2026年8月25日

テレビやスマホの「つけっぱなし睡眠」が睡眠の質を下げる理由と、今日からできる段階的な改善法
「音がないと逆に眠れないんです」「動画を流しながらじゃないと寝つけなくて」。診察室でよく聞く言葉です。決して珍しい癖ではありません。むしろ、今の日本ではかなり多数派に近い習慣だと思います。
結論から申し上げます。眠りにつくまでの短い時間に使うだけなら、それほど神経質になる必要はありません。ただし、つけっぱなしのまま朝まで、というのはおすすめできません。理由は光と音、そして「条件づけ」の三つです。順番に説明していきます。
そもそも、なぜ「ないと眠れない」のか
静かな暗闇に横たわると、頭のなかで今日の失敗や明日の予定が勝手に再生され始める。この不快さから逃げるために、テレビの音や動画の刺激で頭を埋めているケースが非常に多いのです。
つまり多くの場合、テレビやスマホは「眠るための道具」ではなく「考えごとから逃げるための道具」として機能しています。ここが大事なポイントで、後の対策にも関わってきます。
光の話。思っているより、目は敏感です
夜の光は、眠りを促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑えます。しかもかなり弱い光でも起こります。室内灯程度、200ルクス未満の明るさで過ごすだけでもメラトニンの立ち上がりが遅れ、夜の「暗さ」を体が感じる時間が短くなることが実験で確かめられています。
画面そのものについても研究があります。寝る前に発光型の電子書籍端末を読んだ人は、紙の本を読んだ人と比べて寝つくまでの時間が延び、体内時計が後ろにずれ、メラトニンが抑えられ、レム睡眠が減って、翌朝の目覚めまで悪くなりました。
ここで正直にお伝えしておきたいことがあります。この分野、実は専門家のあいだでも意見が完全に一致しているわけではありません。2024年に米国睡眠財団が16名の専門家を集めてまとめた合意文書では、子どもと思春期については「画面の使用が睡眠を損なう」という結論に達したものの、大人については、光についても内容についても合意に至りませんでした。
大人の脳は成熟していて、SNSの同調圧力にも振り回されにくい。だから影響が出にくいのではないか、という説明がなされています。ですから「スマホを見た夜は必ず眠りが浅くなる」と断言するのは、少し言い過ぎです。
とはいえ、大人を対象にした調査でも、消灯後の携帯電話の使用は、寝つきの悪さ、睡眠効率の低下、日中の不調、疲労感の強さと関連していました。光の直接作用というより、「つい見続けて寝る時間が遅くなる」という単純な理由が大きそうです。
問題は、つけっぱなしで朝まで寝てしまうこと
ここからが本題です。眠るまでの30分見るのと、点けたまま朝を迎えるのは、体への意味がまったく違います。
健康な成人を対象にした実験で、100ルクス程度の明るさのなかで一晩眠っただけで、睡眠中の心拍数が上がり、心拍変動が低下し、翌朝のインスリン抵抗性が高まりました。3ルクス未満のほぼ真っ暗な部屋で眠った場合との比較です。たった一晩でこれです。
長期の観察研究もあります。米国の女性43,722人を追跡した研究では、寝室に明かりやテレビをつけたまま眠る習慣と、肥満の頻度および体重増加リスクとの関連が示されました。小さな豆電球程度では体重増加との関連が見られなかったのに対し、明かりやテレビをつけて眠っていた人では、追跡期間中に5キロ以上体重が増えた人の割合が17パーセント高くなっていました。
気分への影響も報告されています。奈良県の高齢者を対象にした縦断研究では、寝室の光の強さを実際に測定したうえで、夜間の光曝露と抑うつ症状の新規発症との関連が示されています。
音についても、期待するほど良くはない
「無音より、なにか音があったほうが眠れる」という感覚は理解できます。実際、ホワイトノイズや環境音を睡眠補助として使う人は世界中にいます。
ただ、科学的な裏づけは思ったほど強くありません。38件の研究をまとめた系統的レビューでは、連続的なホワイトノイズが睡眠を改善するという証拠は質が非常に低く、一部の研究ではむしろ睡眠を妨げる結果も示されました。
そしてテレビの音は、ホワイトノイズとは決定的に違います。音量が変わり、笑い声が入り、CMで急に大きくなる。この「変化する音」が曲者です。睡眠中の脳は、音のピークが10デシベル上がるごとに目覚める確率が約1.35倍になることが、睡眠ポリグラフを用いた研究の統合解析で示されています。
厄介なのは、本人が覚えていないことです。脳波の上では何度も浅い眠りに引き上げられているのに、朝には「ぐっすり寝た」と思っている。それでも日中のだるさは残ります。
「ベッド=眠る場所」という結びつきが壊れる
もうひとつ、見落とされがちな問題があります。
ベッドのなかでテレビを見たり動画を追ったりする時間が長くなるほど、脳は「ここは起きて楽しむ場所だ」と学習していきます。睡眠医療ではこれを刺激制御の乱れと呼び、慢性不眠症を長引かせる中心的な要因のひとつと考えられています。
欧州の不眠症診療ガイドラインでは、成人の慢性不眠症に対して、年齢を問わず認知行動療法を第一選択として推奨しています。その中核が、まさにこの「寝床と眠りを結び直す」作業です。
つまり、画面をつけたまま寝る習慣は、短期的には眠りやすくしているようでいて、長期的には自力で眠る力を弱めている可能性がある、ということになります。
じゃあ、どうすればいいか
いきなりゼロにする必要はありません。急にやめると眠れなくなって、余計に不安が強まります。段階的に進めましょう。
まずタイマーを使う。テレビもスマホも、30分後に自動で切れるよう設定してください。これだけで「朝までつけっぱなし」という一番の問題が消えます。
次に、見る場所を寝床の外に移す。リビングのソファで見て、眠くなったら寝室へ移動する。寝室は「暗くて静かで、眠るためだけの場所」に戻していきます。
内容も選んでください。続きが気になるドラマ、SNS、ニュース、ゲームは避ける。ラジオや落語、聞き慣れた番組のように、先が読めて刺激の少ないものに変えるだけでも違います。
画面の明るさは思い切って下げる。夜間モードを使い、顔から離して持つ。
そして本題に戻りますが、静けさが怖くて画面をつけている方は、その静けさの中身に対処したほうが根本的です。寝る前に翌日の予定を紙に書き出しておく、ゆっくりした呼吸を数分続ける、といった方法があります。頭のなかを一度外に出しておくと、消灯後の思考の暴走が起きにくくなります。
こんなときは相談してください
画面を消した途端にまったく眠れない状態が3か月以上続いている場合、単なる習慣ではなく不眠症として治療の対象になります。
また、テレビを消しても大きないびきをかいている、日中の眠気が強い、夜中に何度も目が覚める、朝の頭痛がある。こうした症状があれば、睡眠時無呼吸症候群が背景にある可能性があります。この場合は光や音の対策では改善しません。検査を受けていただくのが近道です。
当院では睡眠時無呼吸の検査から治療まで対応しております。「寝つきが悪い」という漠然としたお悩みでも構いませんので、気になる方はご相談ください。。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介