2026年6月14日

ケトン食とは何か
ケトン食は、ご飯やパンといった糖質(炭水化物)を極限まで減らし、代わりに良質な脂質を多く摂る食事療法です。もともとはてんかんの治療に使われてきましたが、近年はがん治療の補助として研究が進んでいます。
なぜがんに効くと考えられているのか
この発想の根拠は、「ワールブルグ効果」と呼ばれるがん細胞特有の性質にあります。
正常な細胞は糖質が不足すると、脂肪から作られる「ケトン体」を代わりのエネルギー源として使えます。一方、多くのがん細胞はケトン体をうまく利用できず、エネルギーのほとんどをブドウ糖(糖質)に頼っています。
つまりケトン食は、糖質を断ってがん細胞を兵糧攻めにしながら、正常な細胞にはケトン体という代替エネルギーを供給するという戦略です。
現在わかっていること
ケトン食は「がんを完全に治す食事」ではなく、あくまでも抗がん剤や放射線治療などを補う補助療法と位置づけられています。
代謝と生活の質への効果は、ある程度確認されています。複数の臨床試験で、ケトン食によって血糖値やインスリン値が下がりケトン体が増えることが確認されており、最新のメタアナリシス(複数研究の統合分析)では、ケトン食を実践したがん患者で疲労感や不眠が改善し、生活の質が向上したと報告されています。
一方、腫瘍を直接縮小させる証拠は、現時点ではまだ不十分です。ただし、標準治療と組み合わせたときの相乗効果については、有望なデータが出始めています。2025年に発表された膠芽腫(進行の速い脳腫瘍)を対象とした臨床試験では、標準治療とケトン食の併用が安全に実施でき、生存期間にも良好な傾向が見られました。現在、より大規模な試験で有効性の検証が続けられています。
注意しなければならないこと
ケトン食はすべての患者に向くわけではなく、次のようなリスクがあります。
体力低下が進んでいる患者では逆効果になりうることです。がんの進行で体力が落ちている状態で極端な糖質制限を行うと、深刻な栄養不良を招き、治療の妨げになる危険があります。
また、がんの種類によっては脂質ががん細胞の増殖を助けてしまう可能性も一部のケースで指摘されています。
そして最も重要な点として、ケトン食は標準治療の代わりになりません。導入する場合は、必ず主治医や管理栄養士の指導のもとで行ってください。
まとめ
ケトン食は、がん細胞の代謝上の弱点を突く理にかなったアプローチです。疲労感の軽減や代謝改善を通じて、標準治療の効果を高める可能性はあります。ただし単独での抗腫瘍効果はまだ証明されておらず、あくまで標準治療を補う選択肢の一つです。検討する際は、自分の病状や治療方針をふまえて、専門の医療チームとよく相談することが何より大切です。
参考文献
1.Römer M, et al. The use of ketogenic diets in cancer patients: a systematic review. Clin Exp Med. 2021 Nov;21(4):501–536. DOI: 10.1007/s10238-021-00710-2
要約:がん患者へのケトン食の有効性・安全性を評価したシステマティックレビュー。代謝指標の改善は一部で確認されたが、腫瘍縮小の決定的証拠は不足しており、標準治療の代替にはならないと結論付けている。
2.Zhang M, et al. Impact of ketogenic diets on cancer patient outcomes: a systematic review and meta-analysis. Front Nutr. 2025 Jul 18;12:1535921. DOI: 10.3389/fnut.2025.1535921
要約:ケトン食と通常食を比較した最新のメタアナリシス。血糖値・インスリンの低下や疲労・不眠の改善が示され、生活の質向上への寄与が支持されている。
3.Amaral LJ, et al. A phase 1 safety and feasibility trial of a ketogenic diet plus standard of care for patients with recently diagnosed glioblastoma. Sci Rep. 2025 Jul 1;15(1):21064. DOI: 10.1038/s41598-025-06675-6
要約:膠芽腫患者を対象に、化学放射線療法とケトン食の併用を評価した第1相試験。重篤な有害事象はなく安全性が示され、生存期間にも良好な傾向が見られた。
当院では、ケトン食に精通した管理栄養士が栄養指導を行っています。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
有光潤介