千里丘かがやきクリニック|アレルギー診療・漢方外来
Atopy
アトピー性皮膚炎 ── 外からのケアに、内からの漢方を
アトピー性皮膚炎は、かゆみのある湿疹が、よくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。原因はひとつではなく、皮膚のバリア機能・体質としての炎症の起こりやすさ・掻いてしまう悪循環が、互いを悪化させながら続いていきます。当院では、ガイドラインに沿った標準治療をきちんと行ったうえで、漢方薬の併用という選択肢をご提案しています。
アトピー性皮膚炎の背景には、3つの要因があります。どれかひとつを叩くのではなく、3つすべてに手を打つことが、長期的な安定につながります。
- 1
Skin barrier皮膚バリア機能の低下 - 2
Type 2 inflammationアレルギー性の炎症 - 3
Itch-scratch cycleかゆみと掻破の悪循環
01
皮膚で、何が起きているのか
Mechanism
皮膚の表面でBarrier
- 健康な皮膚では、角層の細胞とその間を埋める脂質が「壁」となり、水分を保ち、外からの刺激を防いでいます。
- アトピー性皮膚炎では、この壁をつくるたんぱく質(フィラグリンなど)や脂質が不足しやすく、すき間の多い壁になります。
- 水分が逃げて乾燥が進み、汗・ダニ・ほこり・洗剤といった刺激やアレルゲンが、皮膚の中に入り込みやすくなります。
→乾燥・刺激に弱い皮膚
皮膚の内側でInflammation
- 入り込んだ刺激に免疫が反応し、IL-4・IL-13・IL-31 といった物質が出て炎症が起こります。
- これらの物質は炎症を起こすだけでなく、バリアをつくる働きそのものを抑えてしまいます。
- さらに神経を直接刺激するため、乾燥しているだけの皮膚よりも、はるかに強いかゆみが生じます。
→赤み・湿疹・強いかゆみ
そして悪循環へVicious cycle
- かゆみに耐えられず掻くと、その瞬間は楽になりますが、バリアはさらに壊れます。
- 壊れた場所からまた刺激が入り、炎症が強まり、かゆみが増す。この輪が回り続けます。
- 睡眠中の無意識の掻破、汗、ストレス、季節の変わり目などが、輪の回転をさらに速めます。
→慢性化・皮膚の肥厚
「治す」より「輪を止める」。アトピー性皮膚炎の治療の目標は、症状がない、あるいはあっても日常生活に支障がない状態を保つことです。一度きれいにするだけでなく、その状態を維持する仕組みをつくることが、遠回りのようで最短の道になります。
02
治療の三本柱
Standard care
アトピー性皮膚炎の治療は、日本皮膚科学会のガイドラインで「薬物療法」「スキンケア」「悪化因子の対策」という3つの柱が示されています。当院でも、まずこの3本柱を確実に組み立てることを出発点とし、そのうえで漢方薬の併用を検討します。
- PILLAR 01
薬物療法
炎症を確実に抑えることが最優先です。ステロイド外用薬を皮疹の強さと部位に応じて使い分けるほか、タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏、ジファミラスト軟膏といった非ステロイド外用薬も選択できます。かゆみに対しては抗ヒスタミン薬を併用します。
- PILLAR 02
スキンケア
壊れたバリアを外から補います。入浴後すぐの保湿が基本で、すり込まず、しわに沿って伸ばします。石けんはよく泡立てて手で洗い、ナイロンタオルは使いません。保湿の継続は、症状が落ち着いたあとの再燃予防にもつながります。
- PILLAR 03
悪化因子の対策
人によって引き金は異なります。汗・乾燥・ダニ・ハウスダスト・衣類の刺激・ストレス・睡眠不足など、思い当たるものを一緒に整理します。必要に応じて血液検査でアレルゲンを確認し、対策の優先順位を決めます。
プロアクティブ療法という考え方。湿疹が消えたあとも、見た目には治ったように見える皮膚の下では炎症がくすぶっています。そこで、良くなった部位に週2回程度だけ外用薬を続け、再燃そのものを予防する方法をプロアクティブ療法といいます。「悪くなったら塗る」より、結果的に総使用量が減ることが知られています。
ステロイド外用薬について「ステロイドは怖い」という不安から自己判断で中止し、かえって長引いてしまう方が少なくありません。外用ステロイドは、適切な強さを、適切な期間、適切な量で使えば安全性の高い薬です。心配な点は遠慮なくお話しください。使う量・減らし方・やめどきまで含めて、納得いただける形で設計します。なお、当院は内科・アレルギー科です。重症例や診断に迷う皮疹、生物学的製剤(ゾレア)やJAK阻害薬(リンヴォック)の導入もおこなっています。
03
当院の特色 ── 漢方薬の併用
Kampo
当院は漢方専門医およびアレルギー専門医が在籍し、広島大学病院漢方診療センターとの関わりのなかで漢方医学の研究にも携わってきました。アトピー性皮膚炎に対する漢方薬は、標準治療を置き換えるものではなく、標準治療に「上乗せ」する選択肢と位置づけています。外用薬でおおむね落ち着いているものの、かゆみが残る・季節ごとに繰り返す・外用量を減らしたい──そうした場面で、体質や皮疹の性質に合わせた処方を検討します。
全 12 処方
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消風散
しょうふうさん
分泌物が多くじくじくとし、かゆみが強い湿疹に用いる代表的な処方です。熱感をともない、夏や入浴後に悪化するタイプに向きます。
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十味敗毒湯
じゅうみはいどくとう
赤みのある丘疹が出没し、化膿しやすい皮疹に用います。比較的体力のある方の、発疹が繰り返し出るタイプが目安です。
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越婢加朮湯
えっぴかじゅつとう
むくみをともなう強い紅斑や、滲出液の多い急性期の皮疹に用います。熱感と腫れが前面に出る場面が目安です。
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黄連解毒湯
おうれんげどくとう
顔や首の赤みが目立ち、のぼせやほてり、いらだちをともなうタイプに用います。比較的体力のある方が対象です。
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白虎加人参湯
びゃっこかにんじんとう
皮膚の熱感が強く、のどの渇きをともなう場合に用います。冷やすと楽になる、夏場に著しく悪化するといった訴えが手がかりになります。
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温清飲
うんせいいん
乾燥して皮膚が硬く、赤黒く色素沈着した掻き壊しに用います。乾燥と炎症が同時に続く、慢性化した皮疹が対象です。
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当帰飲子
とうきいんし
分泌物が少なく、粉をふくように乾燥した皮膚のかゆみに用います。冬に悪化する方や、ご高齢の方に選ばれることの多い処方です。
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桂枝茯苓丸
けいしぶくりょうがん
のぼせやすく、足は冷え、皮膚がくすんで色素沈着しやすい方に用います。月経周期に合わせて皮疹が動く場合も手がかりになります。
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柴胡清肝湯
さいこせいかんとう
扁桃炎やリンパ節の腫れを繰り返す小児の皮膚炎に用います。神経質で、感染をきっかけに悪化しやすいお子さんが目安です。
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小建中湯
しょうけんちゅうとう
食が細く疲れやすい、おなかを痛がるお子さんに用います。飲みやすい甘みがあり、体調そのものを底上げする目的で選びます。
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補中益気湯
ほちゅうえっきとう
疲れやすく食欲が落ちている方に用います。外用薬との併用で、外用量やTARC値の推移を検討した報告があり、当院でも経過を追いながら使用します。
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抑肝散加陳皮半夏
よくかんさんかちんぴはんげ
かゆみでいらだち、夜間に掻いてしまって眠れない方に用います。掻破の悪循環を、精神的な緊張の側から緩める目的で併用します。
「証」に合わせて選びます。同じアトピー性皮膚炎でも、じくじくしているのか乾燥しているのか、赤みや熱感があるのか、体力はどうか、季節や時間帯でどう変わるのか──漢方ではこうした全体像を「証(しょう)」として捉え、処方を決めます。上の一覧は目安であり、実際には診察のうえで最適なものをご提案します。いずれも医療用漢方エキス製剤で、保険診療の範囲内です。
効果と限界、そして副作用についてアトピー性皮膚炎に対する漢方薬は、外用薬や生物学的製剤と比べると質の高い臨床試験の数が限られており、標準治療の代わりになるものではありません。当院では、効果が期待できる場面と、期待しにくい場面を率直にお伝えします。また、漢方薬にも副作用があります。甘草を含む処方では偽アルドステロン症(むくみ・血圧上昇・低カリウム血症)、黄芩を含む処方では肝機能障害や間質性肺炎がまれに報告されています。当院では定期的な血液検査で安全性を確認しながら継続します。
04
診療の流れ
Flow
- STEP 01
問診と診察
皮疹の分布と性状、これまでの経過、使ってきた薬、生活や仕事の環境、悪化する季節や時間帯までうかがいます。
- STEP 02
必要な検査
必要に応じて血液検査を行います。TARC・IgE・好酸球数などで炎症の程度を、特異的IgEでアレルゲンを確認します。
- STEP 03
治療方針の相談
まず標準治療を組み立て、そのうえで漢方薬を併用するかどうかを一緒に決めます。塗り方の実演も行います。
- STEP 04
再評価と調整
2〜4週後に効果と副作用を確認します。漢方薬は1〜3か月を目安に、続けるか変えるかを判断します。
栄養相談について。当院には管理栄養士が4名在籍していますが、アトピー性皮膚炎の治療として自己判断の食物除去はおすすめしません。不要な除去は栄養不足を招き、かえって食物アレルギーのリスクを高めることが知られています。食物アレルギーの合併が確認された場合や、食生活の偏りが気になる場合にかぎり、管理栄養士がご相談に応じます。
05
よくあるご質問
Questions
- Q漢方薬だけで治療できますか。
- Aおすすめしていません。漢方薬は標準治療に上乗せする選択肢であり、外用薬の代わりにはなりません。炎症が残ったまま外用薬をやめると、悪化して結果的に強い治療が必要になることがあります。まず標準治療で炎症を抑え、そのうえで併用をご検討ください。
- Q漢方薬の効果は、どのくらいで分かりますか。
- A処方や体質によりますが、かゆみや寝つきの変化は2〜4週間で手がかりが出ることがあります。皮疹そのものの変化は1〜3か月を目安に判断します。効果がはっきりしない場合は、漫然と続けず、処方の変更や中止を検討します。
- Q子どもでも漢方薬を飲めますか。
- A年齢と体重に応じて量を調整すれば服用できます。飲みにくい場合は、少量のお湯で溶かす、服薬ゼリーやアイスクリームに混ぜるなどの工夫をお伝えします。無理強いは続きませんので、飲めなければ遠慮なくお知らせください。
- Q他院で処方された外用薬と併用できますか。
- A併用できます。受診の際はお薬手帳と、現在使用中の外用薬をお持ちください。強さや使用量を確認したうえで、漢方薬の選択と全体の設計を行います。皮膚科に通院中の方も、そのまま継続していただいて構いません。
- Qデュピルマブなどの注射薬を使っていますが、相談できますか。
- Aご相談いただけます。生物学的製剤やJAK阻害薬を使用中の方でも、残るかゆみや体調面について漢方薬の併用を検討できる場合があります。導入や変更が必要と判断した際は、皮膚科専門医と連携して進めます。
- Q保険は使えますか。
- A当院で処方する漢方薬は医療用漢方エキス製剤で、すべて保険診療です。診察・血液検査を含め、通常の保険診療として受けていただけます。
本ページは、アトピー性皮膚炎に関する一般的な情報をまとめたものです。皮疹の見え方や適した治療は一人ひとり異なり、記載した漢方処方がどなたにも当てはまるわけではありません。効果を保証するものでもありません。症状が続く場合や急に悪化した場合は、自己判断で治療を中断せず、当院または皮膚科にご相談ください。
参考:日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」/日本東洋医学会「漢方治療エビデンスレポート」
Senrioka Kagayaki Clinic千里丘かがやきクリニック