のどちんこ、見えますか?「いびき」と「喉の奥」の意外な関係|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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のどちんこ、見えますか?「いびき」と「喉の奥」の意外な関係

のどちんこ、見えますか?「いびき」と「喉の奥」の意外な関係|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年5月22日

のどちんこ、見えますか?「いびき」と「喉の奥」の意外な関係

はじめに

睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、極端に浅くなったりする状態を繰り返す病気です。この疾患の中で最も一般的なのが「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」と呼ばれるタイプです。これは、睡眠中に空気の通り道である「上気道(鼻や口から喉仏までの道)」が物理的に狭くなったり、完全に塞がったりすることで発生します。

睡眠時無呼吸症候群は、いびきや日中の強い眠気といった日常生活の質の低下を招くだけでなく、放置すると高血圧、心筋梗塞、脳卒中などの致死的な心血管疾患のリスクを大幅に引き上げる疾患です。しかし、睡眠中の出来事であるため自覚症状に乏しく、適切な診断を受けていない潜在的な患者が数多く存在すると言われています。

この上気道の狭さを、覚醒時の外見(口の中の様子)から簡便に予測するためのスクリーニング指標として、世界中の医療現場で広く用いられているのが「マランパチ分類(Mallampati classification)」です。本稿では、マランパチ分類の基本的な仕組みから、それが睡眠時無呼吸症候群の診断や重症度予測においてどのように役立つのか詳しく解説します。

 

マランパチ分類とは何か

マランパチ分類は、1985年に麻酔科医であるマランパチ医師らによって提唱された臨床的な評価方法です。当初は、全身麻酔の際に患者の気管に呼吸用のチューブを挿入する「気管挿管」が、どれくらい困難になるかを事前に予測する目的で開発されました。現在ではその簡便さと正確さから、睡眠医療の分野でも広く応用されています。

評価の方法は非常にシンプルです。患者さんに椅子に座った状態で口を大きく開けてもらい、舌を思い切り前に突き出してもらいます。その際、医師はペンライトなどを用いて喉の奥を観察し、奥の構造がどの程度見えるかによって以下の4つのクラス(段階)に分類します。

 

クラス1:軟口蓋(上あごの奥の柔らかい部分)、口蓋垂(のどちんこ)、口蓋扁桃(扁桃腺)、およびその周囲のヒダ(口蓋弓)がすべてはっきりと見える状態。

クラス2:軟口蓋と口蓋垂は見えるが、口蓋垂の先や口蓋扁桃の下部が舌の付け根に隠れて見えなくなっている状態。

クラス3:軟口蓋と、口蓋垂の根元部分だけが辛うじて見える状態。

クラス4:軟口蓋がまったく見えず、硬口蓋(上あごの手前の骨がある硬い部分)しか見えない状態。

 

このクラスの数字が大きくなる(クラス3や4に該当する)ほど、「舌の付け根のボリュームが大きく、喉の奥の空間(中咽頭)が物理的に狭くなっている」ことを意味します。この解剖学的な「喉の奥の窮屈さ」が、睡眠中の気道閉塞リスクと直結しています。

 

 

マランパチ分類と睡眠時無呼吸症候群の関連性

では、なぜ起きているときの喉の見え方が、睡眠中の呼吸状態を正確に反映するのでしょうか。

1.気道閉塞のメカニズムと解剖学的背景

人間は睡眠状態に入ると、全身の筋肉がリラックス(弛緩)します。喉の周りや舌の筋肉も同様に緩むため、仰向けで寝ていると重力によって舌の根元(舌根)が喉の奥へと落ち込みます。マランパチ分類がクラス3や4の人は、起きている状態で既に喉の奥の空間に余裕がありません。そのため、睡眠中にわずかでも舌が落ち込むと、たちまち空気の通り道が完全に遮断されて無呼吸を引き起こしてしまうのです。特に肥満傾向にある人は、舌そのものや首周りへの脂肪沈着が多くなるため、気道の空間がさらに圧迫されてしまいます。

2.スコアの上昇が示すリスクの増大

2006年にアメリカの研究者であるナックトン(Nuckton)らが権威ある医学誌で発表した研究によって、マランパチ分類と睡眠時無呼吸症候群の関係が明確な数値として実証されました。137人の患者を対象に行われた精密な睡眠検査(ポリソムノグラフィ)の結果、マランパチ分類のクラスが1段階上昇するごとに、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断される確率が約2.5倍に跳ね上がることが判明しました。

さらに、病気の重症度を表す指標である「無呼吸低呼吸指数(AHI:1時間あたりの呼吸停止や低下の回数)」も、クラスが1つ上がるごとに1時間あたり5回以上増加することが示されました。特筆すべきは、この結果が患者の体重(BMI)、首周りの太さ、年齢、性別といった「他の危険因子」の影響を除外しても成り立つ「独立した強力な予測因子」であったことです。

3.世界的なメタ解析による確かな裏付け

2013年にはフリードマン(Friedman)らが、過去に行われた複数の研究データを統合して客観的に再評価する「メタ解析」を実施しました。計2513人の患者データを分析した結果、マランパチ分類は睡眠時無呼吸症候群の重症度と統計的に有意な相関があることが再確認されました。また、舌を突き出さずに自然な状態で口を開けて喉を観察する「フリードマン舌位置(修正マランパチ分類)」という派生的な評価法においても、同様に病気の重症度を正確に予測できることが証明されています。

 

小児におけるマランパチ分類の有用性

大人の睡眠時無呼吸症候群は、主に肥満による脂肪沈着や加齢による筋肉の衰えが原因となりますが、子どもの場合は事情が異なります。小児の無呼吸の最大の原因は「口蓋扁桃(扁桃腺)やアデノイドの肥大」です。

小児科医のクマール(Kumar)らが2014年に発表した研究では、子どもに対してもマランパチ分類が有効であるかが検証されました。その結果、小児においてもマランパチスコアおよび扁桃腺のサイズは、睡眠時無呼吸症候群の存在と重症度を予測するための独立した指標として機能することが実証されました。子どもに多数のセンサーを装着する本格的な睡眠検査を行うのは非常にハードルが高いため、口の中を観察するだけで済むマランパチ分類は、検査や治療の優先順位を判断するための負担の少ない優れたスクリーニングツールとして小児医療でも活躍しています。

 

他の指標との組み合わせによる診断の最適化

マランパチ分類単独でもリスクの予測能力は高いですが、現実の臨床現場では、より正確に患者を絞り込むために他の指標と組み合わせて総合的な評価が行われています。

BMI(体格指数):肥満度が高いほど、首や舌への脂肪沈着による物理的な圧迫が強くなります。

首やウエストの周囲径:男性で43cm以上、女性で40cm以上あるとリスクが大きく高まります。

顎の骨格:下あごが小さい、あるいは後ろに下がっている(小顎症)場合、舌の収まる空間が狭いため気道が塞がりやすくなります。

STOP-BANG問診票:いびき(Snoring)、疲労感(Tired)、無呼吸の目撃(Observed)、血圧(Pressure)などの頭文字をとった世界標準の問診票。

これらの身体的特徴や問診結果とマランパチ分類(特にクラス3および4)を組み合わせることで、「誰が優先的に精密検査を受けるべきか」を高い精度で見極めることができます。

 

まとめ

マランパチ分類の最大のメリットは、「レントゲンやCTなどの特殊な検査機器を一切使わず、たった数秒で気道の状態を視覚的に評価できる」という点にあります。

もし、ご家族から「ひどいいびきをかいている」「寝ている間に呼吸が止まっている」と指摘されたことがある方や、日中に十分寝たはずなのに我慢できないほどの強い眠気を感じる方は、ご自宅の洗面所の鏡の前で口を大きく開け、舌を思い切り前に突き出してみてください。

もし、のどちんこや喉の奥の空間が舌のふくらみに隠れてまったく見えず、上あごの天井部分しか見えない状態(マランパチ分類のクラス3や4に相当)であれば、もともとの気道の構造が狭くなっている強力な証拠です。この外見的な特徴に加えて睡眠に関する不調がある場合は、なるべく早く睡眠専門の医療機関を受診し、適切な睡眠時無呼吸症候群の検査を受けることをお勧めします。

睡眠時無呼吸症候群は、早期に発見してCPAP療法やマウスピース、適切な減量などの治療を行えば、健康な人と変わらない生活を送ることができる病気です。鏡を使った簡単なセルフチェックが、ご自身の健康と命を守る大切な第一歩となるでしょう。

 

【参考文献】

  1. Physical Examination: Mallampati Score as an Independent Predictor of Obstructive Sleep Apnea, Nuckton TJ, et al. Sleep. 2006 Jul;29(7):903-8. DOI: 10.1093/sleep/29.7.903
    要約: 睡眠時無呼吸症候群が疑われる成人患者において、マランパチスコアが独立した予測因子であることを証明した画期的な研究論文です。年齢、性別、BMI、首周りの太さなど他の30以上の危険因子の影響を除外しても、スコアが1段階上がるごとに無呼吸のリスクが約2.5倍、無呼吸回数が1時間あたり約5回増加することが示されています。
  2. Diagnostic Value of the Friedman Tongue Position and Mallampati Classification for Obstructive Sleep Apnea: A Meta-analysis, Friedman M, et al. Otolaryngology-Head and Neck Surgery. 2013 Apr;148(4):540-7. DOI: 10.1177/0194599812473413
    要約: マランパチ分類および派生手法であるフリードマン舌位置と、睡眠時無呼吸症候群の重症度との関連性を調査した、過去10件の研究(計2513名)に基づくメタ解析論文です。両方の視覚的指標が疾患の重症度予測において統計的に有意な相関を持つことを結論づけており、高価な医療機器を用いない身体的評価の有効性を世界的に裏付けました。
  3. Mallampati Score and Pediatric Obstructive Sleep Apnea, Kumar HVM, et al. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2014 Sep;10(9):985-90. DOI: 10.5664/jcsm.4032
    要約: 成人だけでなく小児においてもマランパチ分類が有効であるかを検証した研究論文です。睡眠検査を受けた3歳から18歳未満の小児を対象に調査した結果、マランパチスコアの高さと扁桃腺のサイズが、小児における睡眠時無呼吸症候群の存在および重症度を正確に予測するための独立した指標として機能することを実証しました。
  4. Utility of the modified Mallampati grade and Friedman tongue position in the assessment of obstructive sleep apnea, Yu JL, et al. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2020 Feb;16(2):303-8. DOI: 10.5664/jcsm.8188
    要約: 修正マランパチ分類やフリードマン舌位置といった気道の視覚的評価法が、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングにおいてどのように役立つかを包括的にレビューした文献です。視覚的評価を単独で用いるだけでなく、STOP-BANG問診票などの他の一般的なリスク評価ツールと組み合わせることで、診断の特異度と精度が大幅に向上する仕組みを解説しています。

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