2026年8月14日

夜勤があっても眠れる体をつくる ― エビデンスに基づく交替制勤務の睡眠ガイド
夜勤明けに布団に入っても2時間で目が覚めてしまう。休みの日に寝だめしても疲れが抜けない。交替制勤務をしている方から、こうした相談をよく受けます。
厚生労働省の労働安全衛生調査によると、日本で交替制勤務に就いている労働者はおよそ2割。決して特殊な働き方ではありません。にもかかわらず、睡眠のアドバイスの多くは「毎晩11時に寝ましょう」といった日勤前提のものばかりで、あまり役に立たないのが実情です。
ここでは、研究で裏づけのある対策だけを整理してお伝えします。
なぜ夜勤だと眠れないのか
体の中には約24時間周期の時計があります。この体内時計は、夜になると眠くなるようにメラトニンを出し、深部体温を下げ、朝が近づくと逆の準備を始めます。厄介なのは、この時計が「働く時間が変わったから」といって簡単に切り替わってくれない点です。
夜勤中は、体が眠る準備をしている時間帯に無理やり起きている状態になります。逆に日中に寝ようとすると、体は覚醒モードのまま。だから寝つけないし、寝ても浅い。交替制勤務による健康影響を包括的にまとめた総説でも、この体内時計と生活リズムのずれ(サーカディアン・ミスアライメント)が中心的な問題として位置づけられています。
意志の力の問題ではありません。生理現象です。
放っておくとどうなるか
夜勤や交替勤務をしている人の約10%は、単なる寝不足では説明できないレベルの不眠や強い眠気を抱えており、これは「交代勤務障害」と呼ばれる睡眠障害にあたります。この状態にある人では胃潰瘍のリスクが約4倍に上がり、居眠りによる事故や欠勤も増えることが報告されています。
長期的な影響もあります。看護師約19万人を24年間追跡した研究では、交替制の夜勤を10年以上続けた群で冠動脈疾患のリスクが15〜18%高くなっていました。糖尿病についても、観察研究を統合したメタ解析で交替勤務者のリスク上昇が示されています。
脅かすつもりはありません。ただ、「若いから大丈夫」で済ませるにはやや根拠が積み上がりすぎている、という話です。裏を返せば、睡眠を工夫する価値がそれだけ大きいということでもあります。
光をコントロールする
体内時計を動かす一番強い刺激は光です。ここを味方につけます。
夜勤が週1〜2回程度なら、体内時計は日勤型に保ったままのほうが得策です。この場合は夜勤中に強い光をなるべく浴びず、夜勤明けの朝はサングラスをかけて帰宅します。帰宅後は寝すぎず、夕方から通常の夜の時間帯に本格的に眠る。こうすると、リズムを大きく崩さずに済みます。
一方、夜勤が連続する場合は方針が逆になります。夜勤の前半に明るい光を積極的に浴びて体内時計を後ろにずらし、帰宅時は光を避ける。寝室は遮光カーテンで徹底的に暗くします。
どちらの方針をとるにせよ、中途半端が一番よくありません。自分のシフトパターンを見て、どちらに寄せるかを決めてください。

仮眠は「長め・遅め」が効く
夜勤中の仮眠は、眠気と作業ミスを減らす手段として最も確実性の高い方法のひとつです。夜勤中に計画的な仮眠をとった研究をまとめたレビューでも、眠気の軽減と作業成績の改善が一貫して報告されています。
長さについては、日本人を対象にした実験が参考になります。模擬夜勤(22時〜8時)で仮眠の長さと時刻を変えて比較したところ、120分の仮眠は60分より早朝の作業成績をよく保っていました。また、夜勤の後半(4時台)にとった仮眠のほうが、睡眠効率そのものは高くなっていました。
実務的には、可能なら1〜2時間、部屋を暗くして横になる。難しければ20〜30分でも意味はあります。イタリアの警察官を対象にした調査では、夜間勤務前に仮眠をとる習慣のある人で交通事故が少ないという結果も出ています。
ひとつ注意点。仮眠から起きた直後は頭がぼんやりする「睡眠慣性」が出ます。すぐに判断業務に入らず、10〜15分の余裕をとってください。明るい光を浴びるのも有効です。
カフェインは「量」より「時刻」
眠気覚ましにコーヒーを飲むこと自体は問題ありません。ただし飲むタイミングを間違えると、勤務後の睡眠を自分で壊すことになります。
カフェインと睡眠に関する系統的レビューでは、就寝に近い時間の摂取が睡眠の質を下げ、中途覚醒を増やし、総睡眠時間を短くすることが示されています。カフェインの影響は数時間残るため、就寝予定の8〜10時間前までにとどめるのが安全です。朝9時に寝るなら、23時〜深夜1時ごろまでということになります。
量の目安は1日400mg未満。コーヒーならマグカップ3杯程度です。エナジードリンクや緑茶にも含まれるので、合計で考えてください。

シフトの組み方でも変わる
これは個人で決められないことも多いのですが、知っておく価値はあります。
シフトの回り方には、日勤→準夜勤→夜勤と後ろにずれていく「正循環」と、その逆の「逆循環」があります。電子部品工場の労働者を対象にした調査では、逆循環のシフトで働く人は正循環の人に比べ、睡眠の質が悪い割合が約2倍でした。人間の体内時計は前倒しより後ろ倒しのほうが適応しやすいためです。
米国睡眠医学会と睡眠研究学会は、勤務時間の長さを一律の上限で決めるのではなく、業務内容や時間帯、疲労対策の有無を含めて職場ごとに設計すべきだという指針を出しています。仮眠室の整備やシフト間隔の確保は、個人の努力ではなく職場の設計課題です。
薬に頼る前に知っておきたいこと
「メラトニンのサプリが効くと聞いた」という質問もよく受けます。交替勤務の眠気・不眠に対する薬物療法を検討したコクランレビューでは、メラトニンは勤務後の睡眠時間をわずかに延ばす可能性があるものの、エビデンスの質は低いと評価されています。睡眠薬についても十分な根拠がありません。
まずは光・仮眠・カフェインの調整。それでも改善しない場合に、医療機関で相談する。この順番をおすすめします。
こんなときは受診を
最後の項目は特に重要です。睡眠時無呼吸が隠れていると、どれだけ睡眠時間を確保しても回復しません。交替制勤務の不調として片づけられているケースが少なくないので、心当たりがあれば一度検査を受けてください。
まとめ
交替制勤務そのものをやめられる人は多くありません。でも、光の浴び方、仮眠のとり方、カフェインの時刻を整えるだけで、体への負担はかなり変わります。全部を完璧にやる必要はないので、今週できそうなものをひとつだけ選んでみてください。
参考文献
1.Disturbance of the Circadian System in Shift Work and Its Health Impact, Boivin DB, Boudreau P, Kosmadopoulos A. J Biol Rhythms. 2022 Feb;37(1):3-28. DOI: 10.1177/07487304211064218 要約: 交替制勤務が体内時計に及ぼす影響を包括的に整理した総説。勤務スケジュールと内因性リズムのずれが睡眠障害・代謝異常・心血管疾患の基盤にあることを示す。
2.Shift work and the assessment and management of shift work disorder (SWD), Wright KP Jr, Bogan RK, Wyatt JK. Sleep Med Rev. 2013 Feb;17(1):41-54. DOI: 10.1016/j.smrv.2012.02.002 要約: 交代勤務障害の評価と管理を扱った総説。光療法、計画的仮眠、カフェイン、薬物療法の位置づけを臨床的に整理した実践的文献。
3.Shift work sleep disorder: prevalence and consequences beyond that of symptomatic day workers, Drake CL, Roehrs T, Richardson G, Walsh JK, Roth T. Sleep. 2004 Dec 15;27(8):1453-62. DOI: 10.1093/sleep/27.8.1453 要約: 地域住民2,570人の調査。夜勤・交替勤務者の約10%が交代勤務障害に該当し、胃潰瘍のオッズ比4.18、事故・欠勤・抑うつの増加を認めた。
4.Impact of nap length, nap timing and sleep quality on sustaining early morning performance, Kubo T, Takeyama H, Matsumoto S, et al. Ind Health. 2007 Aug;45(4):552-63. DOI: 10.2486/indhealth.45.552 要約: 日本人12名の模擬夜勤実験。120分仮眠は60分仮眠より早朝の作業成績を良好に保ち、夜勤後半の仮眠は睡眠効率が高いことを示した。
5.Effects of napping on sleepiness and sleep-related performance deficits in night-shift workers: a systematic review, Ruggiero JS, Redeker NS. Biol Res Nurs. 2014 Apr;16(2):134-42. DOI: 10.1177/1099800413476571 要約: 夜勤中の計画的仮眠に関する系統的レビュー。仮眠は眠気と作業成績の低下を改善する一方、覚醒直後の睡眠慣性に配慮が必要と結論づけた。
6.Professional shift-work drivers who adopt prophylactic naps can reduce the risk of car accidents during night work, Garbarino S, Mascialino B, Penco MA, et al. Sleep. 2004 Nov 1;27(7):1295-302. DOI: 10.1093/sleep/27.7.1295 要約: イタリアの交替勤務警察官1,195人の解析。勤務前に予防的仮眠をとる習慣のある者で夜間の交通事故が有意に少なかった。
7.Coffee, caffeine, and sleep: A systematic review of epidemiological studies and randomized controlled trials, Clark I, Landolt HP. Sleep Med Rev. 2017 Feb;31:70-78. DOI: 10.1016/j.smrv.2016.01.006 要約: カフェインと睡眠に関する系統的レビュー。就寝前のカフェイン摂取が入眠を遅らせ、総睡眠時間と睡眠の質を低下させることを示した。
8.Comparison of sleep quality based on direction of shift rotation in electronics workers, Shon Y, Ryu S, Suh BS, et al. Ann Occup Environ Med. 2016;28:37. DOI: 10.1186/s40557-016-0122-3 要約: 電子部品工場労働者の調査。逆循環シフトは正循環シフトに比べ睡眠の質不良のオッズ比が1.95と高く、正循環シフトの優位性を支持した。
9.Guiding principles for determining work shift duration and addressing the effects of work shift duration on performance, safety, and health, Gurubhagavatula I, Barger LK, Barnes CM, et al. J Clin Sleep Med. 2021 Nov 1;17(11):2283-2306. DOI: 10.5664/jcsm.9512 要約: 米国睡眠医学会と睡眠研究学会による勤務時間設計の指針。一律の上限ではなく業務内容・時間帯・疲労対策を踏まえた個別設計を推奨する。
10.Pharmacological interventions for sleepiness and sleep disturbances caused by shift work, Liira J, Verbeek JH, Costa G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Aug 12;(8):CD009776. DOI: 10.1002/14651858.CD009776.pub2 要約: 交替勤務に伴う眠気・不眠への薬物療法のコクランレビュー。メラトニンは睡眠時間をわずかに延ばす可能性があるがエビデンスの質は低いと評価。
11.Association Between Rotating Night Shift Work and Risk of Coronary Heart Disease Among Women, Vetter C, Devore EE, Wegrzyn LR, et al. JAMA. 2016 Apr 26;315(16):1726-34. DOI: 10.1001/jama.2016.4454 要約: 看護師189,158人を最長24年追跡した前向きコホート研究。交替制夜勤の従事期間が長いほど冠動脈疾患リスクが有意に上昇した。
12.Shift work and diabetes mellitus: a meta-analysis of observational studies, Gan Y, Yang C, Tong X, et al. Occup Environ Med. 2015 Jan;72(1):72-8. DOI: 10.1136/oemed-2014-102150 要約: 観察研究を統合したメタ解析。交替勤務者では糖尿病リスクが有意に上昇し、特に男性および回転シフト従事者で関連が強いことを示した。
13.健康づくりのための睡眠ガイド2023, 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会. 2024年2月. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html 要約: 日本の公的睡眠指針。交替制勤務者に向けた項目を新設し、光の活用、夜勤中の仮眠、カフェイン摂取のタイミングについて具体的な推奨を示した。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介