった昼間の眠気は嘘をつきません。エプワース眠気尺度という8項目の簡単な質問票があって、日常の8つの場面でどれくらい眠り込みそうかを0から3点で答えるものです。睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーの患者さんと健常者を有意に区別できることが示されています。合計11点以上なら、一度は調べたほうがいい水準です。
原因は、三つの方向から絞り込む
原因探しは、大きく三方向で考えると整理しやすくなります。
一つめは、呼吸です。いびきをかく、家族に呼吸が止まっていると言われた、朝起きたとき口が乾いている、高血圧がある。こういう要素が重なるなら睡眠時無呼吸を疑います。STOP-Bangという8項目の質問票が便利で、3点以上という基準で中等症以上の無呼吸を93パーセントの感度で拾い上げます。ただし特異度は低い。あくまで「ふるい」であって、診断ではありません。
二つめは、リズムのズレ。休日に昼まで寝てしまう、平日と休日で起床時刻が2時間以上違う。こういう方は、量ではなくタイミングの問題であることが多いです。
三つめは、眠りを邪魔しているもの。ここは意外と身近です。
お酒はわかりやすい例で、どの量でも寝つきは早くなり、前半の眠りは深くなるものの、後半の眠りは確実に乱れます。寝酒が効いている気がするのは、前半だけを体感しているからです。
カフェインも侮れません。400ミリグラムのカフェインを就寝6時間前に摂っただけで、睡眠が有意に乱れることが客観的にも確認されました。夕方5時のコーヒー一杯が、夜11時の眠りに響いているわけです。
このほか、夜間頻尿、痛み、脚のむずむず感、気分の落ち込み、服用中の薬。どれも十分に原因になり得ます。
自分で調べるなら、まず2週間の記録から
道具は要りません。手帳で十分です。
布団に入った時刻、寝ついたと思う時刻、夜中に目覚めた回数、起きた時刻、そして日中の眠気を10段階で。これを2週間つけると、驚くほど見えてきます。「毎日眠れない」と思っていたのが、実は水曜と日曜だけだった、というのはよくある話です。
活動量計についてはどうか。米国睡眠医学会は、慢性不眠や概日リズム睡眠覚醒障害の評価において、複数夜にわたる客観的データを得る手段として臨床的な役割があると位置づけています。ただし推奨の多くは条件付きで、脳波の代わりにはなりません。傾向を見る道具、と考えるのが妥当です。
検査という選択肢
疑いが濃ければ検査に進みます。米国睡眠医学会の診断ガイドラインは、合併症のない中等症以上が疑われる成人では、自宅で行う簡易検査と検査室での終夜睡眠ポリグラフのどちらも選択肢になるとしています。当院でも、まず自宅でできる簡易検査からご案内することが多いです。
日本でも厚生労働省が2024年2月に「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を公表し、成人には6時間以上の睡眠確保を推奨しています。
目安として
日中の眠気が仕事や運転に支障を出している。いびきや無呼吸を指摘された。眠れない夜が週3回以上、3か月以上続いている。このいずれかに当てはまるなら、自己流の対策を続けるより一度相談していただくほうが早い。
「質が悪い」という漠然とした感覚は、こうして分解していけば、たいてい具体的な原因にたどり着きます。
参考文献
1.National Sleep Foundation’s sleep quality recommendations: first report, Ohayon M, Wickwire EM, Hirshkowitz M, et al. Sleep Health. 2017 Feb;3(1):6-19. DOI: https://doi.org/10.1016/j.sleh.2016.11.006
要約: 専門家パネルが277研究を系統的に検討し、睡眠の質の指標を初めて数値化した合意文書。入眠潜時15分以内、睡眠効率85パーセント以上などを良好の基準とし、睡眠段階構成は合意に至らなかったと明記している。
2.The Pittsburgh Sleep Quality Index: a new instrument for psychiatric practice and research, Buysse DJ, Reynolds CF 3rd, Monk TH, et al. Psychiatry Research. 1989 May;28(2):193-213. DOI: https://doi.org/10.1016/0165-1781(89)90047-4
要約: 過去1か月の睡眠の質を19項目で評価する自己記入式質問票PSQIの原著。主観的睡眠質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率など7要素を得点化する国際標準ツールで、3万件以上の研究に引用されている。
3.Paradoxical insomnia and subjective-objective sleep discrepancy: A review, Rezaie L, Fobian AD, McCall WV, Khazaie H. Sleep Medicine Reviews. 2018 Aug;40:196-202. DOI: https://doi.org/10.1016/j.smrv.2018.01.002
要約: 主観的な不眠の訴えと睡眠ポリグラフ所見が乖離する逆説性不眠の総説。検査上の総睡眠時間が自己申告より有意に長く、そのズレが他の不眠症型より大きいことを示し、診断と治療の難しさを整理している。
4.A new method for measuring daytime sleepiness: the Epworth sleepiness scale, Johns MW. Sleep. 1991 Dec;14(6):540-545. DOI: https://doi.org/10.1093/sleep/14.6.540
要約: 日中の眠気を8場面の眠り込みやすさで評価するESSの原著。健常者30名と睡眠障害患者150名で検証し、閉塞性睡眠時無呼吸やナルコレプシー患者を有意に判別できることを示した。
5.STOP-Bang Questionnaire: A Practical Approach to Screen for Obstructive Sleep Apnea, Chung F, Abdullah HR, Liao P. Chest. 2016 Mar;149(3):631-638. DOI: https://doi.org/10.1378/chest.15-0903
要約: いびき、疲労、無呼吸目撃、高血圧、BMI、年齢、首囲、性別の8項目で睡眠時無呼吸をふるい分ける質問票の解説。3点以上で中等症以上を感度93パーセントで検出するが特異度は低いと明示している。
6.Alcohol and Sleep I: Effects on Normal Sleep, Ebrahim IO, Shapiro CM, Williams AJ, Fenwick PB. Alcoholism: Clinical and Experimental Research. 2013 Apr;37(4):539-549. DOI: https://doi.org/10.1111/acer.12006
要約: 健常者における飲酒と夜間睡眠の関係を包括的に検討した総説。どの用量でも入眠潜時は短縮し前半の睡眠は安定する一方、後半の睡眠は分断が増加すること、高用量ではREM睡眠が減少することを示した。
7.Caffeine Effects on Sleep Taken 0, 3, or 6 Hours before Going to Bed, Drake C, Roehrs T, Shambroom J, Roth T. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2013 Nov;9(11):1195-1200. DOI: https://doi.org/10.5664/jcsm.3170
要約: カフェイン400ミリグラムを就寝時、3時間前、6時間前に摂取した際の睡眠影響を比較した試験。6時間前の摂取でも主観的評価と客観的測定の双方で有意な睡眠障害が生じることを実証した。
8.Use of Actigraphy for the Evaluation of Sleep Disorders and Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline, Smith MT, McCrae CS, Cheung J, et al. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2018 Jul;14(7):1231-1237. DOI: https://doi.org/10.5664/jcsm.7230
要約: 活動量計の臨床的位置づけを定めた米国睡眠医学会ガイドライン。慢性不眠や概日リズム障害の評価に有用としつつ推奨の大半は条件付きで、周期性四肢運動障害の診断には用いるべきでないと強く勧告している。
9.Clinical Practice Guideline for Diagnostic Testing for Adult Obstructive Sleep Apnea: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline, Kapur VK, Auckley DH, Chowdhuri S, et al. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2017 Mar;13(3):479-504. DOI: https://doi.org/10.5664/jcsm.6506
要約: 成人の閉塞性睡眠時無呼吸の診断検査に関するガイドライン。合併症のない中等症以上が疑われる例では自宅簡易検査と終夜睡眠ポリグラフのいずれも選択可能とし、簡易検査陰性時の追加検査を推奨している。
10.健康づくりのための睡眠ガイド2023, 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会, 厚生労働省, 2024年2月. https://www.mhlw.go.jp/content/001181265.pdf
要約: 2014年の睡眠指針を約10年ぶりに改訂した国内の公的文書。成人、こども、高齢者の年代別に推奨事項を整理し、成人には6時間以上の睡眠確保を推奨するほか、睡眠環境、運動、嗜好品との関係も解説している。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介