2026年7月21日

子どもの頃は大好物だった果物でかゆみが出る理由とは?「花粉・食物アレルギー症候群」のメカニズム
子どもの頃は平気だったのに、大人になって果物でかゆくなるのはなぜ?
リンゴや桃、メロンを食べたとき、口の中がイガイガしたり唇が腫れぼったくなったりしたことはありませんか。子どもの頃は大好物だったのに、大人になってから急にこうした症状が出る「大人の果物アレルギー」に悩む人が、近年増えています。
実はこの現象、多くの日本人が抱える「花粉症」と深い関係があります。今回は、なぜ大人になってから果物アレルギーを発症しやすいのか、そのメカニズムをわかりやすく解説します。
正体は「花粉・食物アレルギー症候群」
大人が発症する果物アレルギーの多くは、口腔アレルギー症候群(OAS)、または花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)と呼ばれるタイプに分類されます。
食物アレルギーというと、乳幼児に多い卵や牛乳、小麦のアレルギーを思い浮かべる方が多いかもしれません。これらは「クラス1食物アレルギー」と呼ばれ、消化器官がまだ未熟なために、食物のタンパク質がそのまま腸から吸収されてしまうことで起こります。成長とともに消化機能が発達すると、自然に治っていくことが多いタイプです。
一方、大人の果物アレルギーは「クラス2食物アレルギー」というまったく別の仕組みで起こります。原因は消化器官の未熟さではなく、すでに体の中に出来上がっている「花粉症」という免疫の過剰反応にあるのです。
花粉症がなぜ果物アレルギーを引き起こすのか
花粉症は、スギやヒノキ、シラカンバ(白樺)、イネ科などの花粉が鼻や喉の粘膜から入り込み、免疫システムがそれを敵とみなして攻撃することで起こります。
ここでポイントになるのが、植物のタンパク質にはもともと共通の祖先があるということです。そのため、まったく別の植物であっても、タンパク質の立体的な「形」がよく似ていることがあります。果物や野菜に含まれる特定のタンパク質(PR-10やプロフィリンなど)は、花粉のタンパク質と構造がとてもよく似ているのです。
その結果、花粉にアレルギーを持つ人の免疫システムが、果物を食べたときに「また花粉が入ってきた」と勘違いし、口の中で攻撃を始めてしまいます。これを「交差反応」と呼びます。大人の果物アレルギーは、いわば花粉症の免疫システムが起こす精巧な勘違いなのです。
なぜ子どもより大人に多いのか
花粉症はある日突然発症するわけではありません。毎年花粉を吸い込み続けることで体内にアレルギーの原因物質が少しずつ蓄積し、コップの水があふれるように、自分の許容量を超えたときに初めて症状が出ます。
そのため花粉症自体、成長期から大人にかけて発症しやすい傾向があります。果物アレルギーは、この花粉症が成立したあとに二次的に起こるものなので、花粉への感作(アレルギーの準備状態)が完了するまでに長い年月がかかり、結果として大人になってから発症する人が多くなるのです。
花粉の種類と反応しやすい果物・野菜
どの花粉にアレルギーがあるかによって、反応しやすい果物や野菜はある程度決まっています。
| 花粉の種類 | 飛散時期 | 反応しやすい果物・野菜 |
|---|---|---|
| シラカンバ、ハンノキ | 春 | リンゴ、桃、サクランボ、洋ナシ、イチゴ、豆乳など(バラ科と強く反応。北海道・東北で多い) |
| イネ科 | 初夏〜夏 | メロン、スイカ、キウイ、オレンジなど |
| ブタクサ、ヨモギ | 秋 | メロン、スイカ、バナナ、セロリなど |
| スギ、ヒノキ | 春 | トマトなど(果物アレルギーとしての頻度は比較的少ない) |
症状の特徴と「加熱すれば食べられる」理由
このアレルギーの大きな特徴は、症状が口の中やその周辺だけで済みやすいという点です。
原因となるタンパク質は熱や胃酸、消化酵素にとても弱い性質を持っています。そのため生の果物を口にしてから数分以内に、唇や舌、喉にピリピリとしたかゆみや腫れが出ますが、飲み込んで胃に届くと胃酸によってすぐに分解され、全身症状には発展しにくいのです。
熱にも弱いため、生のリンゴで口がかゆくなる人でも、アップルパイやコンポート、加熱殺菌された果汁100%ジュース、缶詰の果物であれば、タンパク質の構造が変化しているため食べられることが多いのも特徴です。
油断は禁物。まれに起こる重い症状
多くは口の中の症状だけで治まりますが、注意も必要です。果物のタンパク質の中には、LTP(脂質移行タンパク)と呼ばれる、熱にも消化酵素にも強いタイプがあります。これに反応する体質の人や、胃腸の調子が悪いとき、運動後に大量に食べた場合などは、まれに全身のじんましんや血圧低下、呼吸困難を伴うアナフィラキシーショックを起こす危険もあります。
「口が少しかゆくなるだけだから」と我慢して生の果物を食べ続けるのは避けましょう。違和感を覚えたら生食を控え、アレルギー科などの専門医に相談することをおすすめします。現在は血液検査で、どの花粉に反応しているかだけでなく、果物のどのタンパク質成分に反応しているかまで調べられ、重症化しやすいタイプかどうかもある程度予測できるようになっています。
まとめ
大人に果物アレルギーが多いのは、長年かけて発症した花粉症が土台にあり、免疫システムが果物のタンパク質を花粉と勘違いして交差反応を起こすためです。子どもの頃に好きだった果物でも、大人になって突然症状が出ることがあります。正しい知識を持ち、少しでも異変を感じたら無理をせず専門医に相談することが、安全で豊かな食生活を守る鍵となります。
参考文献
1.Oral allergy syndrome. Sussman G, Sussman A, Sussman D. CMAJ. 2010 Aug 10. DOI: https://doi.org/10.1503/cmaj.090314 要約: 成人の果物アレルギー(口腔アレルギー症候群)の病態生理、花粉症との関連、診断、加熱による抗原性の変化について包括的に解説した臨床論文。
2.Oral Allergy Syndrome: An Update for Stomatologists. Kashyap RR, Kashyap RS. J Allergy (Cairo). 2015 Nov 8. DOI: https://doi.org/10.1155/2015/543928 要約: 口腔アレルギー症候群の病態や臨床的特徴、診断と管理をまとめたレビュー。花粉と食物タンパク質の構造的類似による交差反応の機序を詳述している。
3.Pollen-food allergy syndrome and component sensitization in adolescents: A Japanese population-based study. Kiguchi T, et al. PLOS One. 2021 Apr 14. DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0249649 要約: 日本の花粉・食物アレルギー症候群の疫学的特徴を調査した論文。青年期における有病率や花粉感作と特定の果物アレルギーとの関連を実証データで報告している。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本アレルギー学会専門医)