ナルコレプシー
ナルコレプシー
ナルコレプシー
会議中、授業中、運転中。どれだけ寝ても襲ってくる強い眠気は、脳の覚醒を保つ「オレキシン」という物質の不足によって起こることがあります。発症から診断までに平均10年以上かかるといわれ、その間「怠けている」と誤解されてきた方が少なくありません。当院では在宅で終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行えますが、確定診断に必要なMSLT(反復睡眠潜時検査)は実施できません。当院の役割は、頻度の高い他の原因を確実に切り分け、MSLTが必要な方を専門施設へ的確におつなぎすることです。眠気の正体を確かめる最初の一歩として、内科の立場からご相談をお受けしています。
とくに三つめの「感情が動いた瞬間の脱力」は、他の病気ではほとんどみられない特徴的な症状です。心当たりがある場合は、診断の重要な手がかりになりますので、診察の際にお伝えください。
眠気は性格や気合いの問題ではなく、脳の状態の問題です。まず、この病気がどういうものかを整理します。
覚醒を保つ物質が足りなくなる病気です
脳の視床下部でつくられるオレキシンは、覚醒を維持する働きを担っています。この働きが低下すると、覚醒と睡眠の切り替えがうまくいかなくなり、日中に突然眠り込んだり、逆に夜の睡眠が分断されたりします。
日本人の有病率は0.16〜0.18%、およそ600人に1人と報告されており、欧米より高いことが知られています。発症のピークは10代で、多くは思春期に始まります。情動脱力発作を伴うものをタイプ1、伴わないものをタイプ2と分類し、タイプ1ではオレキシンを産生する神経細胞が自己免疫的な機序で失われていると考えられています。国内のタイプ1の患者数は2.4万人から3.6万人と推計されています。
診断までに10年以上かかることがあります
発症が思春期であるため、「夜ふかしのせい」「たるんでいるから」と本人も周囲も思い込み、受診に至らないことがよくあります。学業や就職、運転免許といった人生の節目が、診断のつかないまま過ぎてしまうことも珍しくありません。
一方で、日中の強い眠気を起こす病気はナルコレプシー以外にも多く、実際には別の原因であることのほうが多数です。まず頻度の高い原因を確実に切り分けることが、遠回りに見えて最短の道になります。
眠気だけが症状ではありません。次のような体験が組み合わさるとき、この病気を考えます。
日中の眠気を起こす原因は多岐にわたります。当院ではまず、これらを順に確かめていきます。
| 睡眠不足症候群 | もっとも多い原因です。必要な睡眠時間が確保できていないだけの状態で、本人は足りていると思っていることがあります。睡眠日誌をつけていただくと見えてきます。休日に大幅な寝だめをしている方は、この可能性を考えます。 |
|---|---|
| 睡眠時無呼吸症候群 | いびき、肥満、起床時の頭痛、夜間の頻尿などを伴います。当院の在宅PSGで診断でき、CPAP治療まで一貫して対応しています。日中の眠気を主訴に受診された方で、実際にもっとも多く見つかる原因です。 |
| 内科的な原因 | 甲状腺機能低下症、鉄欠乏、貧血、糖尿病、肝機能障害、心不全など。いずれも眠気やだるさとして現れます。院内の採血で一度に確かめられます。健診で異常なしと言われていても、調べていない項目が残っていることがあります。 |
| 薬による眠気 | 抗ヒスタミン薬、睡眠薬の持ち越し、一部の降圧薬や抗てんかん薬などが原因になります。お薬手帳をお持ちください。市販の風邪薬やアレルギー薬を常用している方も少なくありません。 |
| 概日リズム睡眠障害 | 交代勤務や睡眠相の後退により、体内時計と生活時間がずれている状態です。眠る力そのものは保たれており、対処の方向が異なります。 |
| 周期性四肢運動障害 | 睡眠中に脚がくり返しピクつき、睡眠が分断されます。確定診断には専門施設での検査が必要ですが、背景にある鉄欠乏は当院の採血で確認できます。 |
| 特発性過眠症 | 長く眠っても眠気が晴れにくい過眠症です。ナルコレプシーとの区別にはMSLTが必要になります。 |
| うつ病など | 気分の落ち込みや意欲低下に伴う過眠もあります。眠気だけを切り離さず、全体の経過をうかがったうえで判断します。 |
ナルコレプシーの診療は、一つの医療機関で完結するとは限りません。受診前にはっきりお伝えしておきます。
当院ではできないこと
MSLTは主に日本睡眠学会が認定する専門医療機関で行われています。当院で他の原因を除外し、必要な情報を整理したうえで診療情報提供書をお渡しし、受け入れ可能な施設をご案内します。何の準備もないまま専門施設を受診されるより、鑑別を済ませてからのほうが、結果的に早く結論にたどり着けることが多いと考えています。
現時点で完治させる方法はありませんが、治療によって症状を大きく抑え、学業や仕事を続けられるようになる方が多くいます。
| 日中の眠気 | モダフィニル(モディオダール)が中心となります。効果が不十分な場合には、メチルフェニデート(リタリン)やペモリン(ベタナミン)が用いられます。いずれも眠気を抑える薬であり、病気そのものを治すものではありません。 |
|---|---|
| 情動脱力発作 | クロミプラミン(アナフラニール)が保険適用となっています。抗うつ薬の一部が用いられることもあります。脱力発作は転倒につながるため、頻度が高い場合には治療の対象になります。 |
| 新しい治療 | 2026年8月、オレキシン受容体作動薬オベポレキストン(オーゼイフル錠)が、成人のナルコレプシータイプ1に対して国内で承認されました。症状を個別に抑えるのではなく、オレキシン不足という原因そのものに働きかける初めての薬です。薬価収載を経てからの発売となります。 |
| 計画的な仮眠 | 眠くなってからではなく、眠くなる前に15分から20分の仮眠をとることで、その後の眠気を抑えられます。昼休みや授業の合間など、生活のなかにあらかじめ組み込むことが治療の一部になります。 |
| 生活の組み立て | 就床と起床の時刻を一定に保ちます。眠気の強い時間帯に、重要な作業や運転を入れないよう予定を組みます。職場や学校に病気を説明し、仮眠の時間を確保できるよう調整することも、有効な治療のひとつです。 |
お薬について、正直にお伝えしておきます
モディオダールとリタリンは、依存や乱用を防ぐために厳格な流通管理下に置かれており、登録された医療機関、医師、薬局でのみ処方と調剤が可能です。当院は登録医療機関ではないため、これらを処方することはできません。眠気に対する薬物療法は、診断を行った専門施設で導入し、継続していただくことになります。
当院が担うのは、診断にたどり着くまでの鑑別と、診断後に併存する睡眠時無呼吸症候群や内科疾患のフォロー、そして生活面のご相談です。すべてを一か所で完結させるのではなく、それぞれができることを持ち寄る形で支えていきます。
HOME PSG
終夜睡眠ポリグラフ検査を、在宅で行えます
装置をお持ち帰りいただき、ご自宅で一晩お休みいただくだけです。入院の必要はなく、仕事や学校を休んでいただく必要もありません。普段どおりの寝床で測定できるため、実際の睡眠に近い状態を評価できます。眠気の原因としてもっとも頻度の高い睡眠時無呼吸症候群を、まずここではっきりさせます。
CPAP
睡眠時無呼吸症候群なら、そのまま治療へ
検査で睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、当院でCPAP治療の導入から継続管理までを担当します。他院からの移行にも対応しています。眠気を主訴に受診された方の多くが、実際にはこの経路で改善していきます。
INTERNAL
内科として、全身から眠気を診ます
甲状腺機能、鉄、貧血、血糖、肝腎機能。眠気の背景になりうる内科的な原因を、院内の採血で一度に確かめられます。服用中のお薬による眠気の見直しも行います。眠気という症状を睡眠だけの問題として切り離さず、全身の状態から考えます。
REFERRAL
できないことは、はっきりお伝えします
MSLTも、眠気に対するお薬の処方も、当院では行えません。だからこそ、当院で確かめられることを確実に済ませ、必要な情報を整理した診療情報提供書とともに専門施設へおつなぎします。回り道をせずに診断へ進んでいただくことが、当院の役割だと考えています。
眠気の内容をうかがいます
いつから、どんな場面で眠くなるのか。脱力発作や金縛り、幻覚の有無。生活リズムと服薬内容。ここが診断の土台になります。お薬手帳と健診結果をお持ちください。日中の様子をご存じのご家族が同席いただけると、本人が気づいていない情報が得られることがあります。
睡眠日誌と採血で、背景を確かめます
1〜2週間、就床と起床の時刻を記録していただきます。並行して甲状腺機能や鉄、血糖などを採血で確認し、内科的な原因を洗い出します。この段階で眠気の理由がはっきりする方も少なくありません。
在宅で終夜睡眠ポリグラフ検査を行います
装置をお渡しし、ご自宅で一晩測定していただきます。睡眠時無呼吸症候群がはっきりすれば、そのままCPAP治療につなげます。無呼吸が否定され、なお強い眠気が残る場合に、次の段階を考えます。
専門施設でMSLTを受けていただきます
ナルコレプシーが疑われる場合、MSLTが可能な施設へご紹介します。平均睡眠潜時が8分以下、かつ入眠時レム睡眠期が2回以上あることが診断基準の柱です。当院で行った検査と鑑別の結果は、診療情報提供書としてお渡しします。
役割を分けて、経過を支えます
眠気に対するお薬の処方と調整は、診断を行った専門施設で継続していただきます。当院は、併存する睡眠時無呼吸症候群や高血圧、脂質異常症などのフォロー、生活や就労についてのご相談を担当します。
診断を避けることが、いちばん危険です
眠気による事故は、ご本人にとっても周囲にとっても取り返しがつきません。大切なのは診断を避けることではなく、正しく診断を受けて治療につなげることです。学校や職場への伝え方、仮眠時間の確保をどう相談するかについても、一緒に考えます。適切に説明できれば、配慮を得られる職場は増えています。
あります。日中の強い眠気の原因は、睡眠不足症候群や睡眠時無呼吸症候群であることが多く、その多くは当院で診断から治療まで完結します。またナルコレプシーが疑わしい場合も、他の原因を除外し、必要な情報を整理してから専門施設を受診されるほうが、結果的に早く結論にたどり着けます。
当院のPSGは在宅で行います。装置をお持ち帰りいただき、ご自宅で一晩お休みいただくだけです。仕事や学校を休む必要はありません。なお、MSLTは日中に検査室で行う検査のため、こちらは専門施設への受診が必要になります。
あります。情動脱力発作を伴わないタイプ2があり、この場合はMSLTの結果が診断の決め手になります。また、長く眠っても眠気が晴れにくい特発性過眠症との区別も必要です。いずれにしても、まず頻度の高い他の原因を確かめるところから始めます。
いいえ。眠気に用いるモディオダールとリタリンは登録医療機関でしか処方できず、当院は登録医療機関ではありません。お薬の処方と調整は専門施設で継続していただきます。当院では、併存する睡眠時無呼吸症候群や高血圧、脂質異常症などのフォロー、生活面のご相談を担当します。
MSLTを実施している睡眠専門施設のなかから、通院可能な範囲でご相談のうえ決定し、診療情報提供書をお渡しします。検査の予約に時間がかかる施設もあるため、早めに動き出すことをおすすめしています。
ナルコレプシーは10代での発症がもっとも多い病気です。授業中の居眠りが続き、怠けていると評価されてしまう前に、一度ご相談ください。年齢や状況によっては、はじめから小児の睡眠を専門とする施設をご案内する場合があります。
一時的に紛らわせることはできますが、根本的な解決にはなりません。むしろ、カフェインで夜の睡眠が浅くなり、翌日の眠気が強まるという悪循環に入ることがあります。何年もしのいでこられた方ほど、一度きちんと原因を確かめる価値があります。
ナルコレプシーでは、日中の強い眠気と夜間の睡眠の分断が同時に起こります。夜眠れないという訴えが前面に出て、不眠症として睡眠薬が処方されてきた方がおられます。日中の眠気が薬の持ち越しでは説明しきれない場合、一度整理し直す価値があります。
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