機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシア外来
「胃がもたれる」「少し食べただけでお腹がいっぱいになる」「みぞおちが痛む」——それなのに、胃カメラでは異常が見つからない。こうした状態は機能性ディスペプシアと呼ばれ、気のせいでも性格の問題でもなく、胃の働きと知覚の異常によって起こる病気です。当院では消化器内視鏡と漢方診療の両方の視点から原因を整理し、管理栄養士とともに、症状に振り回されない毎日を取り戻す診療を行っています。
思い当たるものがあれば、一度ご相談ください。症状のタイプを見きわめることで、治療の方向性は大きく変わります。
胃の形ではなく、胃の「働き」の問題です
内視鏡で見えるのは、潰瘍やがん、炎症といった形の異常です。機能性ディスペプシアで起きているのは、食べ物を受け入れるために胃がふくらむ動き(適応性弛緩)の低下、胃から腸へ送り出す速さの変化、そしてわずかな刺激を強い不快感として感じ取ってしまう内臓知覚過敏です。これらは内視鏡の画像には映りません。
つまり「異常がない」のではなく、形の異常がないことを確認したうえで診断される病気が機能性ディスペプシアです。日本では上腹部の不調を訴えて医療機関を受診した方の相当数がこれに該当するとされ、決してまれな病気ではありません。
つらさを我慢し続ける必要はありません
命に関わる病気ではありませんが、食事のたびに不快感がある状態は生活の質を大きく下げます。「気にしすぎ」と言われて受診をためらってきた方も少なくありません。診断がつけば、使える治療の選択肢は複数あります。
機能性ディスペプシアは、国際的な診断基準(Rome IV基準)で大きく2つのタイプに分けられます。どちらの要素が強いかによって、優先して使う薬が異なります。両方の特徴を併せ持つ方も少なくありません。
食後のもたれ感や、早く満腹になってしまう感じ(早期飽満感)が中心のタイプ。食事をきっかけに症状が出るのが特徴です。胃の動きが関係していることが多く、胃の運動を助ける薬や漢方薬が中心となります。
みぞおちの痛みや、焼けるような感じが中心のタイプ。食事と関係なく起こることもあり、空腹時に強くなる方もいます。胃酸の関与が考えられる場合が多く、酸分泌を抑える薬から始めることが一般的です。
ピロリ菌の感染がある方では、除菌によって症状が消える場合があります。除菌後6〜12か月経っても症状が続くかどうかで判断され、続く場合はあらためて機能性ディスペプシアとして治療します。
逆流性食道炎(胸やけ)や過敏性腸症候群(腹痛と便通異常)を併せ持つ方は珍しくありません。上と下の症状は互いに影響し合うため、一方だけを診るのではなく、消化管全体として整理することが必要です。
単一の原因ではなく、いくつかの要素が重なって症状をつくっていると考えられています。どの要素が強いかを見立てることが、治療を選ぶ手がかりになります。
| 胃の適応性弛緩の低下 | 本来、食べ物が入ると胃の上部はやわらかくふくらんで受け入れます。この動きが鈍いと、少量でも張って感じられ、早期飽満感につながります。 |
|---|---|
| 胃排出の異常 | 胃から十二指腸へ食べ物を送り出す速さが遅くなると、もたれ感や吐き気が生じます。逆に速すぎる場合も症状の原因になります。 |
| 内臓知覚過敏 | 胃酸や胃の伸展といった、通常なら感じない程度の刺激を、痛みや不快感として強く感じ取ってしまう状態です。心窩部痛や灼熱感の背景にあります。 |
| 十二指腸の微小な炎症 | 近年、十二指腸粘膜のわずかな免疫細胞の増加や、粘膜バリアの変化が症状に関与すると報告されています。脂肪や酸への感受性の高まりとも関連します。 |
| 脳腸相関とストレス | 脳と消化管は自律神経やホルモンを介して双方向にやり取りしています。ストレスや睡眠不足は胃の動きと知覚の両方に影響し、症状を強めます。原因が心にあるという意味ではなく、身体の仕組みとしてつながっています。 |
| 感染性胃腸炎のあと | いわゆる胃腸炎をきっかけに、治ったあとも上腹部の不調が続くことがあります(感染後ディスペプシア)。発症のきっかけがはっきりしている場合の代表例です。 |
機能性ディスペプシアは、ほかの病気がないことを確かめたうえで診断します。やみくもに検査を重ねるのではなく、症状とご年齢、経過から必要なものを選びます。
| 上部消化管内視鏡検査 (胃カメラ) |
胃がん、胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、好酸球性食道炎などを除外するための、診断の土台となる検査です。当院は消化器内視鏡専門医が担当し、鎮静剤を使用した検査にも対応しています。 |
|---|---|
| ピロリ菌の検査 | 感染の有無を確認します。陽性の場合は除菌治療を行い、その後の症状の変化を追って判断します。過去に除菌された方も、症状が続く場合は経過を整理します。 |
| 血液検査 | 貧血や炎症、肝臓・膵臓・甲状腺の状態、糖尿病の有無などを確認します。全身の病気が上腹部症状として現れることがあるためです。 |
| 腹部超音波検査 | 胆石や胆のう炎、膵臓の病変など、胃以外の臓器が原因となっていないかを確認します。体への負担がなく、その場で結果をご説明できます。 |
| 服用中のお薬の確認 | 痛み止め(NSAIDs)、骨粗鬆症の薬、鉄剤などが上腹部症状の原因となることがあります。お薬手帳をお持ちください。 |
ひとつの薬で一気に解決するというより、症状のタイプに合わせて選び、効果を確かめながら組み立てていきます。効果の判定にはある程度の期間が必要で、合わないときは早めに切り替えます。
プロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬など。みぞおちの痛みや灼熱感が中心のタイプ(EPS)で、まず選ばれることの多い薬です。長期に続ける場合は、必要性を定期的に見直します。
アコチアミドは、日本で機能性ディスペプシア(食後愁訴症候群)に対して保険適用がある薬です。胃の受け入れる動きと排出を助け、もたれ感や早期飽満感の改善が期待できます。食前に服用します。
六君子湯は、胃の適応性弛緩や食欲に関わるホルモン(グレリン)への作用が研究され、国内の診療ガイドラインでも治療の選択肢として位置づけられています。症状や体質に応じて、半夏厚朴湯や安中散などを使い分けます。
感染がある場合の治療の第一歩です。除菌そのものが症状の改善につながる方が一定数おられ、あわせて将来の胃がんのリスクを下げる意味もあります。
脂肪の多い食事、一度に食べる量、食べる速さ、就寝前の食事、飲酒・喫煙、睡眠の乱れは症状に影響します。管理栄養士が、実行できる範囲を一緒に決めていきます。
症状が続く場合、脳腸相関に働きかける薬(少量の抗うつ薬など)が有効なことがあります。「気のせい」として扱うものではなく、知覚の過敏さそのものを和らげる目的で用います。
ENDOSCOPY
内視鏡専門医が、除外すべき病気を確実に確認します
機能性ディスペプシアの診断は、見逃してはいけない病気がないことを確かめるところから始まります。当院は消化器内視鏡専門医・消化器病専門医が在籍し、胃カメラを院内で実施しています。診断のための検査と、その後の治療を同じ医師が続けて担当できることは、経過を追ううえで大きな利点です。
KAMPO
漢方専門医として、体質に合わせた処方を組み立てます
院長は漢方専門医であり、大学病院の漢方診療科と関わりながら研究にも取り組んできました。機能性ディスペプシアは漢方治療が力を発揮しやすい領域のひとつです。同じ「胃のもたれ」でも、冷えの有無、体力、他の症状によって選ぶ処方は変わります。西洋薬と漢方薬のどちらかではなく、両方を使い分けて組み立てます。
NUTRITION
管理栄養士が、食事の実際を一緒に整えます
当院には管理栄養士が在籍し、栄養指導を行っています。「脂っこいものを控えましょう」で終わらせず、ふだんの食事内容をうかがったうえで、量・回数・調理法をどう変えるかを具体的にご提案します。症状のために食べられるものが減っている方には、体重と栄養を守る視点からも支援します。
LONG TERM
よくなったり戻ったりする経過に、長く付き合います
機能性ディスペプシアは、体調や生活の変化とともに、よくなる時期と戻る時期を繰り返すことがあります。症状が落ち着いたら薬を減らし、強まったら立て直す。この調整を続けられることが治療の要です。健診結果やほかの持病とあわせて相談できる、かかりつけ医としてお付き合いします。
症状を詳しくうかがう
どこが、いつから、どのように不快なのか。食事との関係、症状が強くなる時間帯、体重の変化、これまでに使った薬とその効き方をうかがいます。お薬手帳と、これまでの検査結果があればお持ちください。
必要な検査で、ほかの病気を確認する
胃カメラ、血液検査、腹部超音波検査などから必要なものを選びます。すでに他院で胃カメラを受けておられる場合は、その時期と結果を確認したうえで、再検査の要否を判断します。
タイプを見きわめ、治療を始める
食後愁訴型か心窩部痛型か、どの要素が強いかを整理し、西洋薬・漢方薬から最初の一手を選びます。なぜその薬を選んだのか、どのくらいで効果を判断するのかをお伝えします。
効果を確かめ、組み立て直す
数週間後に効き方を確認し、必要に応じて薬を変更・追加します。あわせて管理栄養士による栄養指導や、生活面の調整をご提案します。
落ち着いた後も、経過をみていく
症状が安定したら、薬を減らせるかを検討します。再び強まったときにすぐ相談できる状態を保つことが、長く付き合ううえで大切です。
次の症状があるときは、様子を見ずにご相談ください
これらは、胃がんや潰瘍など形の異常を伴う病気を示唆する場合があります。機能性ディスペプシアと決めつけず、まず内視鏡検査で確認することが必要です。当てはまる方は、市販薬で様子を見る前にご相談ください。
あります。異常がないことの確認は、機能性ディスペプシアの診断における必要な手順であり、そこが治療の出発点になります。症状のタイプを整理すれば、保険適用のある薬や漢方薬など、選べる治療があります。「異常がないのだから我慢するしかない」ということはありません。
性格の問題ではありません。脳と消化管は自律神経やホルモンを介してつながっており、ストレスや睡眠不足は胃の動きや知覚の感度そのものに影響します。これは身体の仕組みであって、気の持ちようで解決するものではありません。実際、胃の運動を助ける薬や漢方薬で症状が改善する方が多くおられます。
一時的な使用は差し支えありませんが、数週間以上続けて必要な状態であれば、一度原因を確認することをおすすめします。市販薬で症状が和らぐことで、確認すべき病気の発見が遅れる可能性があるためです。特に体重減少や黒い便がある場合は、早めにご相談ください。
無駄ではありません。除菌によって症状が改善する方は一定数おられますが、改善しない場合はあらためて機能性ディスペプシアとして治療の対象になります。また除菌には、将来の胃がんのリスクを下げるという別の意義があります。除菌後も定期的な内視鏡検査は続けてください。
機能性ディスペプシアに用いる漢方薬は、2〜4週間ほどで効き方の見当がつくことが多く、そこで継続か変更かを判断します。西洋薬との併用も可能で、実際には併用して組み立てることがよくあります。効果が出ないまま漫然と続けることのないよう、区切りを決めてご相談していきます。
脂肪の多い食事は胃の排出を遅らせるため、もたれ感の強い方では控えめにするのが基本です。一度の量を減らして回数を分ける、よく噛んでゆっくり食べる、就寝前の食事を避けるといった工夫も有効です。ただし制限を広げすぎると栄養が偏るため、当院では管理栄養士が、続けられる範囲を一緒に決めていきます。
症状が消えて薬をやめられる方も多くおられます。一方で、体調や生活の変化とともに再び強まることもあります。落ち着いている時期は薬を減らし、強まったときに立て直すという調整を続けていくのが現実的です。飲み続けることが前提ではありません。
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