スポーツドリンクと経口補水液の違いとは?熱中症を防ぐ使い分け|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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スポーツドリンクと経口補水液の違いとは?熱中症を防ぐ使い分け

スポーツドリンクと経口補水液の違いとは?熱中症を防ぐ使い分け|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年8月23日

スポーツドリンクと経口補水液の違いとは?熱中症を防ぐ使い分け

スポーツドリンクと経口補水液は何が違う?熱中症・脱水を防ぐ正しい使い分け

夏になると、店頭にはスポーツドリンクと経口補水液が並んで置かれています。見た目も味も似ていて、どちらも「水分補給の飲み物」として売られている。それなら安いほうでいいのでは、と思われるかもしれません。

けれども、この二つはそもそも設計思想が違う飲み物です。片方は運動を続けるための飲み物で、もう片方は脱水症という状態を治すための飲み物です。使い分けを知っておくと、夏の体調管理はずいぶん楽になります。

汗で失われるのは水だけではない

汗は、ただの水ではありません。ナトリウムをはじめとする電解質が溶け込んでいます。ですから大量に汗をかいたあと、水だけを飲んで補給すると、体の中の塩分濃度は薄まる方向に動きます。

熱中症の病態は、暑さそのものによる障害と、脱水に大きく分けられます。日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2024では、この脱水の中身について、水分と一緒にナトリウムも失われる「ナトリウム欠乏性脱水」が主な病態であると整理されています。だからこそ、水分だけでなく塩分の補給が必要になるわけです。

経口補水液は「治療のための飲み物」

経口補水液(Oral Rehydration Solution、ORS)は、もともとコレラなど激しい下痢による脱水死を減らすために開発された処方です。その根拠になっているのが、小腸の細胞にあるナトリウム・ブドウ糖共輸送体(SGLT1)という仕組みでした。

この輸送体は、ナトリウムとブドウ糖を一緒に細胞内へ運び込みます。そして水は、その動きに引っ張られるように吸収されていく。重要なのは、感染性腸炎で腸が水を分泌しているような状態でも、この共輸送機構は壊れずに働き続けるという点です。ナトリウムとブドウ糖を適切な比率で溶かした液体を飲ませれば、点滴をしなくても水分を体に入れられる。この発見が、世界中で膨大な数の子どもの命を救いました。

WHOはその後、当初の処方よりもナトリウムとブドウ糖の濃度を下げ、浸透圧を245mOsm/Lまで落とした低浸透圧ORSへと推奨を切り替えています。小児の急性下痢症を対象とした系統的レビューでは、この低浸透圧ORSのほうが従来のWHO処方よりも予定外の点滴が必要になる例が少なく、便量も嘔吐も減っていました。理屈だけでなく、臨床試験の積み重ねで裏づけられた変更だったのです。

日本で広く使われている経口補水液のナトリウム濃度は50mEq/L前後、ブドウ糖は1.8%程度です。塩気を強く感じるのに甘さは控えめ、という独特の味は、この設計から来ています。

スポーツドリンクは「運動を続けるための飲み物」

一方のスポーツドリンクは、運動中のパフォーマンス維持を主眼に作られています。ナトリウムはおおむね10〜25mEq/L程度と経口補水液の半分以下で、そのかわり糖質は4〜6%前後と高めです。この糖質は、筋肉が使うエネルギーを補い、味を飲みやすくする役割を担っています。

米国スポーツ医学会(ACSM)の指針では、運動中に電解質と糖質を含む飲料を摂ることが、状況によっては水だけより有利になるとされています。ただしそれは主に、長時間の運動や大量発汗といった条件下での話です。短時間の軽い運動であれば、水と普段の食事で足りることが多い。

飲料そのものの「体に水分を保持させる力」を比べた研究もあります。13種類の飲み物を健常男性に1Lずつ飲ませ、その後の尿量から水分保持能力を指数化した試験では、経口補水液と牛乳が水より明確に高い値を示しました。興味深いことに、このとき用いられたスポーツドリンクは、水と比べて有意な差が出ていません。ナトリウム濃度の差が、そのまま保持力の差として現れた格好です。

どちらをいつ選ぶか

整理すると、次のようになります。

日常生活での水分補給、あるいは軽い運動のあとであれば、水やお茶で十分です。汗を多くかいた場面や、運動を1時間以上続けるような場面では、スポーツドリンクが飲みやすく実用的でしょう。

そして、下痢や嘔吐が続いているとき、発熱で食事がとれないとき、高齢の方の食事量が落ちているとき、そして脱水を伴う熱中症のとき。こうした「すでに脱水が起きている」場面が、経口補水液の出番です。

熱中症とスポーツの中間に位置する話題として、こむら返りの研究があります。暑い環境での下り坂走行中に、湧き水を飲んだ場合と経口補水液を飲んだ場合を比較した試験では、経口補水液を飲んだほうが筋けいれんの起こりやすさが低下していました。汗で失った塩分を塩分で補うことの意味を、シンプルに示した結果といえます。

水だけを飲み続ける危うさ

長時間の運動中に、のどの渇き以上に水を飲み続けると、血液中のナトリウム濃度が下がる運動関連低ナトリウム血症を起こすことがあります。マラソンやトライアスロンなどの持久系競技で報告されてきた病態で、軽ければ頭痛や吐き気ですが、進行すると意識障害やけいれんに至り、命に関わります。

第3回国際コンセンサス会議の声明では、この病態の最大の原因は、渇きを超えて水分をとりすぎることだと明記されています。予防の基本は、時間で機械的に飲むのではなく、渇きの感覚に沿って飲むこと。「とにかくたくさん飲めば安全」という発想は、必ずしも正しくありません。

飲みすぎ・常用にも注意がいる

経口補水液は塩分濃度が高い飲み物です。のどが渇いていないのに水がわりに飲み続ければ、ナトリウムのとりすぎになります。高血圧、心不全、腎機能障害のある方は、主治医に相談したうえで使うのが安全です。

スポーツドリンクのほうは、糖質が問題になります。500mLのペットボトル1本で、糖質はおよそ20〜30g。日常的に何本も飲めば、それだけで相当な糖負荷です。日本では1990年代から、清涼飲料水の多飲をきっかけに高血糖とケトーシスを起こす例が報告されてきました。いわゆるペットボトル症候群です。若い肥満男性に多く、それまで糖尿病と診断されていなかった人が突然発症する点が特徴とされています。

小児においても、米国小児科学会は、日常的にスポーツドリンクを水のかわりに飲むことは不要であり、頻回・過剰な摂取は肥満のリスクを高めうると指摘してきました。運動する子どもに一律に必要なものではない、ということです。

熱中症のときは、飲み物だけに頼らない

最後にひとつ、大切なことを付け加えておきます。

熱中症診療ガイドライン2024では、軽症から中等症であれば、涼しい場所での休息と水分・電解質の補給で軽快しうるとされています。しかし改善に乏しい場合は、深部体温を測ったうえで積極的な冷却へ進むべきだとも書かれています。同ガイドラインは、どの経口補水液が有効か、あるいは病院前で点滴と経口補水液のどちらが有用かについては、まだ研究が十分でないとして明確な推奨を出していません。

つまり、ぐったりしている人、返事がおかしい人、自分で水分をとれない人に対して、飲み物だけで何とかしようとするのは危険です。すぐに涼しい場所へ移し、体を冷やし、ためらわずに救急要請をしてください。

飲み物の使い分けは、あくまで予防と軽症段階での話。そこを間違えなければ、この二つはどちらも心強い味方になります。

参考文献

1.Reduced osmolarity oral rehydration solution for treating dehydration due to diarrhoea in children: systematic review, Hahn S, Kim Y, Garner P. BMJ. 2001 Jul 14;323(7304):81-5. DOI: 10.1136/bmj.323.7304.81 要約: 小児急性下痢症15試験2397例の系統的レビュー。低浸透圧ORSは従来のWHO処方に比べ予定外の静脈輸液が有意に少なく(OR 0.61)、便量と嘔吐も減少した。処方変更の根拠となった代表的文献。

2.Scientific rationale for a change in the composition of oral rehydration solution, Duggan C, Fontaine O, Pierce NF, et al. JAMA. 2004 Jun 2;291(21):2628-31. DOI: 10.1001/jama.291.21.2628 要約: WHOが低浸透圧ORS(総浸透圧245mOsm/L)へ推奨を変更した科学的根拠を解説した合意文書。ナトリウム・ブドウ糖共輸送を軸に、濃度低減の妥当性と安全性を整理している。

3.Oral Rehydration Therapy in the Second Decade of the Twenty-first Century, Binder HJ, Brown I, Ramakrishna BS, Young GP. Curr Gastroenterol Rep. 2014 Mar;16(3):376. DOI: 10.1007/s11894-014-0376-2 要約: 経口補水療法の歴史と機序を総括した総説。腸管のナトリウム・ブドウ糖共輸送体SGLT1が下痢時にも保たれることがORSの成立基盤である点を明快に説明している。

4.European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition/European Society for Pediatric Infectious Diseases Evidence-Based Guidelines for the Management of Acute Gastroenteritis in Children in Europe: Update 2014, Guarino A, Ashkenazi S, Gendrel D, et al. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014 Jul;59(1):132-52. DOI: 10.1097/MPG.0000000000000375 要約: 欧州の小児急性胃腸炎診療ガイドライン。脱水の第一選択治療は低浸透圧経口補水液であるとし、組成や投与法、経口摂取が困難な場合の対応を体系的に示している。

5.American College of Sports Medicine position stand. Exercise and fluid replacement, Sawka MN, Burke LM, Eichner ER, et al. Med Sci Sports Exerc. 2007 Feb;39(2):377-90. DOI: 10.1249/mss.0b013e31802ca597 要約: 運動時の水分補給に関する米国スポーツ医学会の公式見解。発汗量の個人差を前提に、体重減少2%未満を目安とし、条件により電解質と糖質を含む飲料が水より有利としている。

6.Statement of the Third International Exercise-Associated Hyponatremia Consensus Development Conference, Carlsbad, California, 2015, Hew-Butler T, Rosner MH, Fowkes-Godek S, et al. Clin J Sport Med. 2015 Jul;25(4):303-20. DOI: 10.1097/JSM.0000000000000221 要約: 運動関連低ナトリウム血症に関する国際コンセンサス声明。主因は渇きを超えた過剰飲水であるとし、渇きに応じた飲水を予防の基本に据えることを推奨している。

7.A randomized trial to assess the potential of different beverages to affect hydration status: development of a beverage hydration index, Maughan RJ, Watson P, Cordery PA, et al. Am J Clin Nutr. 2016 Mar;103(3):717-23. DOI: 10.3945/ajcn.115.114769 要約: 13種の飲料1Lを健常男性72名に投与し尿量から水分保持指数を算出した無作為化試験。経口補水液と牛乳は水より有意に高く、スポーツドリンクは水と差がなかった。

8.Effect of oral rehydration solution versus spring water intake during exercise in the heat on muscle cramp susceptibility of young men, Lau WY, Kato H, Nosaka K. J Int Soc Sports Nutr. 2021 Mar 15;18(1):22. DOI: 10.1186/s12970-021-00414-8 要約: 暑熱下の下り坂走行中に経口補水液または湧き水を摂取させた交差試験。電気刺激による筋けいれん閾値の評価で、経口補水液群のほうが筋けいれん起こしやすさが低下した。

9.Ketoacidosis-onset type 2 diabetes in Japanese. Association with the widespread distribution of soft drinks and vending machines, Nagasaka S, Ishikawa S, Itabashi N, et al. Diabetes Care. 1998 Aug;21(8):1376-8. DOI: 10.2337/diacare.21.8.1376 要約: 清涼飲料水の多飲を契機にケトアシドーシスで発症した日本人2型糖尿病例の報告。若年・男性・肥満・家族歴を特徴とし、いわゆるペットボトル症候群の代表的原著。

10.Sports drinks and energy drinks for children and adolescents: are they appropriate?, Committee on Nutrition and the Council on Sports Medicine and Fitness. Pediatrics. 2011 Jun;127(6):1182-9. DOI: 10.1542/peds.2011-0965 要約: 米国小児科学会の臨床報告。スポーツドリンクとエナジードリンクを明確に区別し、小児が日常的に水のかわりに飲む必要はなく、過剰摂取は肥満リスクを高めうるとした(2021年7月に retired)。

ガイドライン

日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2024(2024年7月22日発行) https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf 要約: 熱中症を暑熱障害と脱水に整理し、脱水はナトリウム欠乏性脱水が主体であるとして塩分と水分が配合されたORSを適切とする一方、どのORSが有用か、病院前で輸液とORSのいずれが有用かについては十分なエビデンスがなく今後の課題と明記している。

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック

院長 有光潤介

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