2026年8月17日

「年のせい」で終わらせない!高齢者の早朝覚醒と日中の眠気の原因・対処法
高齢者の早朝覚醒と日中の眠気への対処法
高齢になると、夜中の3時や4時に目が覚めてしまい、そのあとは布団の中で悶々としたまま朝を迎える。ところが日中はテレビを見ながらうとうとしてしまう。こうした訴えは、内科外来でも非常によく耳にするものです。ご本人は「年をとったから仕方がない」とあきらめていることも多いのですが、実際には体内時計の仕組みで説明できる部分が大きく、生活の工夫で改善が期待できる部分も少なくありません。ここでは、早朝覚醒と日中の眠気について、現在わかっていることを整理してみます。
なぜ高齢になると朝早く目が覚めるのか
まず知っておいていただきたいのは、加齢に伴って睡眠そのものの中身が変わるということです。5歳から102歳まで3,577人分の睡眠検査データをまとめた解析では、年齢とともに深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が減り、浅い睡眠の割合が増え、寝ついてから朝までの間に目が覚めている時間が長くなることが示されています。つまり高齢者の眠りは、若い頃に比べて構造的に浅く、途切れやすくなっているのです。ちょっとした物音や尿意で目が覚めやすいのは、この変化が背景にあります。
もうひとつの大きな要因が体内時計の前進です。人間の睡眠と覚醒は、深部体温やメラトニンといった体内リズムに支配されていますが、高齢者ではこのリズムのピークが若い頃より1〜2時間ほど早い時刻にずれていきます。夕方から早い時間に眠気が訪れ、その分だけ目覚めも早くなる。夜8時や9時にうとうとしてそのまま床につけば、必要な睡眠時間が7時間だとしても、明け方3時や4時に目が覚めるのはむしろ計算どおりということになります。
さらに、加齢によってメラトニンの分泌量そのものが減り、目のレンズの変化や屋外で過ごす時間の減少によって、体内時計を調整する光の信号も弱くなります。時計を合わせる力が弱まった状態で、リズムだけが前にずれていく。これが早朝覚醒の基本的な構図です。
日中の眠気は「年のせい」で片づけない
日中の眠気は、夜の睡眠が分断されていることの結果である場合が多いのですが、それだけとは限りません。高齢者4,894人を8年間追跡したフランスの研究では、日中の強い眠気がある人は、その後の認知機能低下のリスクが高いことが報告されています。これは因果関係を証明したものではありませんが、強い眠気を放置してよいサインとは言えないことを示しています。
背景として特に見逃せないのが睡眠時無呼吸です。閉塞性睡眠時無呼吸の有病率は年齢とともに上昇し、高齢者集団では検査基準によっては男性の大半が該当するという報告もあります。いびきが大きい、家族に呼吸が止まっていると言われた、朝に頭痛がする、夜間に何度もトイレに立つ、といった特徴があれば、一度検査を受ける価値があります。このほか、抑うつ状態、慢性的な痛み、前立腺肥大などによる夜間頻尿、むずむず脚症候群、そして服用中の薬(抗ヒスタミン薬、一部の降圧薬、睡眠薬の持ち越し効果など)も、日中の眠気の原因になります。
寝床にいる時間を長くしすぎない
対処法の第一は、意外に思われるかもしれませんが、寝床で過ごす時間を欲張らないことです。厚生労働省の睡眠ガイドでは、高齢者について、長い床上時間が健康リスクとなるため、寝床にいる時間が8時間以上にならないことを目安にすると明記されています。眠れないからと早く布団に入り、朝も長く横になっていると、眠っていない時間ばかりが増え、かえって「眠れない」という感覚が強まります。夜9時に床につけば、4時起きは自然な結果です。就床時刻を10時半や11時に後ろ倒しすることが、実は最も効果の大きい対策になることが少なくありません。
光の使い方には順序がある
体内時計は光で動きます。ここで大切なのは、朝の光は時計を前に進め(早寝早起きの方向)、夕方から夜の光は時計を後ろにずらす、という原則です。早朝覚醒に困っている方は時計がすでに前にずれているので、一般的に勧められる「朝いちばんに日光を浴びましょう」を実践すると、かえってずれが強まる可能性があります。
米国睡眠医学会の診療ガイドラインでは、睡眠相前進型の成人に対して夕方の高照度光療法が推奨されています。具体的には、夕方から日没前後にかけて散歩をする、夕食後の時間帯に部屋を暗くしすぎず明るい照明の下で過ごす、といった工夫です。逆に、明け方に目が覚めたときは、すぐにカーテンを開けて強い朝日を浴びるのは控えめにし、遮光カーテンを使うのも一案です。
日中の活動量と昼寝の取り方
運動と睡眠の関係を66件の研究からまとめた解析では、定期的な運動によって寝つきまでの時間、睡眠効率、睡眠の質が改善することが示されています。高齢者の場合、激しい運動である必要はなく、日中にしっかり体を動かし、屋外で過ごす時間を確保することが、睡眠圧を高め、体内時計を安定させます。運動の時間帯としては、夕方の軽い運動が時計を後ろにずらす方向にも働くため相性がよいのですが、就寝直前の激しい運動は避けてください。
昼寝は、取り方次第で味方にも敵にもなります。20分から30分程度の短い昼寝は覚醒度と作業能力を改善しますが、それを超える長い昼寝では、目覚めた直後のぼんやり感(睡眠慣性)が強く出て、夜の眠気も減ってしまいます。午後3時より前に、30分以内で切り上げる。これが基本です。夕食後にテレビを見ながらうとうとする習慣は、夜の睡眠を確実に削るので、その時間帯こそ起きていたい時間だと考えてください。
眠れない時間を寝床で過ごさない
寝床で眠れずに過ごす時間が長くなると、「寝床は眠れない場所」という条件づけが起こります。20分ほど眠れなければ一度寝床を離れ、暗めの照明の下で静かに過ごし、眠気が来てから戻る。この方法を含む不眠症の認知行動療法は、20件のランダム化比較試験をまとめた解析で、寝つきや中途覚醒の明確な改善が確認されており、慢性不眠症の第一選択とされています。薬と違って副作用がなく、効果が長続きするのが利点です。
睡眠薬については慎重に
高齢者の不眠に対する睡眠薬の効果と害を比較したメタ解析では、睡眠時間の延長などの効果はごくわずかである一方、認知面の副作用やふらつき、日中の機能低下といった有害事象が明らかに増えることが示されています。転倒や骨折のリスクを考えると、特に高齢者では利益が害を上回らない場合があります。すでに長期に服用している方は自己判断で中止せず、主治医と相談しながら、生活の工夫や認知行動療法と併用して段階的に見直していくのが現実的です。
受診を考えたほうがよい場合
大きないびきや呼吸停止を指摘される、日中に会話中や食事中でも眠り込んでしまう、気分の落ち込みや興味の喪失が続く、夕方から脚がむずむずして眠れない、こうした場合は生活の工夫だけでは解決しません。また、早朝覚醒はうつ病の代表的な症状のひとつでもあります。眠りの問題が2週間以上続き、日中の生活に支障が出ているようであれば、一度医療機関にご相談ください。
早朝に目が覚めること自体は、体内時計の変化として自然な現象です。問題は、それを埋め合わせようとして寝床にいる時間を延ばしたり、日中に長く眠ったりすることで、悪循環が固定してしまうことにあります。就床時刻を遅らせる、夕方に光と活動を持ってくる、昼寝は短く早めに。この三つを整えるだけでも、朝の時間の過ごし方はずいぶん変わってきます。
参考文献
- Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals: developing normative sleep values across the human lifespan. Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello MV. Sleep. 2004 Nov 1;27(7):1255-73. DOI: https://doi.org/10.1093/sleep/27.7.1255
要約: 5歳から102歳まで3,577人の睡眠検査を統合したメタ解析。加齢に伴い徐波睡眠と睡眠効率が低下し、中途覚醒が増加することを定量的に示した基準的文献。 - Sleep and Human Aging. Mander BA, Winer JR, Walker MP. Neuron. 2017 Apr 5;94(1):19-36. DOI: https://doi.org/10.1016/j.neuron.2017.02.004
要約: 加齢による睡眠変化の全体像を扱った総説。睡眠の質・量の変化とその神経基盤、記憶機能への影響までを体系的に整理している。 - Aging and Circadian Rhythms. Duffy JF, Zitting KM, Chinoy ED. Sleep Medicine Clinics. 2015 Dec;10(4):423-34. DOI: https://doi.org/10.1016/j.jsmc.2015.08.002
要約: 加齢に伴う体内時計の変化を扱った総説。深部体温やメラトニンのリズムが時刻に対して前進し、早い就床・早い覚醒につながる機序を解説。 - Clinical Practice Guideline for the Treatment of Intrinsic Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders: ASWPD, DSWPD, N24SWD, and ISWRD. An Update for 2015. Auger RR, Burgess HJ, Emens JS, Deriy LV, Thomas SM, Sharkey KM. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2015 Oct 15;11(10):1199-236. DOI: https://doi.org/10.5664/jcsm.5100
要約: 米国睡眠医学会の診療ガイドライン。睡眠相前進障害の成人に対して夕方の高照度光療法を推奨し、光の照射時刻が治療の要であることを示す。 - Excessive Sleepiness is Predictive of Cognitive Decline in the Elderly. Jaussent I, Bouyer J, Ancelin ML, Berr C, Foubert-Samier A, Ritchie K, Ohayon MM, Besset A, Dauvilliers Y. Sleep. 2012 Sep 1;35(9):1201-7. DOI: https://doi.org/10.5665/sleep.2070
要約: 高齢者4,894人を8年間追跡したフランスの前向き研究。日中の過度の眠気が、その後の認知機能低下と独立して関連することを示した。 - Prevalence of obstructive sleep apnea in the general population: A systematic review. Senaratna CV, Perret JL, Lodge CJ, Lowe AJ, Campbell BE, Matheson MC, Hamilton GS, Dharmage SC. Sleep Medicine Reviews. 2017 Aug;34:70-81. DOI: https://doi.org/10.1016/j.smrv.2016.07.002
要約: 一般人口における睡眠時無呼吸の有病率を24研究から検討した系統的レビュー。加齢とともに有病率が上昇し、高齢群で極めて高いことを示す。 - The effects of physical activity on sleep: a meta-analytic review. Kredlow MA, Capozzoli MC, Hearon BA, Calkins AW, Otto MW. Journal of Behavioral Medicine. 2015 Jun;38(3):427-49. DOI: https://doi.org/10.1007/s10865-015-9617-6
要約: 66研究を統合したメタ解析。定期的な運動が入眠潜時、睡眠効率、主観的睡眠の質を改善し、効果が年齢や実施時刻に左右されることを示した。 - Benefits of napping in healthy adults: impact of nap length, time of day, age, and experience with napping. Milner CE, Cote KA. Journal of Sleep Research. 2009 Jun;18(2):272-81. DOI: https://doi.org/10.1111/j.1365-2869.2008.00718.x
要約: 昼寝の効果を長さ・時刻・年齢の観点から整理した総説。短時間の昼寝が覚醒度を高める一方、長い昼寝は睡眠慣性を招くことを示す。 - Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis. Trauer JM, Qian MY, Doyle JS, Rajaratnam SMW, Cunnington D. Annals of Internal Medicine. 2015 Aug 4;163(3):191-204. DOI: https://doi.org/10.7326/M14-2841
要約: 20件のランダム化比較試験を統合し、不眠症の認知行動療法が入眠潜時と中途覚醒を有意に改善することを示した。慢性不眠の第一選択治療の根拠。 - Sedative hypnotics in older people with insomnia: meta-analysis of risks and benefits. Glass J, Lanctôt KL, Herrmann N, Sproule BA, Busto UE. BMJ. 2005 Nov 19;331(7526):1169. DOI: https://doi.org/10.1136/bmj.38623.768588.47
要約: 高齢者における睡眠薬の効果と害を比較したメタ解析。睡眠改善効果はわずかで、認知面の副作用や転倒リスクの増加が上回りうることを示した。 - 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会. 2024年2月. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html
要約: 10年ぶりに改訂された国内の公的指針。高齢者については床上時間が8時間以上にならないことを目安とし、睡眠休養感の向上を推奨している。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介