インフルエンザワクチンの「水銀」は危険?チメロサールの安全性を解説|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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インフルエンザワクチンの「水銀」は危険?チメロサールの安全性を解説

インフルエンザワクチンの「水銀」は危険?チメロサールの安全性を解説|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年8月24日

インフルエンザワクチンの「水銀」は危険?チメロサールの安全性を解説

「インフルエンザワクチンには水銀が入っている」は本当?チメロサールの安全性と正しい知識

毎年秋になると、「インフルエンザワクチンには水銀が入っていると聞いたのですが」というご質問をいただきます。不安になるのは当然のことです。水銀という言葉には、日本人にとって水俣病の記憶がついて回るからです。ただ、この話題は「入っている・入っていない」の二択で語ると必ず誤解が生じます。何が、どれだけ、どういう形で入っているのか。そこまで踏み込んで初めて、判断できる材料がそろいます。

そもそも何のために入っているのか

問題になっている物質はチメロサール、正式にはエチル水銀チオサリチル酸ナトリウムという有機水銀化合物です。1930年代から、ワクチンをはじめとする医薬品の保存剤として使われてきました。

なぜ必要なのか。理由はきわめて実務的です。複数回分が入ったバイアル製剤では、1本の容器に何度も注射針を刺すことになり、そのたびに細菌や真菌が入り込む可能性があります。汚染されたワクチンを接種すれば、重篤な感染症につながりかねません。このため米国では、多回接種用バイアルには保存剤を加えることが規制上求められてきました。つまりチメロサールは「余計な添加物」ではなく、ワクチンを安全に使うための仕組みとして置かれたものです。

エチル水銀とメチル水銀は、別の物質です

議論を長く混乱させてきた原因が、「水銀」というひとくくりの言葉でした。

魚に蓄積し、水俣病の原因となったのはメチル水銀です。一方、チメロサールが体内で分解されて生じるのはエチル水銀。名前は一字違いですが、体内での振る舞いはまったく違います。エチル水銀はメチル水銀よりもはるかに速く分解・排泄され、体内に蓄積しにくい性質を持ちます。

これは推測ではなく、実測されています。アルゼンチンで216人の乳児を対象に行われた薬物動態研究では、血中水銀の半減期は新生児で3.7日、生後2か月で2.0日、生後6か月で2.2日と推定されました。水銀はほぼすべての便検体から検出され、尿からはほとんど検出されませんでした。つまり主に消化管経由で排泄されているということです。成人の経口メチル水銀の半減期がおよそ50日前後であることと比べると、桁が違う速さで体外に出ていきます。

日本のワクチンには、どれくらい入っているのか

数字で見てみましょう。

国内のインフルエンザHAワクチン(バイアル製剤)の添付文書には、1mL中にチメロサール0.005mgと記載されています。成人1回分の0.5mLに換算すると0.0025mg、すなわち2.5マイクログラム。チメロサールは重量の約半分が水銀ですから、水銀としては1.2マイクログラム程度ということになります。

比較の目安を挙げます。魚介類のメチル水銀については、耐容週間摂取量が体重1kgあたり週2.0マイクログラムと設定されており、体重55kg程度の妊婦で週111マイクログラムに相当します。キンメダイ、メカジキ、クロマグロなどは1週間に80g程度までが目安とされています。

ワクチン1回分の水銀量は、この週あたりの許容量のおよそ1パーセント程度です。ただし、繰り返しますが両者は別の物質であり、この比較はあくまで「桁の感覚」をつかむためのものです。エチル水銀のほうが排泄は速いので、実際の体内負荷はさらに小さくなります。

発達障害との関連は、繰り返し検証され否定されてきた

1990年代末以降、チメロサールと自閉症の関連が疑われ、世界中で大規模な検証が行われました。結果は一貫しています。

デンマークの全国コホート研究では、1990年から1996年に生まれた467,450人を対象に、チメロサール含有ワクチンを接種した児と非含有ワクチンを接種した児の自閉症リスクが比較され、差は認められませんでした(相対危険度0.85、95%信頼区間0.60〜1.20)。興味深いのは同国の別の解析で、1992年にチメロサールの使用を中止した後も自閉症の発生率は上昇を続け、中止後に生まれた児でも増加がみられたことです。因果関係があるなら起きないはずの現象でした。

米国CDCのVaccine Safety Datalinkを用いた症例対照研究では、胎児期、生後1か月まで、生後7か月まで、生後20か月までのエチル水銀曝露量とASDの関連が検討され、いずれの期間でもリスク上昇は認められませんでした。

これらを統合したメタ解析では、コホート研究5件(児童1,256,407人)と症例対照研究5件(児童9,920人)を対象に検討が行われ、チメロサール曝露と自閉症の間に関連は認められませんでした(オッズ比1.00、95%信頼区間0.77〜1.31)。

WHOのワクチン安全性諮問委員会も繰り返し検討しており、ワクチンの累積接種によって血中・脳内に到達するエチル水銀濃度は毒性域に達しないことから、神経毒性との関連は生物学的にも成り立ちにくいと結論しています。直近では2025年11月に、2010年から2025年8月までの文献を対象とした系統的レビューが検討され、チメロサールを含むワクチンと自閉症の因果関係を支持する証拠はないという従来の結論が再確認されました。

それなら、なぜ減らす動きがあったのか

ここが誤解されやすい部分です。米国で1999年にチメロサールの削減・除去が決められたのは、危険性が証明されたからではなく、予防的措置としてでした。「安全だと分かっているが、不安が残るなら減らせるところは減らそう」という判断です。

その後、2025年7月には米国の予防接種諮問委員会(ACIP)の勧告が採用され、小児、妊婦、成人のいずれについても、保存剤としてのチメロサールを含まない単回投与製剤のみを用いることとされました。ただし同じ会議で、生後6か月以上のすべての人への年1回のインフルエンザワクチン接種は全会一致で再確認されています。変わったのは容器と保存剤であって、接種すべきかどうかではありません。

実際に起こりうる副反応

チメロサールについて医学的に確認されている影響は、限定的です。添付文書には、チメロサール含有製剤の接種により過敏症(発熱、発疹、蕁麻疹、紅斑、そう痒など)があらわれたとの報告がある旨が記載されています。頻度は高くありませんが、皮膚科領域でチメロサールのパッチテスト陽性を指摘されたことがある方は、接種前に申し出ていただくとよいでしょう。

ワクチンそのものの効果

水銀の話に気を取られて、本来の議論を見失わないことも大切です。

2024/25シーズンの日本の小児を対象とした研究では、不活化ワクチンの接種率は35%で、有効性は入院例で73%、外来例で57%と推定されました。高齢者については、1997年から2000年にかけて老人福祉施設・病院の65歳以上を対象に行われた研究で、発病阻止効果34〜55%、インフルエンザを契機とした死亡阻止効果82%と報告されています。

効果の持続についても目安があります。3週間隔で2回接種した場合、接種1か月後には77%が有効予防水準に達し、3か月後で78.8%、5か月後には50.8%へと低下します。流行期に合わせた接種時期の設計が重要になる理由です。

チメロサールフリーという選択肢

どうしても気になる方には、実際に選択肢があります。プレフィルドシリンジ製剤の一部は保存剤としてのチメロサールを含有しておらず、そのぶんキャップを外した後は速やかに使用する必要があります。単回使用なので、そもそも保存剤を必要としないという設計です。経鼻の弱毒生ワクチンも、対象年齢が合えば選択肢になります。

まとめ

チメロサールは、ワクチンの細菌汚染を防ぐために置かれた保存剤です。含まれる水銀はエチル水銀で、魚に蓄積するメチル水銀とは代謝も排泄も異なり、日本のワクチン1回分に含まれる量は食品由来の許容量と比べて桁違いに少量です。発達障害との関連は百万人規模の研究で繰り返し検証され、いずれも否定されています。

それでも不安が残るなら、チメロサールを含まない製剤を選べばよいだけの話です。避けるべきなのは、水銀への懸念からワクチンそのものを見送り、本来防げたはずの重症化を招いてしまうことだと考えています。

参考文献

1.Mercury levels in newborns and infants after receipt of thimerosal-containing vaccines, Pichichero ME, Gentile A, Giglio N, et al. Pediatrics. 2008 Feb;121(2):e208-14. DOI: 10.1542/peds.2006-3363
要約: 乳児216人を対象にチメロサール含有ワクチン接種後の血中水銀動態を測定。血中半減期は新生児3.7日、2か月児2.0日、6か月児2.2日と短く、主に便中へ排泄され蓄積しないことを実証した基礎的研究。

2.Mercury levels in premature and low birth weight newborn infants after receipt of thimerosal-containing vaccines, Pichichero ME, Gentile A, Giglio N, et al. J Pediatr. 2009 Oct;155(4):495-9. DOI: 10.1016/j.jpeds.2009.04.011
要約: 早産・低出生体重児という最も脆弱な集団でも、筋注エチル水銀の血中半減期は成人の経口メチル水銀より大幅に短いことを示し、メチル水銀基準の流用が不適切であると結論づけた。

3.The toxicology of mercury and its chemical compounds, Clarkson TW, Magos L. Crit Rev Toxicol. 2006 Sep;36(8):609-62. DOI: 10.1080/10408440600845619
要約: 水銀化合物の毒性学を網羅した総説。金属水銀蒸気、メチル水銀、エチル水銀それぞれで吸収・分布・排泄・毒性が根本的に異なることを整理した、この分野の標準的参照文献。

4.Association between thimerosal-containing vaccine and autism, Hviid A, Stellfeld M, Wohlfahrt J, Melbye M. JAMA. 2003 Oct 1;290(13):1763-6. DOI: 10.1001/jama.290.13.1763
要約: デンマーク出生児467,450人の全国コホート。チメロサール含有ワクチン接種群と非含有群で自閉症リスクに差はなく(RR 0.85)、用量依存的な傾向も認められなかった。

5.Thimerosal and the occurrence of autism: negative ecological evidence from Danish population-based data, Madsen KM, Lauritsen MB, Pedersen CB, et al. Pediatrics. 2003 Sep;112(3 Pt 1):604-6. DOI: 10.1542/peds.112.3.604
要約: デンマークが1992年にチメロサールを中止した後も自閉症発生率は上昇を続けた。因果関係があれば説明できない生態学的所見として、関連仮説を強く否定した研究。

6.Prenatal and infant exposure to thimerosal from vaccines and immunoglobulins and risk of autism, Price CS, Thompson WW, Goodson B, et al. Pediatrics. 2010 Oct;126(4):656-64. DOI: 10.1542/peds.2010-0309
要約: 米国VSDを用いた症例対照研究(ASD 256例、対照752例)。胎児期から生後20か月までのいずれの曝露期間でも、エチル水銀量とASDリスクの上昇は認められなかった。

7.Vaccines are not associated with autism: an evidence-based meta-analysis of case-control and cohort studies, Taylor LE, Swerdfeger AL, Eslick GD. Vaccine. 2014 Jun 17;32(29):3623-9. DOI: 10.1016/j.vaccine.2014.04.085
要約: 児童126万人超を含む10研究のメタ解析。チメロサール曝露と自閉症のオッズ比は1.00、水銀曝露でも1.00であり、ワクチン成分と自閉症の関連を明確に否定した。

8.Influenza vaccination in Japanese children, 2024/25: Effectiveness of inactivated vaccine and limited use of newly introduced live-attenuated vaccine, Shinjoh M, Tamura K, Yamaguchi Y, et al. Vaccine. 2025 Aug 13;61:127429. DOI: 10.1016/j.vaccine.2025.127429
要約: 日本の小児を対象としたtest-negative design研究。2024/25シーズンの不活化ワクチン有効性は入院例73%、外来例57%と良好で、国内での接種意義を裏づけた最新データ。

その他の参照資料

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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