2026年9月03日

更年期は女性だけのもの?男性の更年期との違いと、放置してはいけない意外な共通点
「更年期かもしれません」と外来でお話しされる方は、圧倒的に女性が多いです。でも実際には、男性にも同じような時期があります。ただし現れ方がずいぶん違うので、本人も周囲もなかなか気づけない。ここでは、その違いと重なる部分を整理してみます。
女性の更年期は「崖」、男性は「なだらかな坂」
いちばん大きな違いは、変化のスピードです。
女性の場合、卵巣の機能が数年のうちに一気に落ちます。国際的な指標であるSTRAW+10という分類では、月経周期の乱れ方とホルモン値をもとに、閉経前後を段階的に整理しています。閉経の年齢はおよそ50歳前後で、その前後数年がいわゆる更年期です。エストロゲンは、この短期間でストンと落ちる。だから体もついていけず、症状としてはっきり出ます。
一方、男性はまったく違います。マサチューセッツ男性加齢研究という長期の追跡調査では、テストステロンは年に1パーセント程度のペースで下がっていくことが示されました。しかも、加齢とともに増えるSHBGというタンパク質に結合してしまうため、実際に働ける「遊離テストステロン」はもう少し早く減ります。
年に1パーセントです。10年で1割。これでは、変化に気づきにくいのも無理はありません。
男性の「更年期」は、そもそも診断が難しい
女性は月経という明確な指標があります。12か月続けて月経が来なければ閉経、という線引きができる。
男性にはそれがありません。医学的には加齢男性性腺機能低下症、英語ではLate-onset hypogonadism(LOH)と呼びます。ヨーロッパで3,369人の男性を調べた研究では、性機能に関する症状が3つ以上あり、かつ総テストステロンと遊離テストステロンの両方が基準を下回る場合をLOHと定義しました。
ここで大事なのは、症状だけでも、血液検査だけでも診断にならないという点です。実際、40歳から80歳の男性のうち、厳密な基準を満たすのは2パーセント程度にとどまるという指摘もあります。だるさや意欲の低下といった症状は20〜40パーセントの男性が抱えているのに、それがホルモンのせいだとは限らない。糖尿病や肥満、慢性疾患、うつ、単なる睡眠不足でも同じ症状は出ます。
だからこそ、内分泌の国際的なガイドラインでは、症状があって、かつ朝の採血で低値が繰り返し確認された場合にのみ診断すべき、とはっきり書かれています。一回の血液検査で決めつけない。ここは慎重にやるべきところです。
症状の出方も、けっこう違う
女性で目立つのは、いわゆるホットフラッシュ。急にカーッと熱くなる、汗が噴き出す、夜中に寝汗で起きる。アメリカの大規模研究では、頻繁なホットフラッシュが続く期間は中央値でおよそ7.4年、閉経後も平均4.5年ほど残ることがわかっています。思っていたより長い、と感じる方が多いのではないでしょうか。
男性側で前面に出やすいのは、性欲の低下、朝の勃起が減る、勃起機能の低下といった性機能の症状です。あとは筋力の低下、疲れやすさ、意欲が湧かない。ホットフラッシュのような派手な症状は基本的に出ません。
それでも、重なっている部分は多い
ここからが本題かもしれません。違いばかり強調されがちですが、共通点もかなりあります。
まず、気分の落ち込み。女性では、更年期の移行期にうつ病と診断されるリスクが閉経前と比べて2.5倍になるという報告があります。ホルモンの絶対値そのものよりも、値が揺れ動くこと自体が関係している可能性が指摘されました。男性でも、テストステロンの低下は抑うつ気分と結びつきます。どちらも「性格の問題」でも「気の持ちよう」でもない。
次に、睡眠。女性は寝汗や中途覚醒に悩まされ、男性は睡眠の質が落ちて日中の疲労につながる。そして睡眠が乱れると、気分も代謝も引きずられて悪くなります。
そして、代謝と血管のリスク。ここは両者に共通する、いちばん見落とされやすいポイントです。アメリカ心臓協会は2020年に、閉経移行期が心血管疾患リスクの加速する時期であるという声明を出しました。内臓脂肪が増え、コレステロールのバランスが崩れ、血管の性質が変わる。男性でも、テストステロン低下は肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病と密接に関連することが繰り返し報告されています。
つまり、どちらの更年期も、単なる「不調の時期」ではなく、その後10年20年の健康を左右する分岐点なんです。
治療の考え方
女性ではホルモン補充療法が確立した選択肢としてあります。男性でもテストステロン補充療法という手段があり、心血管への安全性を確かめるために5,000人以上を対象に行われたTRAVERSE試験では、主要な心血管イベントについてプラセボに劣らないという結果が出ました。ただしこの試験でも、心房細動や急性腎障害、肺塞栓症などは投与群でやや多く、誰にでも安全というわけではありません。
日本では、症状に応じて漢方薬が用いられることもあります。いずれにせよ、ホルモンを補うかどうかは、症状の内容と検査結果、持病、年齢を総合して個別に判断するものです。
そして忘れられがちですが、運動、体重管理、睡眠の確保、禁煙といった生活習慣の改善は、男女どちらにも効きます。とくに男性の場合、肥満や生活習慣病を改善するとテストステロンが上がることは珍しくありません。
「年のせい」で片づけないでほしい
男女どちらの更年期にも共通する、最大の問題がこれだと思っています。
なんとなくだるい、やる気が出ない、眠れない、気分が晴れない。こういう症状は、本人も周りも「もう年だから」で済ませてしまいがちです。でもその裏に、甲状腺の病気や貧血、睡眠時無呼吸、うつ病、糖尿病が隠れていることは本当によくあります。
更年期かどうかを決めつける前に、まず他の病気がないかを確認する。順序としては、これが正しいです。気になる症状が続くようでしたら、一度ご相談ください。
参考文献
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- Late-onset hypogonadism: current concepts and controversies of pathogenesis, diagnosis and treatment, Huhtaniemi I. Asian J Androl. 2014 Mar-Apr;16(2):192-202. DOI: 10.4103/1008-682X.122336 要約: 男性更年期の総説。症状は非特異的で肥満や併存疾患の影響が大きく、厳密な基準を満たす真のLOHは40〜80歳男性の約2%にとどまることを論じている。
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- Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy, Lincoff AM, et al. N Engl J Med. 2023 Jul 13;389(2):107-117. DOI: 10.1056/NEJMoa2215025 要約: 心血管リスクを有する男性5,246人を対象としたTRAVERSE試験。テストステロン補充療法は主要心血管イベントでプラセボに非劣性だったが、心房細動や肺塞栓症等は投与群で多かった。
- Menopause Transition and Cardiovascular Disease Risk: Implications for Timing of Early Prevention: A Scientific Statement From the American Heart Association, El Khoudary SR, et al. Circulation. 2020 Dec 22;142(25):e506-e532. DOI: 10.1161/CIR.0000000000000912 要約: 米国心臓協会の科学的声明。閉経移行期に内臓脂肪増加、脂質異常、血管機能変化が進み心血管疾患リスクが加速すること、この時期が予防介入の好機であることを提言。
- Associations of hormones and menopausal status with depressed mood in women with no history of depression, Freeman EW, et al. Arch Gen Psychiatry. 2006 Apr;63(4):375-82. DOI: 10.1001/archpsyc.63.4.375 要約: うつ病既往のない女性を追跡した縦断研究。閉経移行期はうつ病診断のリスクが閉経前の2.5倍となり、ホルモン値の変動幅自体が抑うつ気分と関連することを示した。
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院長 有光潤介