2026年8月15日

「副腎疲労」は医学的に認められていない?休んでも疲れが取れない本当の原因と対処法
「なんとなく朝がつらい」「休んでも疲れが取れない」。そんなとき、インターネットで検索すると「副腎疲労かもしれません」という言葉に行き着くことがあります。副腎が疲れてホルモンが出なくなっている、だからサプリメントで副腎をサポートしましょう、という説明です。
わかりやすい話です。実際、症状に心当たりのある方は多いでしょう。ただ、この「副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)」という概念は、内分泌学の世界では今も認められていません。今日はその理由と、では本当は何を疑うべきなのかを整理してみます。
そもそも副腎とは何をする臓器か
副腎は左右の腎臓の上にちょこんと乗った、三角形の小さな臓器です。ここからコルチゾールというホルモンが分泌されています。
コルチゾールは血糖や血圧を保ち、炎症を抑え、ストレスに体を対応させる働きを持ちます。分泌量は脳の視床下部と下垂体からの指令で細かく調整されていて、この一連の流れを視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)と呼びます。朝に高く、夜に低いという日内リズムがあるのも特徴です。
「副腎疲労」説は、慢性的なストレスでこのHPA軸が酷使され、副腎が疲弊してコルチゾールを出せなくなる、と説明します。理屈としては筋が通っているように聞こえます。
系統的レビューが出した結論
2016年、ブラジルの内分泌グループが、この概念を検証する系統的レビューを発表しました。データベースを網羅的に検索し、条件を満たした58件の研究をすべて評価したものです。
結果は明快でした。「副腎疲労」を裏づける根拠は見つからなかった、というものです。研究ごとに手法がばらばらで、疲労の評価も雑、そしてコルチゾール測定の方法自体が内分泌学の世界で妥当性を認められていないものが多かった。論文の結論はストレートで、副腎疲労は依然として神話である、と述べています。
では、いわゆる燃え尽き症候群(バーンアウト)ではどうでしょうか。臨床的にバーンアウトと診断され、多くが休職中だった74人と、健康な35人を比較した研究があります。起床後のコルチゾール反応、一日を通した変動曲線、低用量デキサメタゾン抑制試験、いずれも両群で差がありませんでした。強いストレスで消耗した人でも、副腎の機能そのものは保たれていたということです。
本物の「副腎の病気」は存在する
ここは誤解のないようにしたいところです。副腎の機能が本当に低下する病気は、確かにあります。副腎不全(アジソン病など)です。
ただし症状の出方が違います。意図しない体重減少、食欲低下、立ちくらみを伴う低血圧、強い倦怠感、筋肉痛や腹痛、そして血液検査での低ナトリウム血症。原発性であれば皮膚が黒ずみ、塩辛いものを異常に欲しがることもあります。頻度としてはまれな病気ですが、初期症状が漠然としているため診断が遅れやすく、放置すると副腎クリーゼという命に関わる状態に至ります。
診断は唾液の日内変動を見るのではなく、早朝の血中コルチゾールとACTHを測り、必要に応じてACTH負荷試験を行います。米国内分泌学会のガイドラインは、この負荷試験を診断の基準としています。
もうひとつ、実臨床でずっと多いのがステロイド薬による副腎機能の抑制です。世界人口の少なくとも1%が長期にステロイドを使っているとされ、用量、期間、薬剤の強さ、投与経路、そして個人差によってHPA軸が抑えられます。2024年に欧州内分泌学会と米国内分泌学会が合同でガイドラインを出しました。ステロイドを自己判断で急に中止してはいけない理由が、まさにここにあります。
「副腎サポート」サプリの実態
メイヨー・クリニックのグループが、市販の副腎サポート系サプリメント12製品を購入し、成分を測定した研究があります。
結果は、全製品から少量の甲状腺ホルモンが検出され、大半から1種類以上のステロイドホルモンが検出されたというものでした。ラベルに書かれていない成分です。甲状腺ホルモンを知らずに摂れば動悸や不整脈、骨密度低下につながりますし、ステロイドを含むものを長く飲めば、皮肉なことに本当に副腎機能が抑制されかねません。
疲労を治すつもりのサプリで、疲労の原因を作ってしまう。これは避けたい展開です。
では、その疲れの正体は
「副腎疲労がない」ことと「あなたの疲れが気のせい」であることは、まったく別の話です。ここが一番お伝えしたい部分です。
慢性的な疲労の背後には、見つけられる原因が隠れていることがよくあります。
これらは血液検査や睡眠検査で確かめられます。「副腎疲労」という枠に当てはめてしまうと、こうした治せる原因を通り過ぎてしまうことが、いちばんもったいない。
・睡眠時無呼吸症候群 いびきや日中の眠気だけでなく、倦怠感として現れます。CPAP治療を3週間行った無作為化比較試験では、疲労スコアが有意に改善し、臨床的に問題となる水準を下回りました。
・鉄欠乏 貧血がなくてもフェリチンが低いだけで疲労が出ます。原因不明の疲労を訴える月経のある女性198人を対象とした試験では、12週間の鉄剤投与で疲労がベースラインから約半減し、プラセボと比べても有意差がつきました。
・甲状腺機能低下症、糖尿病、貧血、慢性腎臓病、肝疾患。
・うつ病、不安障害、そして単純な睡眠不足
受診を考えていただきたいサイン
休んでも回復しない疲労が数週間以上続くとき。体重が意図せず減っているとき。立ち上がるとふらつくとき。いびきを指摘されている、あるいは日中に耐えがたい眠気があるとき。すでにステロイドを長期に使っていて、減量や中止を考えているとき。
こうした場合は、自己判断でサプリメントを試す前に、一度きちんと調べることをおすすめします。当院では血液検査に加え、睡眠時無呼吸の検査にも対応しています。
疲れには理由があります。その理由を、根拠のある方法で探しにいきましょう。
参考文献
1.Adrenal fatigue does not exist: a systematic review, Cadegiani FA, Kater CE. BMC Endocr Disord. 2016 Aug 24;16(1):48. DOI: https://doi.org/10.1186/s12902-016-0128-4 要約: 58研究を対象とした系統的レビュー。副腎疲労を支持する科学的根拠はなく、用いられたコルチゾール測定法も妥当性を欠くと結論。副腎疲労は神話であると明示した中核文献。
2.Diagnosis and Treatment of Primary Adrenal Insufficiency: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline, Bornstein SR, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016 Feb;101(2):364-389. DOI: https://doi.org/10.1210/jc.2015-1710 要約: 米国内分泌学会による原発性副腎不全の診療ガイドライン。ACTH負荷試験を診断の基準と位置づけ、疑い例では早期に検査を行うことを推奨している。
3.Adrenal insufficiency, Husebye ES, Pearce SH, Krone NP, Kämpe O. Lancet. 2021 Feb 13;397(10274):613-629. DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00136-7 要約: 副腎不全の総説。体重減少、起立性低血圧、強い倦怠感、低ナトリウム血症、色素沈着が特徴で、初期症状が非特異的なため診断が遅れやすいと指摘。
4.European Society of Endocrinology and Endocrine Society Joint Clinical Guideline: Diagnosis and therapy of glucocorticoid-induced adrenal insufficiency, Beuschlein F, et al. Eur J Endocrinol. 2024 May 2;190(5):G25-G51. DOI: https://doi.org/10.1093/ejendo/lvae029 要約: ステロイド薬による副腎機能抑制に関する欧米合同ガイドライン。人口の1%以上が長期使用者であり、用量・期間・投与経路でリスクが変わることを示す。
5.Over-the-Counter “Adrenal Support” Supplements Contain Thyroid and Steroid-Based Adrenal Hormones, Akturk HK, Chindris AM, Hines JM, Singh RJ, Bernet VJ. Mayo Clin Proc. 2018 Mar;93(3):284-290. DOI: https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2017.10.019 要約: 市販の副腎サポートサプリ12製品を分析。全製品から甲状腺ホルモン、大半からステロイドホルモンを検出し、表示外成分による健康被害リスクを警告。
6.Clinical burnout is not reflected in the cortisol awakening response, the day-curve or the response to a low-dose dexamethasone suppression test, Mommersteeg PM, Heijnen CJ, Verbraak MJ, van Doornen LJ. Psychoneuroendocrinology. 2006 Feb;31(2):216-225. DOI: https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2005.07.003 要約: 臨床的バーンアウト74例と健常者35例を比較。起床後コルチゾール反応、日内曲線、デキサメタゾン抑制試験のいずれにも差はなく、HPA軸の破綻を認めなかった。
7.Effects of continuous positive airway pressure on fatigue and sleepiness in patients with obstructive sleep apnea: data from a randomized controlled trial, Tomfohr LM, Ancoli-Israel S, Loredo JS, Dimsdale JE. Sleep. 2011 Jan 1;34(1):121-126. DOI: https://doi.org/10.1093/sleep/34.1.121 要約: 睡眠時無呼吸59例の無作為化比較試験。3週間のCPAP治療で疲労スコアが有意に改善し、臨床的に問題となる疲労レベルを下回った。
8.Effect of iron supplementation on fatigue in nonanemic menstruating women with low ferritin: a randomized controlled trial, Vaucher P, Druais PL, Waldvogel S, Favrat B. CMAJ. 2012 Aug 7;184(11):1247-1254. DOI: https://doi.org/10.1503/cmaj.110950 要約: 原因不明の疲労を訴える非貧血女性198例の無作為化比較試験。12週間の鉄剤投与で疲労が約半減し、プラセボ比19%の有意な改善を認めた。